ホスピタルアートに着目し、積極的に取り組み続けている医療機関がある。大阪府堺市にある耳原総合病院だ。その質・量ともに日本では最大規模である。奥村伸二院長は「ホスピタルアートに取り組むことで、職員や患者のエンパワメント(勇気づけ)、職場の心理的安全性の確保など、様々な可能性が開けてきた」と語る。病院とアートの組み合わせは、どんな組織をつくり、どんな地域社会をつくるのか。奥村院長の話を通じて、組織と地域の未来を展望する。

医療や介護の現場に絵画・写真作品・音楽・ダンスといった芸術を導入する「ホスピタルアート」が注目を集めている。一歩先んじる英国では、音楽療法により認知症患者の興奮を鎮めた結果、薬物の投与を削減できたという調査結果もある。

ここ日本にも、ホスピタルアートの力に着目し、積極的に導入を図っている病院がある。大阪府堺市にある耳原総合病院だ。29科・386床を備え約900人の職員が働く同病院は、2015年に新病棟を竣工させた。院内には多数のアート作品が配置されている。また、院内の音環境を調査研究し、医療空間用の楽曲も制作したという。

ホスピタルアートへの取り組みを牽引するのは、耳原総合病院の奥村伸二病院長だ。「異文化体験」を重視する奥村院長は、新病棟建設の折にアートの可能性に着目し、2013年に日本の病院では極めて珍しくアートディレクターを起用。病院職員や地域住民を交えた参加型のアート作品の企画・制作を続けている。

奥村院長は「職員や患者、患者家族のエンパワメント(勇気づけ)、そして職場の心理的安全性が確保されるなど、様々な可能性が開けてきた」と、ホスピタルアートによる変化を語る。なぜホスピタルアートに着目したのか。そしてアートを取り入れることで病院はどのように変わりゆくのか。「病院を通じた街づくり」を志向する奥村院長の話を通じて、病院と患者、市民、地域社会との新しい関係性を探る。

耳原総合病院のエントランスホール「ふれあいエントランス」に設置されたアート作品『Expectation - 希望の芽』(制作は造形作家のYUKO TAKADA KELLER氏)。奥村伸二院長は「病院は人生で大変な時に来る場所。ホスピタルアートを通じて患者さんに緊張を感じさせないようにしたいという狙いもある」と語る(写真提供:耳原総合病院)