神戸市長田区の六間道商店街には、阪神淡路大震災の被害を逃れた昔ながらのアーケードが残っている。そんなレトロな商店街の外れに、瀟洒な6階建てのビルがある。多世代型の介護付きシェアハウス「はっぴーの家ろっけん」だ。フリースペースをのぞくと、お年寄りや介護スタッフに交じって、子ども連れの母親、学校帰りの小学生、パソコンをいじる若者や外国人など、さまざまな人が思い思いにすごしている。新たなスタイルの介護施設として注目を集める「はっぴーの家ろっけん」はどのように生まれ、どのように運営されているのか、代表の首藤義敬さんに話を聞いた。
遠くの親戚より近くの他人が寄り添う場所
2017年3月にオープンした「はっぴーの家ろっけん」には45の居室があり、そこに支援や介護を必要とする約30名のお年寄りたちが一人または夫婦で暮らしている。それぞれの居室は地元の若いアーティストが壁紙などをコーディネートしたもので、ひとつとして同じデザインはない。
また、多くの人々が出入りする1階のフリースペースのほかにも各階に共有スペースがあり、フロアごとに「港」「昭和レトロ」「アジアリゾート」「アメリカ」といったテーマで室内がアレンジされている。そこにはピアノや卓球台があったり、子どものためのゲームコーナーがあったり、昔懐かしい看板や黒電話が置かれていたりと、一般の高齢者住宅や老人ホームとはまるで雰囲気の違う空間なのだ。
そもそも首藤さんが「はっぴーの家ろっけん」を立ち上げようと思ったのは、少年時代に阪神淡路大震災を経験したことが大きいという。彼の生まれ育った新長田は、町工場や住宅、商店などが混在し、賑やかさと猥雑(わいざつ)さがあふれる街だった。ところが震災後、再開発できれいな建物は次々と建っていったのに、昔のような活気は戻ることはなく、人と人との結びつきも次第に薄れていった。
「ハコをつくることが街作りじゃないんだって、ぼくは中学生の時にもう気づいていたんですよ」と首藤さんは笑う。

その後、新長田を離れていた首藤さんは結婚を機に地元に戻り、空き家再生事業を立ち上げながら、両親や祖父母、妹らと総勢14人で暮らすようになる。そこで子育てと高齢者の世話というダブルケアの大変さを味わうとともに、大家族ならではのありがたさも実感したことが、「はっぴーの家ろっけん」を立ち上げる大きなヒントになったという。
「ここは“遠くの親戚より近くの他人”が寄り添う場所。それは同時に、自分が2人の子を育てていくのに理想的な場所でもあります」と首藤さんは言う。