働き方改革が叫ばれ、オフィスをより機能的で心地よく作り変えようとする企業が増えている。そんな中、過去1年半で1500社もの企業が見学に訪れたというオフィスがある。ITサービス企業のPhone Appli(フォンアプリ)が2018年2月に設けた自社オフィスだ。「CaMP(キャンプ)」と呼ぶこのオフィス、自然を意識させるデザインや、フリーアドレス化したオフィスの外観がまず目立つ。だが肝心要は、目標管理制度やITなどの「裏」の仕組みだという。印刷・広告・物流シェアリングのラクスルが導入した「オフィス家具のサブスク」と併せて、オフィス改革の動きを追う。

ワークプレイス(働く場)の見直しに注目が集まっている。オフィスをより機能的で心地よく作り変えることで、社員の生産性やモチベーションの向上、ひいては従業員満足度向上も狙おうというのが趣旨である。

数あるワークプレイス改革手法の中でも、成功例と失敗例の両方が聞こえているのがフリーアドレス化だ。固定席をなくすことで、社員のコミュニケーションの活性化、設備コストの削減などが狙える一方、集中力が削がれる、部下に目が行き届きにくい、といった問題で頓挫するケースも少なくない。

フリーアドレスを導入しながら効果を上げているユニークなオフィスをレポートしよう。ITサービス企業・Phone Appliが2018年2月に設けた自社オフィス「CaMP(キャンプ)」だ。東京・神谷町のビル内にある。過去1年半で1500社もの企業が見学に訪れたという。

Phone Appliの本社オフィス「CaMP」の様子。エントランス付近からオフィス内を見た。画面中央にある構造物はアウトドア用品大手・スノーピーク製の大型テント

CaMPという名称には対面(Meet)で会い、コラボレーション(Collaboration)する場所(Place)=「Collaboration and Meeting Place」という意味が込められている。

Phone Appliでマーケティングを担当している北村隆博氏は、「技術的にはリモートワークが十分可能な時代。それだけに、オフィスで働くことの意味が改めて問われている」と語る。「『ここに来れば仕事がしやすい』『ここに来れば仕事仲間とコミュニケーションしやすい』という場所にしようということで、経営トップの肝いりで作ったのが、この自社オフィスだった」(北村氏)。

Phone Appliの北村氏

約900㎡あるCaMPの最大の特徴は、名前が示す通りに自然をコンセプトにした空間づくりだ。

まず、観葉植物をふんだんに取り入れた。緑視率(視界における観葉植物などの占有率)が上がると、人のストレスは減る傾向にある。CaMPではデジタルサイネージでの自然の投影も含めて最大25%を確保しているという。またオフィス入り口付近では自然音を流し、アロマによる香りによる演出も施している。

さらには、アウトドア用品大手のスノーピークと提携してキャンプ用品も取り入れた。オフィス家具に比べて比較的安価なキャンプ用品を要所で採用、これによりコストを抑えつつ、空間の自由度が高いオフィスを実現した。

「CaMP」オフィスの鳥瞰図(出所:Phone Appli)

「Park」というゾーンには、壁面に映すタイプのサイネージと共に、スノーピーク製のキャンプ用椅子や机を配置した。北村氏は「ここで全社ミーティングやイベント、セミナーを開催するのだが、キャンプ用品なので手早く配置を変更できる。これはシンプルだが非常に大きなメリットだ」と語る。

「Park」ゾーンの様子。スノーピーク製の家具でオフィス空間を作っている

オフィス空間の中央には大型テントを設置。このテントをミーティングスペース、個別のプロジェクト用ブース、家族向けのオープンデイには子どもたちが遊ぶ場に使ったりしているという。

中央に設置した大型テント。時と場合に応じて使い分ける。「個室として空間を区切れるうえ、通常のパーティションに比べて移動も比較的楽」(北村氏)

「Fami-ress」ゾーンは、その名の通りファミリーレストラン風の配置だ。少人数の打ち合わせやグループワークが進めやすい空間とした。「Lounge」と呼ばれる飲料・休憩ブースには背もたれの低いソファを配置し、「会話や情報交換が生まれやすい空間」(北村氏)として構成している。

先に触れた「Park」ゾーンから「Fami-ress」ゾーンを見る(奥側の空間)

