SF映画やアニメの世界のものしか思われなかったような、新たな調理の手段が現実に近づきつつある。一流シェフの料理を家庭で再現してくれるロボット、皿の上に素材を置いただけで調理してくれるテーブル、そしてピューレ状にした素材を使ってさまざまな料理を作り上げる調理版3Dプリンター(フードプリンター)と、調理法はいろいろだ。駆使する技術は異なるが、いずれも調理の手間を減らしつつ、豊かな食生活をもたらしてくれる。未来のフードカルチャーは、ライフスタイルを変える可能性を秘めている。

一流のシェフが作る料理は、一流のレストランに行かなければ食べられない。あるいは、自宅にシェフを呼んで作ってもらうことはできるかもしれない。しかし、気が向いたときに気軽にシェフを呼ぶことは難しい。これが一般的な発想だ。

そんな常識を覆す、未来型の調理空間を実現しようという取り組みがある。一例が、米国のロボットベンチャー、Moley Roticsが開発している「ロボットシェフ」である(写真1)。人工知能(AI)を搭載した双腕型のロボットで、キッチンに収まったロボットハンドが、人間のシェフが作った料理を、見た目も味もそっくりそのまま再現してくれる。特別な料理を、好きなときに自宅で作ってくれるわけだ。コンセプトでは、料理を完成させた後、皿洗いや後片付け、キッチンの掃除まで代行する。

(写真1)アームを使って料理を作ってくれるロボットシェフ
料理の盛り付けも行い(上)、調理後は片付けまでやってくれる(下)。(Moley Roticsのプロモーション映像より抜粋)

AIを使った自動調理とは言っても、ロボットが自身で調理方法を考えて、料理を作るわけではない。まずは、人間が手本の料理を作る様子をカメラで撮影する。その映像に対して、3Dモーションキャプチャーなどさまざまなセンシング技術を駆使し、食材や調味料の分量のほか、調理器具の使い方、カットの仕方、盛り付けなどの一連の手の動きをデータ化し、記憶する。ロボットは、2本のロボットアームを人間の腕と同じように動かして、記憶した手順をそっくり再現する。食材を切ったり、鍋の中身をレードルでかき混ぜたり、料理を盛りつけたりといった複雑な動作もお手の物だ。

Moley Roticsは、2017年中にも、このロボットシェフの一般販売を開始する。その時には、2000種類以上の料理のメニューをタブレットなどから選べるようになるという(写真2)。

(写真2)ロボットはAIによって人間の動きを覚える
料理メニューはタブレットを使って選ぶ(下)。(Moley Roticsのプロモーション映像より抜粋)

一流シェフの料理だけでなく、一般的な家庭料理もメニュー化されれば、単身者や働きながら子育てする親は、日々の食事の準備という負担から解放されるだろう。

ダイニングテーブルの上で直接調理

ダイニングテーブルを調理器具にしてしまおうという取り組みもある。パナソニックが発表した新コンセプト「フラットクッカー」は、加熱調理器をダイニングテーブルにビルトインしたもの。利用者は、同じテーブルの上で調理も食事もできる。皿に食材を載せてセットするだけでできたての料理が楽しめ、最後まで暖かいまま食べられるわけだ。

テーブルの上に置いて加熱調理を行う従来のIH調理器や調理用鉄板などと違い、電子レンジの技術を応用して皿の上の食材だけを加熱する。その際には、皿を置いた箇所だけがセンシングされて機能するため、食卓についている人の分だけ調理される。

例えば、食べやすいように切った肉や野菜を皿の上に載せ、食事を待つ家族の前に置く。すると、みるみるうちに肉や野菜が焼け、食べごろになったら音や光で合図して保温状態にする。素材を生かした料理ならば、これだけで十分ごちそうになるだろう。

またパナソニックは、さまざまな情報を投影させられる、シンクと一体化したテーブルを開発中(写真3)。AIによるコンシュルジェと対話しながら料理を作っていくようなキッチンの姿も提案している。

(写真3)未来のキッチンコンセプト
好きな場所にお皿を置くだけで調理ができるダイニングテーブル(左)。テーブルに表示される情報とコンシュルジェの音声によって調理するキッチン(右)。