国内需要の不振にあえぐ日本酒が海外で躍進している。2017年まで8年連続で輸出金額・輸出量とも過去最高を更新し続けているのだ(統計上の品目は清酒)。海外需要を牽引しているのは、日本食レストラン。海外の店舗数はここ10年で5倍以上に増え、日本酒は今や世界のあらゆる国で飲めるようになった。 だが、日本酒がワインのように「世界で愛される酒」になるかというと話はそう簡単ではない。日常の食卓にまで浸透していくにはさらなるステップ――グローカリゼーションが必要だ。その萌芽はすでに見えつつあり、地域に特有の「地酒」が世界各地で生まれている。日本の代表的な食文化である日本酒は、来るべき大航海時代をどんな姿で渡っていくのか。

国内需要の減少に悩む日本酒が、海外市場で躍進を続けている。

財務省貿易統計によれば、2017年は清酒の輸出金額・輸出量はともに過去最高を記録。とくに輸出金額は、2012(平成24)年に約90億円だったが、2017(平成29)年は約187億円と5年間で約2.1倍に増えた。一方輸出量は、2017年に約 2万3482キロリットルとなり、過去5年間で約1.7倍に増加。国内需要の低迷を挽回すべく海外に活路を見いだそうとする動きが顕著になってきた。

清酒の輸出金額は、2017年に対前年比 119.9%の約 187 億円、輸出数量は同119.0%の約 2万3482キロリットルとなり、いずれも過去最高を記録。(資料:財務省貿易統計)
[画像のクリックで拡大表示]

「ここ数年、地方銘柄の躍進には目覚ましいものがあります」。こう語るのは、日本酒の海外事情に詳しい、きた産業の喜多常夫社長だ。同社は、飲料用ボトルやキャップの大手メーカーで、ワインやビールの醸造設備の輸入・販売なども手がける。喜多社長は設備輸入のための海外出張の折に、日本酒の消費動向を長年調査してきた。

「2000年ごろには、灘・伏見を中心とした大手清酒メーカー11社が清酒の輸出量の約8割を占め、地方銘柄は2割ほどを占めるにすぎませんでした。それが2017年には、地方銘柄のシェアがほぼ5割に達しようとしています」と、喜多さんは説明する。

■清酒の過去30年の輸出量の推移(大手メーカーと地方銘柄のシェア別)
清酒の輸出量はここ数年で飛躍的に伸びているが、その背景には地方の小規模生産者の躍進がある。1万石=約1804キロリットル。灘伏見大手11社は、清酒業界の調査を基に、きた産業が選定。白鶴、月桂冠、大関、白鹿、黄桜、菊正宗、松竹梅、日本盛、白雪、沢の鶴、剣菱。地方銘柄はそれ以外の地酒メーカー(大手・中小とも)。(資料:財務省貿易統計を基に、きた産業が作成)
[画像のクリックで拡大表示]

ナショナルブランドの量産品よりも、地方の蔵元(小規模醸造所、マイクロブルワリー)による手づくり感覚の製品が好まれる「クラフト志向」が、日本酒の世界で着実に進んでいるのだ。

世界に広がる“和食ブーム”が日本酒の海外進出を後押し

なぜ、これほど日本酒の輸出が伸びているのか。

最大の理由は、世界中で日本食レストランが急速に増えているからだ。農林水産省の資料によれば、2006年には海外の日本食レストランの数は2万4000店ほどだったが、2017年には11万8000店となり、ここ10年で5倍以上に増えた。2020年には15万店に達するとの予想もある。

■海外における日本食レストランの数
2017年の海外における日本食レストランは約11.8万店。2006年の約2.4万店から5倍以上増えた。( )内は2015年時点。(資料:外務省の調査を基に農林水産省において推計)
[画像のクリックで拡大表示]

毎年、海外に出かける喜多さんは、とくにここ5年ほどの間に、日本食の広がりを肌身で感じるようになったという。

「2000年代に入ったはじめの10年間で外国の人たちがだんだん日本食に目覚めてきて、2011年以降、現在に至るまでに、いろんな国の人たちがいろんな場面で日本食を食べるようになりました。すしに刺し身、トンカツ、コロッケなど、B級グルメも含め、さまざまな日本食が、レストランだけでなく、ホームパーティーなどでも食べられています」

こうした日本食シーンの広がりに歩調を合わせるように、市場を拡大してきたのが日本酒だ。かつて海外では、日本酒は飲みにくいといわれた時期もあったが、酒造メーカーの努力もあり、海外需要は徐々に伸びてきた。

海外での日本酒の人気ぶりは、フランスやニューヨークの高級レストランで、ワインペアリング(料理に合わせて皿ごとにワインを提供するサービス)のメニューの中に日本酒が加わるようになったことからもうかがえる。たとえばフレンチレストランで、コース料理として日本料理をアレンジした懐石オードブルが出され、併せて日本酒がワイングラスで提供されるといったケースがみられる。

2018年にミシュラン一つ星を獲得したパリのフレンチレストラン「Ken Kawasaki」は、日本酒だけのペアリングを提供して人気を博している。パリの最高級ホテル「ホテル・ド・クリヨン」も、メインレストランのワインペアリングに日本酒を組み入れている。

世界で健闘する地方発のSAKEブランド

それでは海外ではどんな日本酒が飲まれているのか。

前述したように、ここにきて日本酒の輸出量の飛躍的な伸びを担っているのは、「地酒」をつくる地方の酒造メーカーだ。いまや新潟、福島、山形、山口、福井などの老舗蔵元が、世界中を飛び回って日本酒を売る時代である。

「パリでよく飲まれているブランドは、福井県の黒龍酒造『黒龍』、加藤吉平商店『梵(BORN)』、愛知県の萬乗醸造『醸し人九平次』、栃木県の惣誉酒造『惣誉』などでしょうか。じつは、海外でブランドを築いた地方の酒造メーカーさんは、地道な活動をされてきたところが多いのです。現地で販売パートナーを探したり、有力なレストランに採用してもらったり。そうした実績を積み重ねてきたところに最近の日本食ブームが来て、果実を手に入れることができたのです」と喜多さんは話す。

地道に海外市場を開拓してきた地方の蔵元の中には、出荷量全体のうちの7割から9割を輸出が占めるところもあるという。国内需要の減少に危機感を覚え、いち早く海外市場の開拓に乗り出してきた結果だ。大手酒造メーカーの海外向け(輸出と海外生産の合計)比率がせいぜい2割程度であるのに比べると、その差は明らかといえる。

福井県の蔵元・加藤吉平商店が製造・販売する海外の人気銘柄「梵・ゴールド」(左:純米大吟醸)。パリで開催される日本酒コンテスト「Kura Master」で2017年と2018年の2年連続で金賞を受賞した。右は、SFIWC(サンフランシスコ・インターナショナル・ワイン・コンペティション)でダブルゴールドメダル(最高賞)を受賞した「梵・地球」(写真提供:加藤吉平商店)