福島県は地域資源である再生可能エネルギー(再エネ)を活用したまちづくりを目指して、急ピッチで整備を進めている。中でも先端を行くのが中核都市の郡山市だ。持続的発展が可能な脱炭素社会の実現に向けて、広域的なエネルギー管理システム(EMS)を構築しようとしている。

郡山市の推進する「防災環境型EMS」プロジェクトは、市が所有している太陽光発電、蓄電池などを東北電力のVPP(仮想発電所)技術を活用し事業化検証するものだ。災害時に自前の電力エネルギー供給システムで運用し、災害拠点施設の電源を確保しようというのが狙いである。VPPの先にあるのは、郡山市を中心に近隣自治体が連携した、いわば広域エネルギー経済圏の構想だ。防災環境型EMSをめぐる郡山市のプランを追った。

市役所に太陽光発電や水素エネルギー製造施設を設置

JR郡山駅からタクシーに乗り、緩やかな坂道を上っていくと15分ほどで市役所に着く。玄関前は広い駐車場になっていて駐輪場が隣接している。正面2階のバルコニーには太陽光発電設備が設置されている。駐車場をぐるりと見回すと駐輪場の一角に「水素ステーション」と「EV充電ポスト」がある。燃料電池車も駐車している。防災環境型EMS事業にかける熱意が伝わってくる。

取材には生活環境部次長兼環境政策課長の羽田康浩さんと環境政策課主任の安彦直人さんが対応してくれた。

郡山市生活環境部次長兼環境政策課長の羽田康浩さん(写真:小野里 保徳)
環境政策課主任の安彦直人さん(写真:小野里 保徳)

郡山市は2015年3月に、「2040年には県内エネルギー需要を100%再エネで賄う」との県の方針に基づいて「郡山市エネルギービジョン」を策定した。目標は、2020年度における市内の電力消費量を2011年度比で20%削減し、その電力消費量の30%を再生可能エネルギーなどの導入割合とすること。地域資源を最大限に生かした環境配慮型エネルギー供給システムを構築し、地域の振興を図る。

日本では2011年の東日本大震災後も自然災害は後を絶たず、2019年10月に発生した台風19号や豪雨など、被害は年々激甚化している。そのたびにライフラインの電力設備が被害を受け、停電事故も多発している。災害に強いまちづくり、環境にやさしいまちづくりは、度重なる災害の教訓である。

郡山市はビジョン実現のため、「災害に強い自立・分散型エネルギーシステムの一環として、避難所や防災拠点となる公共施設内に太陽光発電設備と蓄電池を積極的に導入している」(羽田次長)という。

自動車の燃料電池を緊急時の電源に活用

それでは郡山市が導入している設備を見ていこう。郡山市役所の庁舎には太陽光発電設備が2カ所に設置されている。2階バルコニーに設置されているのは最大出力10kWの太陽光発電だ。水素ステーション(24時間運転)で優先的に使用される。

屋上に設置された太陽光発電は最大出力が50kWで、発生電力は敷地内にある蓄電池(容量75kW)に優先的に送られ、余剰電力だけが庁舎内の照明、空調に利用されている。蓄電池からは通常は放電しない。

水素ステーションについてはホンダと岩谷産業が共同開発した「パッケージ型スマート水素ステーション」を導入している。高圧水電解システムを採用したもので、太陽光の電気で水道水を電気分解し水素燃料を製造する。

こちらは県内初の水素ステーションで、水素製造能力は1.5kg/日(24時間連続運転)、250km走行に相当する量だという。ステーションの水素貯蔵能力は19kg、貯蔵圧力は最大40MPa(約400気圧)。東北地方では仙台市、郡山市に続いて、福島県南相馬市、青森県おいらせ町、岩手県住田町ですでに導入されている。

駐輪場の一画にある水素ステーション(写真:小野里 保徳)

市が公用車として利用している燃料電池車はホンダのFCV「クラリティ」。5人乗りで満タン時の最大航続距離は約750kmだという。これだけの航続距離があれば、郡山から東京までの往復が可能だ。

また、燃料電池車の魅力は、車載の燃料電池を取り外せば家庭用電源としても利用できること。そのため「屋外イベントに積極的に持ち出してPRのツールとして使うほか、災害時の家庭用非常電源として活用している」と羽田次長は説明する。家庭で使用する場合の蓄電池の放電出力は9.0kVAで、電圧は100Vを6口と200Vの1口が用意されている。一般家庭に換算すると約7日間使用できる。そのため、災害時には需要地に近いオンサイト電源として役立つ。

2019年9月に千葉県で発生した台風15号の大停電時には、燃料電池車が何台も活躍したそうだ。水素ステーションで生成される水素は現在、市民に無料で提供されている。「燃料電池車は運転中にCO2を排出しません。防災、環境の両面から次世代自動車として期待されているので、積極的に導入拡大していきたい」と羽田次長もPRに熱が入る。

市が公用車として利用している燃料電池車(写真:小野里 保徳)

再エネ電源を活用、高度化図る

併せて郡山市は東北電力と2019年2月に、「防災環境配慮型エネルギー管理システム(EMS)」の構築に向けた基本協定を締結した。東北電力の持っているVPP(仮想発電所)技術を活用して、再エネ電源活用の高度化を図るという。

VPP技術はどのようにEMSの構築に寄与するのか。その説明の前に、キーとなるVPPについて説明しておこう。

VPPは、再エネ普及に伴い、注目されている電力需給の最先端技術である。自治体や企業、一般家庭などが保有している太陽光、風力、バイオマスなど再エネ発電設備や蓄電池など、地域内に分散しているエネルギーリソース(電力設備)と需要家とをIoTなどの情報技術を使ってネットワーク化し、それを遠方から一括遠隔制御して集約化することにより、あたかも1つの発電所のように設備を機能させる。

電力需給状況に合わせて電源設備を機能させるので「仮想発電所」とも言う。この技術を利用すれば、天候により出力変動する不安定な電源が利用しやすくなり、再エネ電源の導入が進み、脱炭素社会の構築に貢献できると期待されている。

VPPのイメージ(資料:郡山市)