ネットショッピングで買った服や靴が、どうも身体にあわず、具合が悪い。サイズを良く見て買ったはずなのに…。こんな経験はだれにもあるだろう。ただ、こうした場面は近い将来、ほとんど目にしなくなるかもしれない。数ミリほども誤差のない全身のサイズを手軽に計測し、どこの業者・店舗でも利用できるようになるからだ。そしてその基盤は、衣服のための採寸だけでなく、健康管理など他の場面でも威力を発揮する。

身体に触れることなくサイズを測ったり、形状を識別したりする3次元(3D)計測や3D認証。これからの社会を変えていくテクノロジーの一つである。

代表例の一つが、米Appleが2017年9月に発表した特別モデルのスマートフォン「iPhone X」に実装された「FaceID」だ。FaceIDは、「True Depthカメラ」を搭載することで実現した顔認証。カメラと一緒に搭載した極小プロジェクターから投射する光を使い、利用者の顔の3万カ所ほどの位置を測定。これを座標化することで顔の凹凸を識別する。

これに似た仕組みで人体のサイズを測る3D計測が、少しずつ広がり始めている。例えばヘアコンサルタント企業のアートネイチャー、スポーツウエアメーカーのアシックス、ファッションブランドのナノ・ユニバース、補正下着メーカーのDiana。これらの企業は、スペースビジョンというベンチャー企業が提供する人体の計測ソリューションを採用している。スペースビジョンは、名古屋工業大学と慶應義塾大学での研究成果をベースに立ち上がった企業である。

スペースビジョンの佐藤幸男社長

同社が提供するソリューションは、人の全身を3D計測できる「3D Body Scanner」である(写真1)。約1.5メートル四方の場所に、CCDカメラとプロジェクターを埋め込んだ3本のポールを三角状に設置。それぞれのプロジェクターから中央に立った対象物(人)にレーザー光を照射し、反射した光をカメラで撮影する。こうしてレーザー光を反射した体表の位置情報(空間座標)を計測し、このデータに基づいて、特定の座標間の距離を計算することで、肩幅や胸囲といったサイズを算出できる。

(写真1)3D Body Scanner
3本のポールに内蔵した3Dカメラで、ポールに対する人体の位置情報を測定し、そこからサイズを算出する。

使い方は難しくない。店舗などにスキャナーを設置して、パソコンやスマートフォンの専用アプリから撮影指示し、所定の位置に立って、カウントダウンに合わせて身体を静止させればいい。からだにピッタリした服装、あるいは裸で測定する必要はあるが、スキャナーはポータブルで、平らで一定のスペースさえあれば測定できる。実装の仕方とデザイン次第だが、例えば家庭内に家具のようにして設置することもできるだろう。そうなれば、ヘルスメーターさながらに、日々の体型をデータで管理できるようになる。

動かずにいられるわずか0.5秒の間に計測

最近は土木/建設などでも、3D測量がよく使われる。ただこれは、あくまでも土地の面積や高さなど、静止しているものの計測で、人や動物など、常に動いているもののサイズを厳密に把握するのには向かない。

人体の計測を目的としたソリューションも、スペースビジョンの選択肢もある。代表例はStyku、VITRONICなど。海外ベンダーで競合は、カナダのUnique Solutions Design、オーストラリアのmPort Ptyなどがある。米Scaleが2018年の販売を目指して開発中の「ShapeScale」もある。ただこれらは概ね、計測点の数は少なく、計測時間も数秒以上はかかる。

これに対してスペースビジョンがこだわったのが、撮影時間の短さである。「人が直立した状態で静止しているとみなせるのは0.5秒まで」と言われる。いくらレーザーでの測量精度を高めても、撮影に時間がかかってしまうと、ブレが生じ、精度が落ちることになる。

3D Body Scannerの最大の特徴は、全身100万カ所の座標を、わずか0.5秒で測量できる点。このスピードが精度に結びついている。産業技術総合研究所(産総研)に測量精度の評価を依頼したところ、誤差は最大で2mm以下という結果が得られた。実際の人手による採寸では、どの位置を測るかは担当者の感覚に依存しているため、同じ担当者が同じ顧客を対象に複数回採寸するだけでも差が生じる。これを考えると、十分に許容範囲内と言えそうだ。

分かりやすい用途は、自分の身体にぴったり合う衣類を仕立てたり、選んだりするにあたっての採寸。このデータがあれば、別の店舗で購入する際に、わざわざ採寸し直す必要はなくなる。店舗側がデータの読み取りに対応すれば、海外の店舗・メーカーでも、採寸することなく自分にピッタリの衣服をオーダーできる。

実際、スペースビジョンでは測定したデータを同社が運営するクラウドに登録し、本人ならどこからでもアクセスできるようにしている。併せて、ユーザーのリクエストに基づいて店舗側でクラウドのデータを参照できるように、店舗向けにAPI(Application Programming Interface)を提供している。

もちろん、オンラインショッピングで商品を購入する場面にも活用できる。商品が手元に届いてみると、身体にフィットしないといったケースは決して珍しくない。オンラインでの商品購入がこれほど日常に浸透しているにもかかわらず、この問題はほとんど改善されていないのが実情だ。オンラインショッピングで詳細なサイズを示し、3Dスキャナーを組み合わせれば、こうしたトラブルは解決できるはずだ。