平均気温22度の南国・沖永良部島。自然豊かな沖永良部島に、「持続的で心豊かな暮らし」をキーワードにしたイノベーションの火が灯りつつある。島民の事業活動を支援している石田秀輝氏(東北大学大学院名誉教授・合同会社地球村研究室代表社員)に話を聞いた。

沖永良部島の海(写真提供:インクルーシブデザイン・ソリューションズ)

沖永良部島は、奄美群島の1つ。奄美大島と沖縄本島のおよそ中間に位置する平均気温22度の南国だ。温かい土地柄、熱帯・亜熱帯の花が咲き乱れる。鍾乳洞でも有名な島で、東洋一と言われる「昇竜洞」のほか、200~300の大鍾乳洞群がある。

そんな自然豊かな沖永良部島は、人口約1万2000と日本の離島の中では比較的大きな島ではあるものの、日本の地方の例にもれず、衰退の波が押し寄せている。そのうえ、この沖永良部島の最大の問題は、島という閉じた空間、かつ自然環境の厳しさゆえの、自給自足率の低さが挙げられる。

例えば食料。島を国に見立てると、沖永良部島の食料自給率は重量計算で10.3%。多くは鹿児島県から運んでいるという。昔は島でも米が作られていたというが、減反政策により停止した。台風で船が欠航すると、島のスーパーの棚から食料が消えてなくなる。

そんな沖永良部島で、10年ほど前から始まったプロジェクトが、近年花を咲かせつつある。「ライフスタイルデザインプロジェクト」と銘打ったこの取り組みは、様々な制約条件がある島を持続的に発展させるためには何ができるのか、島民が考え、実行していくという試みだ。

プロジェクトの推進母体は、2014年から本格スタートした活動組織「酔庵塾」だ。「2040年に光り輝く島にしよう」というビジョンを掲げて、毎月会合を開催。島民が集まって、社会課題から島の課題まで含めて、政策やビジネスアイデアについて議論したりワークショップを開催したりしている。

また毎年「沖永良部シンポジウム」を開催しており、専門家を交えて島の未来について議論を進めている。2019年10月に開催した第10回では、「食」をテーマに据え、島における食料供給のあり方や食ビジネスの可能性を議論した。島外からの40人弱を含めて、160人ほどが参加したという。

沖永良部シンポジウムの様子(上下とも写真提供:インクルーシブデザイン・ソリューションズ)

一連のプロジェクトの成果は複数あるが、近年の代表例が稲作の復活だ。島民中心に取り組み始めて、少量ながら収穫可能になった。また2017年には星槎大学のサテライトキャンパスがオープンした。サテライト型とはいえ、大きな産業のない離島に高等教育の施設が設けられるのは極めて珍しいといえる。

(写真提供:石田秀輝氏)

酔庵塾の発起人であり、沖永良部シンポジウムをはじめとした一連のプロジェクトの仕掛け人が、石田秀輝氏である。東北大学名誉教授で、東北大学に勤務する以前はLIXILグループで取締役CTO(最高技術責任者)を務めていた。2014年からは沖永良部島に住居を持ち、島民から島での暮らし方を学びつつ、島の持続的な開発に寄与するべく、様々な取り組みを推進している。

石田秀輝(いしだ ひでき)氏。東北大学名誉教授、星槎大学特任教授、合同会社地球村研究室代表社員。サステナブル経営推進機構理事長。1953年岡山県生まれ。78年伊奈製陶(現LIXIL)入社。取締役CTOなどを経て2004年から東北大学大学院環境科学研究科教授。14年3月同大学を退職し、現職。ネイチャーテック研究会代表、アースウォッチ・ジャパン理事、ものづくり生命文化機構理事なども務める。主な著書に『自然に学ぶ粋なテクノロジー』(化学同人)、『地球が教える奇跡の技術』(祥伝社)、『ヤモリの指から不思議なテープ』(アリス館)などがある。(写真は筆者撮影)

「この島には、日本人が失い始めている、人間らしく豊かに生きるための要素が眠っている」と語る石田氏。

ほとんどの日本人にとって、利便性にあふれた現代生活は捨てられないだろう。けれども、従来型の資本主義的な経済発展を目指しているだけでは、心は決して満足しない。資源の枯渇や少子高齢化といった課題も無視できない。

これらの制約条件や課題を乗り越えながら、次世代の子どもたちにどんな日本を残せるか。石田氏の話に耳を傾けながら、制約条件にあふれた島・沖永良部島に、日本の未来をつくるためのヒントを見る。