生物が長い進化の過程で培ってきた生きるための“知恵”を、社会づくりに生かす。いわゆるバイオミメティクスだ。その適用先の一つとして有力なのが「未来の工場」である。そこでは、生物から学んだ仕組みと同様の機能・機構を持つ製造装置やロボットが稼働し、人と協働し、効率的な製造体制を築く。

手のひらいっぱいほどのサイズのアリ型ロボット「BionicANTs」(写真1)。課されているジョブは「フィールド上で青い物体を見つけたら、指定の場所に運ぶ」こと。ただ、この単純な目的を持ったBionicANTsを複数体置くと、面白いことが起こる。1体では運べずにいると、他の個体が支援しに行く(写真2)。こうして、複数のBionicANTsが集まり、ジョブを達成する。つまり、アリの振る舞いを自律的に真似て実施するわけだ。ジョブを完了すると、それぞれ所定の充電ポイントに戻っていく。ここまで、人は一切介在せず、BionicANTsが自律的に動く。

(写真1)BionicANTsは手のひらサイズのアリ型ロボット(写真はFestoが公開している動画から引用)
(写真2)BionicANTsはフィールドで青い物体を見つけると所定の場所に運ぼうとする(写真はFestoが公開している動画から引用)

自然界に学び、その仕組みを応用することをバイオミメティクスと呼ぶ。BionicANTsは、まさにその一つである。「アリ型ロボットなんて、おもちゃみたいだ」と侮ることなかれ。BionicANTsには未来の社会を支える技術が満載されている。BionicANTsそのものが使われるというよりも、そこで使われている要素技術が、社会を、より便利で安心できる空間に変えていく。適用先として、とりわけ意識されているのは製造業における”未来の工場”。もちろん、物流倉庫などほかの場面でも役立つ。

Bionic Learning Networkの要素技術が工場を変える

BionicANTsを開発したのは、ドイツの大手製造機器メーカーFestoと、ドイツの大学・研究機関とのプロジェクト「Bionic Learning Network」である。Bionic Learning Networkでは、「動き」に着目して自然界の仕組みを機械で実現することを目指している。目的は人間の労働力を代替する仕組みを作ることである。

このためBionic Learning Networkでは、約10年前の立ち上げ以来、BionicANTsのほかにも様々な仕組みを開発している。研究分野と、関連する取り組みは次の8つだ(図1)。

(図1)Bionic Learning Networkでは8分野で課題解決のための仕組みを研究している(図はFestoの説明資料から引用)

・アダプティブとフレキシブル
・超小型化(トンボ型ロボット)
・人と機械の協調
・機械同士のコミュニケーション(BionicANTs)
・機械同士の連携ネットワーク(蝶型ロボット)
・効率的なエネルギー活用(カンガルー型ロボット)
・自己組織化(まゆ)
・自己学習(自己学習型グリッパー)

これら8テーマは、未来の工場で求められる「コト」から決まっていて、大半は複数の要素技術の組み合わせで成り立っている。例えばトンボ型ロボットは、4枚の羽が独立して動く。一定の方向だけでなく、飛行状態に合わせて付け根の部分で羽の角度を変えながら羽ばたく仕組みだ。開発の目的は、飛ぶことそのものではなく、トンボの羽の付け根に埋め込めるほどのサイズのアクチュエーターを作ること、つまり超小型化である。

蝶型ロボットの特徴は、狭い空間で多数の蝶が羽ばたいても、接触しない点。絶えず動いている他の個体との位置関係を把握し、互いに接触しないように飛ぶ。狙いは、この連携ネットワークと同様の仕組みを適用し、工場の製造装置やロボットを協調動作させることである。

カンガルー型ロボットはエネルギーを効率的に利用する仕組みの研究。カンガルーが連続ジャンプする際の動きから、着地した際の衝撃を次のジャンプに生かす仕組みを考えた。ほかにも、ゾウの鼻に学んだロボットアーム、カメレオンの舌にヒントを得た、様々な形状のものをどのような角度でもつかめるグリッパーなどがある(図2)。

(図2)ぞうの鼻に学んだロボットアームとカメレオンの舌に学んだグリッパー
グリッパーは内部に空気や水がはいった風船のようなもの。形状や大きさ、数によらず、様々なものをつかめる。(図はFestoの説明資料から引用)