一方、「1on1 Booth」ではプライバシーに配慮した。1on1とは上司と部下によるミーティングのこと。上司と部下の意思疎通を促すとして、近年その経営効果が注目されている。2つの1on1専用ボックスが設置されており、ボックス内での会話は外には漏れない。

「1on1 Booth」の専用ボックス。内部で1対1のミーティングができる

このボックス内にはマイクが設置されている。これと村田製作所が開発したセンシング技術を組み合わせて、上司と部下の会話量の比率を社内システムで分析できるようにした。「上司ばかりがしゃべってしまうティーチングから『部下の話をしっかり聞く』というコーチングへと修正しやすくなる」(北村氏)。

オフィス、制度、ITの3つがそろっているから機能する

このCaMPをただ訪問すると、オフィスの外見的な特徴ばかりに目が行きがちだが、実は「裏の仕組み」がポイントだという。北村氏は「このオフィス空間を機能させるうえで欠かせないのが、『制度』と『IT』という2つの要素。オフィス、制度、ITの3つがそろっているからこそ、このCaMPがうまくいっている」と強調する。

Phone AppliではCaMP内のフリーアドレスと共に、自宅などでも仕事ができるリモートワークを取り入れている。このような一連のオフィス改革・働き方改革を成功させるためには、「経営層が指し示した事業の方向性と、それを実行に移す社員の意識という両方をうまく結びつけるための工夫が不可欠」(北村氏)だと言う。

「場所にとらわれない働き方を機能させるためには、従来型のオフィス以上に、経営の方向性を社員が十分理解できるようにし、上司と部下の信頼関係を醸成する必要がある」(北村氏)。それが確立できていない場合、上司は常にオフィスで部下の様子を見ていないと仕事の進捗が把握できない。仕事がうまく進められず破綻し、新しいオフィスの在り方そのものが形骸化する。

制度面での工夫は複数あるが、代表的なのが目標管理の手法である「V2MOM」と、先にも挙げた1on1だ。

V2MOMとは米セールスフォース・ドットコムの創設者であるマーク・ベニオフ会長兼co-CEO(共同最高経営者)が考案した手法で、これが同社の成長を支える一因とされている。最大の特徴は、経営者が打ち立てた経営ビジョン、乗り越えるべき課題、仕事の達成度合いの判断基準といった項目をベースに、社員一人ひとりも同じように、それぞれが目指す目標、課題、仕事の達成度合いの判断基準などを明確にする、というものだ。

これをうまく使うことで、経営者と社員双方にメリットが出てくる。経営者は企業のビジョンやミッションを社内に浸透させやすくなる。また社員にとっては、自分の仕事が会社の方向性とどのように合致しているのかが理解しやすくなるため、日々の仕事で何をすれば会社の業績に貢献するかが明確になる。仕事へのモチベーションも維持しやすい。

[画像のクリックで拡大表示]
Phone Appliによる「V2MOM」の一例。社長が打ち立てたV2MOMをベースに、部下がV2MOMを立てる(出所:Phone Appli)

一方の1on1ミーティングでは、上司と部下との間で意図的に顔を合わせる機会を設ける。基本的には週に1度の頻度、1回30分の長さで実施し、先の1on1専用ボックス内で、上司が部下の話を聞く。部下の調子や様子を確認し、仕事上の相談に乗り、オンラインではやりづらい意思疎通や信頼関係の醸成を図る。

「週に1度でも顔を合わせる機会があれば、部下がオフィス内外のどこにいたとしても、上司は仕事ぶりを把握できる。また、部下も安心感を持ったうえで日々の仕事を進められる」(北村氏)。

ITも重要な要素だ。Phone Appliでは社内外の電話帳をクラウドで一元管理するシステム、フリーアドレスのオフィス内で社員の居場所を特定し共有するシステム、顧客からの連絡を社内で共有するシステムを使っている。これらのシステムにより、「社員の居場所にかかわらず適切なコミュニケーションが取れるようになっている」(北村氏)。

[画像のクリックで拡大表示]
社内のコミュニケーションシステムの画面例。相手のステータス(状態)に応じて、メール、チャット、電話など複数の連絡手段から適したものを選択できる。なおこのシステムは「連絡とれるくん」として外販している(出所:Phone Appli)