VR(仮想現実)というと、ゴーグルを装着し、視覚や聴覚から得られる情報で仮想空間を疑似体験することをイメージするかもしれない。しかし、もはやVRは視覚・聴覚だけに依存するものではなくなりつつある。身体への刺激で体感するVRや、嗅覚を使ったVRの研究も進んでいる。特に興味深いのが触覚で仮想的な体験ができるVRだ。エンターテイメント分野での活用はもちろん、医療や製造業などいろいろな分野での活用が期待されている。

人が外界から得る数々の情報は、その8割以上が視覚を通じたものだと言われる。これに聴覚による情報を加えることで、実体験にかなり近い仮想体験を実現できる。こうして仮想空間に自分の体が存在しているように錯覚させるのが、今のVRである。

とはいえ、視覚と聴覚だけでは、情報量を増やしていったとしても、“リアルさ”の点では限界がある。そこで注目できるのが、視覚と聴覚以外の感覚を取り込んだVRだ。そのためのデバイスの開発も進んでいる。

”没入”から”身体で感じる”へ進化する

東京大学発のベンチャー企業H2Lが開発した「UnlimitedHand」は、腕に巻いてVRゲームの操作に使ったり擬似的な触感が得られるも触感型ゲームコントローラだ(写真1)。ユーザーの腕に巻かれた装置が発する機能的電気刺激が、筋肉を収縮させて体感を与える。機能的電気刺激とは、低周波電気マッサージ機を付けているようなもの。また、腕に巻かれた装置に内蔵されたモーションセンサーと筋変位センサーアレイがユーザーの動きセンシングして、VR空間に置かれた体の動きにリンクさせる。これらによって、ゲーム内の衝撃を感じたり、キャラクターを触ったりする感覚を得ることができる。

(写真1)H2Lの触感型ゲームコントローラ「UnlimitedHand」 右は開発者向けのキットで、ArduinoやUnityなどの開発用プラグインが用意されている。(H2Lのホームページより引用)

ドイツのポツダム大学にあるHasso Plattner Instituteが研究している「Impacto」では、触覚刺激と電気的筋刺激を組み合わせることによって物理的な衝撃をシミュレーションする。例えばボクシングのVRでは、アバターからパンチを受けた瞬間に腕に小さな衝撃を与えると同時に、筋肉に電気的な刺激を与えて強制的に腕を引き寄せる。これによって、痛さは感じないが大きな打撃を受けたように感じるようになる(写真2)。ほかに、サッカーボールのリフティングやバットでボールを打った時の衝撃なども再現できる。

(写真2)Hasso Plattner Instituteが研究している「Impacto」   ボクシングやサッカー、野球などのスポーツで受ける衝撃を再現する。(Hasso Plattner Instituteのホームページより引用)

米国のベンチャー企業Machinaが開発した「OBE(Out of Body Experience)」は、着用して体でフィードバックを感じるジャケット(写真3)。ジャケットに組み込まれたマイクロモーターの振動によって体感を与える。また、加速度センサーや温度圧センサーなどさまざまなセンサーモジュールによって体の状態をセンシングして、VR空間に置かれた体の動きにリンクさせる。モジュールを取り外せば水洗いも可能。VRゲーム用に特化して開発され、ジャケットは2016年中の製品化を目指している。その他にも、パンツやグローブなども開発予定である。

(写真3)MachinaのVR体感ジャケット「OBE」   ジャケット以外にもパンツやグローグも開発中で、すべて身に付ければ全身でVRの体感が得られるようになる。(Machinaのプロモーション映像より抜粋)

以上のように筋肉を刺激するVRによって、スポーツ選手の筋肉の動きやバイオリニストの手や腕の動きまでも再現できるようになる。これらの用途は単純な仮想体験にとどまらず、例えばスキル向上のためのツールとしての利用も期待されている。