テクノロジーは、単に生産性の向上や省力化を実現するだけではない。テクノロジーを使うことで、人の身体、そして地球環境にも優しい在り方が実現できる。近年急速に注目を浴びている「スマート農業」が、農薬、水、肥料の節約に大きく貢献することが分かってきたのだ。農薬を節減した「体に優しい農作物」として売り出し、付加価値の創出につなげているケースもある。スマート農業が可能にした「体にも地球にも優しい農作物づくり」の動向を追う。

ロボット技術やICTを活用して、生産性向上や省力化を実現する「スマート農業」。後継者不足や食料自給率の低下など、日本の農業の課題を解決する取り組みとして注目されているが、スマート農業の可能性はそれだけではない。地球と環境、そして体にも優しい農業を実現できることが分かってきた。スマート農業のこのような側面は、世界各地でSDGs(持続可能な開発目標)が重視される中、ますます注目を浴びる可能性がある。

■ドローンとAIで農薬の使用を大幅削減:オプティム

2015年8月に佐賀大学農学部、佐賀県生産振興部と農業IT分野での三者連携協定を結び、スマート農業に進出したIT企業のオプティム。ドローンやAI(人工知能)を使い、必要な場所にピンポイントで最小限の農薬を散布する世界初の技術を開発し、安心かつ安全で高品質な野菜やコメの生産を実現した。

ドローンでピンポイントに農薬を散布する(写真提供:オプティム)
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オプティムでスマート農業事業を管掌する、執行役員インダストリー事業本部の休坂健志氏は、その開発過程を次のように説明する。

オプティムの休坂健志氏(執行役員インダストリー事業本部)
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「佐賀大学農学部の先生方、佐賀県の試験場の皆様に我々の技術をご紹介した時に、『その技術は農業のこういう作業で使えるのではないか』といったアイデアをいただいたことがきっかけでした。最初はドローンを飛ばして圃場の上から撮影し、害虫の発生や不作の場所を発見するという取り組みから始め、次に、空撮したデータをAIで画像解析し害虫の発生を検知させるという取り組みを実施しました。害虫はどこかに発生源があり、そこから圃場全体に広がっていきます。この取り組みの結果、初期段階で発生を検知して早めに対処すれば、農薬の使用量を大幅に減らすことができるとわかったのです」

2017年度には農薬使用量を従来の10分の1に減らしながら、収量も維持した大豆の生産に成功。次の2018年度は減農薬のコメ作りにも乗り出し、Webサイトでの販売を開始した。「スマート米」として現在販売中のコメは、病害が少なかったことも幸いし、残留農薬ゼロを実現。「楽しく、かっこよく、稼げる農業」というビジョンを掲げて始まった同社のプロジェクトは、体に優しく環境にも優しい農業へとつながった。

オプティムの「スマート米」(写真提供:オプティム)
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農作物販売のビジネスモデル改革にも挑戦

「他のアグリテックベンチャーと我々との大きな違いは、単に現在の農業技術体系をデジタル化するだけではなく、農業技術の開発も行っていることなんです」と休坂氏は言う。

従来の農法では、各都道府県の病害虫防除所がサンプリングをとって病害虫発生予察情報を発表、その予察情報をもとに、発令されたエリア内の各農家が自分の圃場全体に予防的に農薬を散布するという方法をとっている。安定した収量を得られるようにするためだ。

しかし、オプティムの「ピンポイント農薬散布テクノロジー」を使えば、必要がない場所には農薬を散布せずに済む。農薬散布のタイミングや必要性の判断基準から変えてしまう画期的な技術だというのだ。各都道府県の病害虫防除の専門家とともに実地試験を重ねながら精度を高めているという。

オプティムの技術ではAIで画像を解析し、ピンポイントで農薬を散布する場所を特定する。こちらの画像は大豆畑をAIで解析したもの(画像提供:オプティム)
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同社の工夫は農作物販売のビジネスモデルにも及ぶ。生産者のリスクを限りなくゼロに近づけるため、同社はドローンなどの機器やソフトウエアの導入費用を含め無償で生産者に提供し、収穫した作物すべてを市場卸売価格で買い取ったうえ、販売までを手掛けている。従来のコスト削減分を利益にする方法ではなく、「減農薬」という付加価値を生かすことで、付加価値分の売り上げを生産者とシェアしていく方法をとっているのだ。

現在、スマート米は普通のコメの約2.5倍の価格で販売しているが、消費者の反応は上々という。

「例えばアメリカやドイツのオーガニック食材の1人当たりの購買額は日本の約10倍の規模となっており、1.3~1.5倍の価格で普通のスーパーで簡単に手に入るようになっています。日本ではそもそも減農薬米や有機米の価格が個々の生産者や販売店によってまちまちで、現時点においては十分な量の安定供給もされていません。しかし今後、体に優しい、地球に優しい食材を選ぶという流れは日本でも盛り上がってくると見ています」と休坂氏。生産者も消費者も喜ぶ“三方良し”のビジネスモデルとして軌道に乗せ、環境にも優しいスマート農業の普及を目指す。