「障がいや病気などで身体に不自由がある人々も、健常者と同じ選択肢の中から服を選び、ファッションを楽しめる社会を創る」。このようなビジョンに基づいた希有なサービス、「キヤスク」が今年(2022年)3月からスタートした。キヤスクは障がいや病気がある人に向けた既製服の「お直し」サービスのサイト。当事者から服を預かり、身体の状態に合わせて外部協力スタッフ(「キャスト」と呼ぶ)がお直しを実施する。2021年に実施したクラウドファンディングでは各所から注目を浴び、276人の賛同者から400万円以上の資金を得た。創業者である前田哲平氏に、サービスを通じて狙う「だれもが着たい服を着られる社会」の姿を聞いた。

衣食住と言われ、人間にとって最も基本的な要素である衣服。今年(2022年)3月から、この衣服について希有なタイプのお直しサービスを行うWEBサイトがオープンした。「キヤスク」は、障がいや病気・けがなどで身体を動かしにくい人に向けた、既製服のお直しサービスサイトである。「キャスト」と呼ぶ外部協力スタッフが、利用者の希望に応じて服のお直しを実施する。

お直しの内容は、例えばプルオーバーの肩を開いてサイドファスナーを付け着脱しやすくする、ボタンの裏側に面ファスナーを付けて片手でも止めやすくする、ズボンの臀部を柔らかい素材に交換する、といったものである。それぞれ、身体の可動域に制限がある人、指先を使った作業が難しい人、車椅子ユーザーなどには有用なお直しだ。

キヤスクのお直しで、左はかぶりのTシャツを前開きにして脱ぎ着をしやすくした例。右はトップスを肩開きにした例(出所:キヤスク)
キヤスクのお直しで、左はかぶりのTシャツを前開きにして脱ぎ着をしやすくした例。右はトップスを肩開きにした例(出所:キヤスク)
こちらはボトムスのお直しの例。左はデニムパンツの褥瘡(じょくそう)対策として、臀部を肌にやさしい素材に替えた例。右はズボンを横開きにした例(出所:キヤスク)
こちらはボトムスのお直しの例。左はデニムパンツの褥瘡(じょくそう)対策として、臀部を肌にやさしい素材に替えた例。右はズボンを横開きにした例(出所:キヤスク)

「障がいや病気などで服に不自由を感じている方は、着たい服を着られるという当たり前の思いを実現できない状態にある。このような方々の課題を解決したく、ご本人が着たい既製服をお直しするサービスをつくるに至った」。こう語るのはキヤスクの創業者、前田哲平氏である。

前田氏は、「ユニクロ」ブランドを展開するファーストリテイリングに勤務していた時に、障がいがある人々の服に関する困り事について調査を開始。約3年をかけて、800人を超える当事者や介助者へのインタビューを実施した。その後、障がいや病気と服にまつわる課題を解決したいと決意し退職。2021年に独立・起業し、この春にキヤスクのサービスインに至った。

前田哲平(まえだ・てっぺい)氏
前田哲平(まえだ・てっぺい)氏
コワードローブ代表。1998年に大学卒業後、銀行勤務を経て2000年8月に「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングに入社。店舗運営・新規事業開発・販売計画・生産計画・経営計画・EC運営に従事。2018年から2020年にかけて、800人以上の障がい・病気の当事者や周囲の人々にヒアリングを実施し、服に関する様々な工夫や悩みを調査。2020年9月にユニクロが販売開始した前開きインナー商品開発プロジェクトにも携わり、「子ども用ボディスーツ」の商品化を発案。同商品はSNS・Webニュース・TVなどで大きな反響を呼んだ。また、全国のユニクロ店舗で障がい者や高齢者がより買物しやすい環境改善に取り組む全社プロジェクトを立ち上げた。2021年1月にコワードローブを設立、2022年3月にお直しサービス「キヤスク」を開始した(写真提供:同社)

日本の身体障害者の数は436万人。全人口の3.4%に当たり、決して無視できない率である。服の着脱に困難を感じるであろう病中・病後の人や高齢者を入れるとさらに増える。今後高齢化が進むことを考えると、利用者の潜在的な裾野は広い。

キヤスクは社会的意義や事業としての潜在的な可能性が注目を浴びている。2021年にサービスの立ち上げのために実施したクラウドファンディング「CAMPFIRE」上での資金調達は、276人の賛同者を得て目標額の400万円を達成した。また、ソーシャルビジネスを審査する「YY ビジネスコンテスト」では、2021年度のグランドチャンピオン(最優秀賞)を受賞している。

※ ソーシャルビジネスの普及活動を進める九州大学ユヌス&椎木ソーシャル・ビジネス研究センター(SBRC)が開催しているもの。

人間にとって絶対に必要な衣服は、実用性もさることながら、好みの服が着用できることの心理的な効果は大きい。身体がどんな状態にあっても、自分が着たい服を着やすく加工できるサービスがあるのは、心の支えになるはずだ。

前田氏に、「着たい服を着る日常を、すべての人に。」を掲げるキヤスクの裏にある考え方と、キヤスクを通じて狙う社会の在り方を聞いた。