住民を見守る街。高齢化に伴う諸問題を主なきっかけとして、こんなまちづくりが広がりつつある。多くは何らかのウエアラブルデバイスやスマートデバイスを活用したものだ。ただ、それよりももっと、街のインフラごと変えていこうという取り組みがある。奈良県立医科大学を中心としたエリアで動き出している。


「なんだか急に胸のあたりが苦しくなってきたんですが・・・」
「わかりました。○○○のあたりですね。ご自宅からだいぶ離れていますね。近くにどなたかいらっしゃいますか?助けを呼べないようなら、そのままそこでお待ち下さい。そこまで迎えに行きますので」

「あまり見かけない人が、このあたりをずっとウロウロしているんです。見たところ、観光客ではありません。大丈夫でしょうか」
「でしたら、その周辺のパトロールを強化するようにします。その人の特徴を、もう少し詳しく教えて下さい。それから、あなたは騒ぎ立てないで、できるだけその場から離れてください」

「大きな地震がありました。津波が来る可能性があります。急いで避難してください。あなたが今いる場所から一番近い避難所は、こちらです」

そこで暮らす人々や旅行者を見守る街があったら、こんなイメージだろうか。街を歩く人々を見守り、異常があればその人の居場所を把握し、道を案内したり、急病人を助けにいったりする。

実は、こうした社会づくりに挑戦している地域がある。奈良県橿原市だ。防犯・防災から、高齢者や児童の見守り、外国人旅行客向けのサービス向上まで幅広い視野で、ICTを駆使したまちづくりを推進している。起点になっているのは医療で、街そのものが地域住民や街の様々な情報を集約し、未病対策、健康維持、さらには街の安心・安全を実現する。

高齢者などの見守りに関しては、近年、様々なサービスが登場している。代表的なのは、ビーコンを使って見守り対象の位置・移動情報を把握できるようにするサービスだ。こうしたサービスを採用する自治体、施設も出てきている。その中にあって橿原市の例は、見守り対象の位置把握、観光客向けのサービス、防犯・防災、住民の健康管理、コールセンターや病院などとの連携といったものを合わせた総合的な取り組み。これから先の代表的な社会デザインになりそうだ。

街中の自販機に各種機能を埋め込み

プロジェクトの中心になっているのは奈良県立医科大学の附属病院。同病院は、全国に80件しかない、すべての科の担当医がそろう特定機能病院の一つである。その学長である細井裕司氏は、かねてから「医学を中心とした街(MBT:Medicine-Based Town)づくり」を目指してきた。奈良医大病院の近隣には、ほかにも優秀な医師がいる専門病院がいくつもある。これらを連携させて快適に暮らせる環境をつくるとともに、医学を起点とした産業創出を進めていくことがMBTづくりの狙いである。

きっかけは奈良医大のキャンパス移転。現在のキャンパスからそう遠くない場所に、2021年までに新キャンパスを建設する。この移転に合わせて、大学跡地と、今井町を含む周辺地域で、新たなまちづくりを推進する。そのために奈良医大がエリアマネジメントを推進。2016年に入って、橿原市の中で「重要伝統的建造物群保存地区」に指定されている今井町にモデルルームを設置。さらに周辺地域に拡大しようとしている(写真1)。

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(写真1)奈良県・橿原市の今井町
今井町は江戸時代以前の町並みが残る「重要伝統的建造物群保存地区」。ここから、新たなまちづくりが始まる。写真は橿原市のWebサイト。