電力会社だからこそ取り組むIoTプラットフォーム

東京電力グループでは、すでにIoTに関する事業検討に着手しており、さまざまな可能性に挑戦している。その1つが、一般送配電事業者として設立された東京電力パワーグリッド株式会社と株式会社日立製作所、そしてパナソニックの3社が合同で2016年10月から2017年3月の予定で実施しているIoTプラットフォームを構築する共同実証試験だ。

東京電力ホールディングス
新成長タスクフォース事務局
部長 田中 真氏

この共同実証試験では、宅内に設置したセンサーを介して宅内の電気使用状況を始めとする様々な情報を収集・蓄積し、新たな付加価値を生むIoTプラットフォームを構築することを目指しているが、これまでメーターまでを事業領域にしてきた同社からすれば、電力センサーを通じて宅内にまで踏み込んだ形のIoTプラットフォームが提供できるようになる意義は大きい。

現在は電力センサーによって家電の状況を把握する形だが、総合家電メーカーであるパナソニックがさまざまな電化製品にPLCチップを内蔵させることで、家庭内の環境センサーから情報収集するためのインフラとしてHD-PLCが欠かせないものになるはずだと東京電力ホールディングス 新成長タスクフォース事務局 部長 田中真氏は期待を寄せる。

電力小売業への参入全面自由化や電力の大消費地近辺で発電を行う分散型電源の拡大、そして広域系統運用の拡大が進む日本の電気事業。低炭素化によって環境に配慮した電力への期待から再生エネルギーの活用が進む一方で、人口の減少や省エネルギーの進展により、将来的な電力需要の減少は避けられない状況にある。同時に東日本大震災における社会的責任を企業として果たしていくためにも、新しい成長産業の創出を通じて社会に貢献していくことが何よりも求められている。そこで2016年4月に新たにホールディングス体制に移行した東京電力グループにおいて、各事業会社を戦略的に俯瞰し、新たなビジネスを創造していくことを目的に設置されたのが田中氏の所属する新成長タスクフォース事務局だ。

この新成長タスクフォース事務局では、最先端のビジネスモデル・技術を有するベンチャーへの投資を積極的に行いながら、同社が持つアセットを活用した新しいインフラサービスの提供を目指している。「電線や電柱、鉄塔など我々のアセットを再発明、再定義することで新たな活用を図っていくことを目指しています」と田中氏は語る。この既存アセットを活用した新社会インフラ事業には、送電鉄塔や変電所などハードウェアとしてのアセットを基盤に、施設内やラストワンマイルを繋ぐ通信プラットフォーム、そしてデータ管理やデータ加工、分析などを行うためのサービスプラットフォーム、そしてIoTデバイスやドローン、知識見守りなどのサービスに至る新社会インフラサービスの全体像を描いている。この通信プラットフォームレイヤーにおけるネットワークサービスとして期待されているのが、電力線を利用して通信を実現する高速PLCなのだ。

東京電力は、自社で持つアセットやノウハウを活用した、新しいインフラサービスの提供を目指す

さらに、新成長タスクフォース事務局では、既存のアセットを利用したさまざまなサービスを検討している。具体的には電柱に設置したビーコンやカメラを利用した見守りサービスや防犯対策、鉄塔に設置したライブカメラを利用した噴火映像配信サービスなどに取り組んでいるが、実はこれらのサービスにおける通信部分に既存の電力線を介してやり取りするPLCが応用できると田中氏は考えている。「既存のアセットを活用して何か新たな事業を検討する際には、当然電線を利用することが前提となるケースが多い。我々がやる新規事業の多くにPLCが活用できれば、これまで以上に便利になることは間違いない」。

ただし、現行国内において、現在の法制下ではPLCを電力網のアクセス系で利用することができないのが実態だ。それでも、海外では年間億オーダーのPLCモデムが出荷されるなど大きな市場となっており、日本でも同様の環境が整備できる可能性はある。電力網でも高速PLCが利用できるようになることを田中氏も期待している状況だ。

IoT時代に貢献する東京電力グループの役割

現在、屋外での通信インフラとして広く普及しているのは3GやLTE、無線LANなどが中心であり、IoT領域ではSIGFOXやWi-Fi HalowなどLPWA(Low Power、Wide Area)領域の無線技術が注目されている。しかし無線利用のための周波数は有限な資源であり、すべてのIoTデバイスが無線を利用する必要はないはずだ。「移動体は確かに無線で通信するべきですが、設置されているものにまで無線を使う必要はありません。センサーを動かすには電力が必要で、太陽電池で動かせるような電力消費が少ないデバイス以外は、必ず電力を供給するための電力線が存在しています。そんなところにこそ高速PLCが有効なのです」と田中氏。高速PLCは、無線とは共存できる、相互補完できる技術だと力説する。

IoT社会が描く理想の未来はさまざまなところで語られているが、通信を行うためのセンサーは電気で動くものがほとんどだ。つまり、IoT社会に求められるインフラは、通信と電気はセットで必要になるのは間違いなく、その環境を同時に提供できる高速PLCの技術が広がることでIoT社会の健全な未来につながっていくのではと田中氏は分析する。

これから日本は、ますます高齢化が進んでいくことになるだろう。そんな中で、家庭まで届く重要なライフラインの1つが電気であり、この電気を家庭に届けるのが電力線の役目だ。この社会インフラである電力線が情報通信インフラとして広く利用できるようになれば、これまで実現できなかったさまざまなサービスが提供できるようになるはずだ。公益性の高い事業を展開する東京電力グループとして既存のアセットをフル活用していくことで、より一層社会に貢献するインフラを安定的に提供していきたいと田中氏は語った。

HD-PLCが描く未来

現在HD-PLCは、IEEEによる国際標準化とチップベンダーへのライセンス供与を経て、これから普及が見込まれる技術として注目されている。施設内での利用はもちろん、規制のない海外では街路灯に設置するカメラやWi-Fiを電力線で制御するスマート街路灯や自動運転などの事故防止に役立つスマートロードなど、屋外でのHD-PLC活用にも期待が見込まれている。

監視カメラに同軸用LANコンバータをつなぐことで、既設の同軸ケーブルを、電源供給と映像通信の2つの用途で利用したもの。無線通信の不安定さを解決するとともに、無線が届きにくい屋外での通信も可能にする。

将来的には、すでに敷設されている電線などを活用し、接続する機器の老朽化や故障の予兆検知などに応用することで、社会インフラの維持管理に貢献していきたいとAVCネットワークス社 荒巻氏は語る。また、電力線に限らず、メタル線などの線さえあればHD-PLCが活用できる特性を生かすことで、「コンセントに接続するだけでブラジルの人と簡単に接続できるという世界を実現できる」という未来も。そんな世界を作るためにも、パナソニックが提供するすべての機器にHD-PLCモジュールが内蔵され、いつでもHD-PLCレディな環境を実現したいと荒巻氏。「線あるところにHD-PLCあり」の世界は、そう遠くない未来にやってくるかもしれない。