環境に優しく、限りある資源を有効に――。「サステナビリティ」は、どの企業にとっても見過ごせないキーワードになりつつある。そんな中、花王が新たな界面活性剤(洗浄基剤)の開発に成功した。食用油脂と競合しない植物由来材料を使いつつ、少量でも高い洗浄力を発揮する。世界的に都市化が進んでも環境に優しい洗剤を供給できる可能性が高まった。身近にある、画期的な社会デザインだ。

発達した都市では、人々は日常的に衣類を洗濯し、食器を洗い、体を洗う。その排水は下水道に流れ出て、不純物除去など排水処理を施したのち、再び河川に、そして海に戻っていく。

このため花王をはじめとする洗剤メーカーは、以前から植物由来の原料の活用に努めてきた。例えば洗剤の主成分である界面活性剤では、アブラヤシから抽出した油が使われてきた。植物由来であり、排水に含まれていても自然に分解されるため、環境には優しい。

ただ従来は、植物由来の原料といっても、実際に使えるのはアブラヤシ系のごく一部の素材に限られていた。これでは、世界中で都市化が進み、人口増加とともに消費が拡大していくと、原料のサステナビリティを担保できなくなる可能性がある。このため界面活性剤業界では、新たな植物由来材料の開発が大きなテーマだった。

こうした中で花王は、10年来の挑戦の末、新しい植物由来原料を使った界面活性剤を開発し、2019年4月、これを基剤とする洗剤「アタックZERO」を発売した。

わずか5%の原料を取り合う“非持続的”な構造

界面活性剤は広く衣料用洗剤、台所用洗剤、シャンプー、ボディソープなどの主成分として利用されている。水になじみやすい部分(親水基)と油になじみやすい部分(親油基)から成り、「水と油の間=界面」に吸着することで、本来は混ざらない水と油を混ざるようにする分子種を指す。これがあるから、水で汚れを落とす“洗う”という行為が成り立つ。

洗浄系界面活性剤では、一般的に親油基の炭素数は12~14(C12~C14)が適切とされる。この原料となるのは植物油脂のラウリン系油脂である。これはヤシ油やパーム核油から産出される。ヤシ油やパーム核油以外の天然油脂原料はあるにはあるが、親油基の炭素数が16~18(C16~18)で油にはなじみやすいが、水には溶けにくくなり、界面活性剤としての性能を得にくかった。このため、事実上、界面活性剤の原料はヤシ油やパーム核油に限られていた。その割合は世界の天然油脂原料のわずか5%ほど。この貴重な原料を世界各国のメーカーが分け合っている格好だ。

国連の推計によれば、2050年には世界の人口が2018年の1.3倍になり、都市部人口は68%にも達すると予測されている。都市部にやってきた人たちの生活水準は高度化し、今とは比較にならないほどの生活洗浄の増加が目に見えている。だがパーム核油の元となるアブラヤシはインドネシアとマレーシアのプランテーションで栽培されているものが世界的に見てほぼすべてで、生産量の大幅な増加は期待しにくい。

欧州では早くから界面活性剤のサステナブルな将来像が取り沙汰されてきた。1974年には業界団体の会合としてCESIO(世界界面活性剤会議)が設立され、以降、定期的に課題を話し合っている。一方、国内洗剤メーカー大手の花王でも同様に、この未来に大きな危機感を抱いていた。そこで研究を重ね、サステナブルな界面活性剤を標榜する「バイオIOS」が誕生した。

開発に携わった花王 マテリアルサイエンス研究所 主席研究員の坂井隆也氏は2008年からCESIOに参加し、サステナビリティに対する欧州各国の意識の高さに衝撃を受けた。「これからは可能な限り少量で最大の効果が得られる界面活性剤、そして安定供給と低競合性を両立する技術にシフトしていかなければならない。SDGsが叫ばれるこれからの時代ではなおさらだ」。バイオIOSに取り組んだきっかけを坂井氏はこう話す。

花王 マテリアルサイエンス研究所2室 主席研究員 坂井隆也氏(写真:小口正貴)