新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を発端としたパンデミック禍において、人々の生活は一変した。ソーシャルディスタンスにリモートワーク。学校教育までもがオンラインに移行していく中で「家にいること」が常態化し、私たちはちょっとした体調変化にも敏感になった。生活が変われば食も変わる。この「コロナ後」の時代において、食はどう変化しつつあるのか、そして食の未来はどうなっていくのか。様々な立場から社会や世界を注視しているプロフェッショナルが提言していくシリーズ『「コロナ後」の時代をデザインする』。この第3回は、フードテック領域をリードするコンサルティング会社、シグマクシスで活躍する「食」のエキスパートが、ポストコロナ時代の食ビジネスを読み解く。

ロックダウン下の米国における食事情

日本の緊急事態宣言以上に厳しいロックダウンが敷かれた米国で、食事情がどう変わってきたのか。これを見ることは、日本の産業人にとっても大いに参考になるだろう。食べているものや住環境は違えど、生活者やビジネス環境の変化が日本以上に顕著に表れているからだ。

米国では家庭での料理の機会が増えた結果、小型の調理家電の売り上げが急激に伸びている。例えばホームベーカリーの販売台数は、前年同期比で8倍に増えているという。自らパン生地をこねてロックダウンのストレスを解消する「ストレスベイキング」が流行し、スーパーの棚から小麦粉が消える現象も起きているという(参考:米フードテック情報メディア「The Spoon」記事)。

一方で外食産業は壊滅的な影響を受けている。米地域ビジネスレビューサイト「Yelp」に掲載されている閉店中のレストランのうち、55%が廃業を決めたという(参考:米Webメディア「Market Watch」記事)。

レストランの救世主なのか敵なのか、活発な動きを見せているのはフードデリバリー(料理宅配)市場だ。2020年7月6日、フードデリバリーサービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」を運営する米Uber Technologiesが、同業である米Postmatesを買収すると発表した。報道によれば、この買収によりUberのシェアは業界2位となる。フードデリバリーは以前から有力な投資領域として注目されていた市場だが、Uberによる買収が象徴するように、この界隈は競争が激化している。レストラン側に高い手数料を請求することから反発も多いフードデリバリープレーヤーだが、生活者にとってはあまりにも便利なサービスであるがゆえに、コロナ後もある程度は定着していくと推測されている。

外食業態のアンバンドル化

少し違った視点から外食産業を見ていこう。レストランという事業形態を要素に分解して解釈してみると、レストランは食材、シェフ、レシピ、調理場(キッチン)という要素が1カ所に「バンドル」された状態(束ねられた状態)で存在しており、顧客がそこに足を運ぶことで成立しているサービスだ。だからこそ、レストランは立地と回転率が重要であり、オペレーションの効率化が最大の命題になっている。

一方、Uberが構築したUber Eatsなどのフードデリバリーを支えるプラットフォーム(複数レストランと複数デリバリースタッフをマッチングする仕組み)は、「外食ビジネスのアンバンドル(分解もしくは細分化)」を促進していると考えることができる。まず指摘できることは、フードデリバリーのプラットフォームは、「場所」という制約からレストランを解放していく動きと捉えることもできる。フードデリバリーサービスをフル活用することでいわば「店舗なきレストラン」を実現した事業者も生まれている。米国ではこうした店舗なきレストラン向けの「シェアドキッチン」(ゴーストキッチンと呼ばれる)も登場しており、「場所」の制約を大幅に軽減することに貢献している。

キッチンの機能をアンバンドルして自由度を高めるという側面で言うと、日本では「ロイヤルホスト」や「シズラー」を展開するロイヤルホールディングスが、コロナ前から「火を使わない厨房」を備えたレストラン店舗を開設している。セントラルキッチンで調理された食材を店舗のコンベクションオーブンで調理して来店客にふるまう。こうした動きは、店舗の設置条件が緩くなることにも繋がり、出店場所の自由度が高まる兆候と捉えることもできるだろう(参考:「日経クロストレンド」記事)。

このようにして、レストランのフロント(接客や食事を届ける業務)側はフードデリバリー、バック(調理)側はシェアドキッチンといったように、それぞれの領域をカバーするプラットフォームが登場し、サービスとして社会に浸透しつつある。これがじわりじわりとレストラン機能の「アンバンドル化」を後押ししている。

アンバンドルされたのは「場所」だけではない。米国ではこのコロナ禍において、レストランがミールキットを販売し、シェフがその調理方法をオンラインで教える、という事業に乗り出した企業がある。シアトルにあるFanWide Technologiesは元々スポーツ中継配信をしていた事業者だが、スポーツイベントが激減した今、レストランのシェフとユーザーをつないで料理コンテンツを配信している。FanWideのようなコンテンツ配信を手掛けるOTT(オーバー・ザ・トップ)プロバイダーがレストランの一部の機能をバーチャルに配信する、という動きは非常に興味深い。こうしてシェフの「調理の技」も、レストランという場所に留まらず一気に時空を超えて広まりつつある。