違法民泊の排除を目指して2018年6月に施行された民泊新法。これを受けて仲介物件の数が落ち込むとともに、一部の政治家などのネガティブキャンペーンが発生したことで、民泊業界は勢いを失ったかに見えた。しかし、シェアリングエコノミーという時代の要請は根強い。さらに新法施行の過程で、民泊側は利用者目線の重要性を改めて認識。古民家再生を含め、民泊をベースにした地域資源づくりが加速しようとしている。

どの国でも、ルールができてから市場が成長していく――Airbnb

民泊プラットフォームの第一人者とも言えるAirbnb。2008年に米サンフランシスコで創業してから急成長を果たし、現在は世界191カ国でサービスを展開する。日本市場参入は2014年5月のことだ。

一方で、国内で民泊市場が急激に立ち上がる中で、旅館業法の許可や特区民泊の認定を受けていない「違法民泊」が乱立。各所でトラブルを引き起こすなど、一時は社会問題ともなった。そこで2018年6月に施行されたのが、「住宅宿泊事業法」(民泊新法)である。

Airbnbでも民泊新法の届出番号登録を厳命し、違法民泊を一掃した。公共政策本部長を務める山本美香氏は「違法物件撲滅は重要。ルールが明確になったことはホストや我々にとっても非常にプラスになった」と語る。

Airbnb 公共政策本部長 山本美香氏

世界を股にかけるAirbnbには、各国の事情が集約されている。山本氏は「諸外国でも途中でルールが新設されたケースは多い。面白いことにどの国でも、ルールができてからそれに合わせて市場が成長していく流れをたどっている」と説明する。この事実は、日本の民泊市場にとって、明るい未来を示唆する。

民泊新法は同時に、市場の捉え方の点で関係者に気付きももたらした。日本では“オリンピックが来て宿泊先が足りなくなるから民泊が必要”といった事業者視点の論点が多く、旅行者視点での新しい旅のニーズに対する議論がほとんどなかったことだ。日本が観光立国を目指す中では、「旅行者が求める多様性への対応・配慮は不可欠」(山本氏)。民泊新法によって市場を見つめ直す機会が生まれたことの効果といえよう。

こうしたことからAirbnbでは、新法施行を機に、「新しい旅の提案」「地域の活性化」「個人の活躍」の3要素を取り込んだエコシステムをテーマに掲げるようになった。2018年9月、新法施行後初となる大規模プロモーションでは「いろんなわが家に旅しよう」と名付けたキャンペーンを実施。地域の特色や、そこでしかできない体験価値を打ち出し、従来の民泊のイメージを刷新しようとしている。「ユニークな体験をしたい人がAirbnbを選ぶ傾向が強い。地域に個性的なホストが生まれれば観光客は分散する」として、山本氏は兵庫県・淡路島に暮らす85歳のシニアホストの例を挙げた。

Airbnbのプロモーションビジュアル。旅行者目線での「わが家」をアピールする

「息子さんがAirbnbのやり取りをして、お母さんが受け入れる。庭でのバーベキューが名物で、外国ばかりではなく日本からも数多くの観光客が訪れる。しかもミレニアル世代(1980年代~1990年代後半生まれ)が多い。そしてホストは若い世代から元気をもらう。同じようなムーブメントが日本中に広がるといい」(山本氏)

民泊の新たな可能性は、地方創生の動きともリンクする。Airbnbは2016年10月に岩手県釜石市と、2017年10月には島根県・鳥取県による山陰インバウンド機構と、それぞれ提携。釜石市ではラグビーワールドカップ2019の会場でもある「釜石鵜住居復興スタジアム」のこけら落としにあわせ、釜石シーウェイブスの桜庭吉彦監督と一緒にラグビーボールのキック体験を盛り込んだツアーを企画した。「キック体験はこけら落としの翌日だったため、それを見ようと延泊した人がたくさんいた。地域と一緒になって体験型の旅を提供していくことは、地方創生にも大きく寄与するはず」と山本氏は話す。

こうした取り組みが日本各地で生まれれば、 “ファン”が増える。「スポーツのメガイベントは国がやっているイメージが強く、個人には縁遠い感覚になりがちだが、自分がホストになって宿泊先を提供すれば、ともに盛り上げられるのではないか」(山本氏)。山本氏自身、かつて釜石市のシニアホストに手厚くもてなされ、彼の地の虜になった経験がある。同社が掲げる3要素は、今後の民泊を切り開く原動力となりそうだ。