超高齢社会を迎える中で、人の移動をいかに安全かつ快適に実現するかが大きな焦点となっている。「若い時のように身軽に移動はできない。それでも移動はしたいし、その体験自体を楽しみたい」。そう考えるシニア層を主な対象として、新しい取り組みが進行中だ。全日本空輸(ANA)とパナソニックが進めている「パーソナルモビリティ」の実証実験の様子を見てみよう。近未来のモビリティの一つの形態が示されている。

全日本空輸(ANA)とパナソニックが、新しいモビリティ体験の実現に向けてタッグを組んだ。両社は、成田空港で新しい移動手段を活用した航空機の乗り継ぎに関する実証実験で協力する。

実証実験の内容は、空港内の移動ルートが複雑で、時間も限られており、かつ移動距離が長くなりがちな国際線の乗り継ぎをパーソナルモビリティ(自動追従電動車椅子)で支援するというもの。この2019年1月から実証実験を順次開始している。

このパーソナルモビリティは、パナソニックが車椅子ベンチャーのWHILLと提携し共同開発を進めている。人や物との衝突のおそれがある場合に自動停止する機能、他のパーソナルモビリティと連携して複数台で移動できる追従走行の機能などを備えている。

ANAが成田空港での実証実験で使う「パーソナルモビリティ(自動追従電動車椅子)」の外観。パナソニックが電動車椅子の開発・販売を手がけるWHILLと提携し、共同開発を進めている。車両の基本機能はWHILLが開発し、センサーや自動追従の仕組みなどはパナソニックが開発を担当。重量は75kg、最大搭載重量は100kg(うち車両後部の手荷物台は10kg)、最高速度は時速4km

高齢者の空港内移動を安全にかつ快適に実現

「成田空港では国際線の乗り継ぎをされるお客様から、車椅子のご利用希望が増加していた。このような現場での気付きが、今回の実証実験に至る着眼点の一つだった」。このように語るのは、ANAでイノベーションの推進を担当している鈴木謙次氏(企画室イノベーション・KAIZEN部担当部長兼イノベーション戦略チームリーダー)である。

ANAによれば、ベトナムから北米への乗り継ぎの場合、1便当たり30人ほどの利用希望者が出る。現状、空港内における車椅子での移動は、1台につきANAのサービススタッフが1人担当し案内する。

車椅子の利用希望者に調査したところ、希望者は高齢の乗客が目立ち、確実に乗り継げるかどうかが不安であるため車椅子の利用を希望していることが分かった。

さらにその背景を調べると、大きく4つの要素が見えてきた。(1)自身の体力上の心配があること、(2)手荷物を抱えた状態での移動の負担が大きいこと、(3)乗り継ぎまでのルートが不慣れであること、(4)海外の乗客の場合は言語が不慣れであること、である。

そこでANAが着目したのがパーソナルモビリティだった。「パーソナルモビリティを使うことで、高齢のお客様が抱く不安要素を取り除きつつ、安心でき、安全で、かつ快適な乗り継ぎをサポートできるのではないかと考えた」(ANAの鈴木氏)。

ANAでイノベーションの推進を担当している鈴木謙次氏(企画室イノベーション・KAIZEN部担当部長兼イノベーション戦略チームリーダー)。「パーソナルモビリティで、高齢のお客様が抱く不安要素を取り除きつつ、安心・安全、かつ快適な乗り継ぎをサポートできると考えた」と語る

ANAがパーソナルモビリティを採用した理由は大きく2つある。各種の安全機能を備えていることと、快適な乗り心地を追求していることである。「多くの人が行き交う空港においては安全機能は必須だが、パーソナルモビリティという新しい手段を適用することで、お客様に新しい移動体験を提供できるという可能性にも着目した」とANAの鈴木氏は語る。

パーソナルモビリティには今回の実証実験のために、ANA空港スタッフ用のコントローラ(写真でスタッフが手に持っている白い機器)、レーザセンサーと追従用反射板、乗客が操作するためのスマートフォン、手荷物台(写真においてはキャリーバッグが乗っている部分)、手押し用のハンドルなどを追加した
スマートフォンは乗客が気分が悪くなったときにスタッフに知らせる用途などで使う。実用化した際にはフリートマネジメント(車両管理)システムの端末として適用することも検討しているという。車両管理システムを導入すると、空港内のどこでパーソナルモビリティが稼働しているかが一元的に把握でき、運用性が増す