福島県伊達市に本社を置くマクタアメニティは、県内の農家が生産する農産物を高級志向の強い首都圏の販売店などに流通させるビジネスを手がけてきた。2018年4月、この会社が新たにスタートしたのが、スマートフォンなどで撮影した画像をもとに、野菜や果物の味を解析し、甘味・酸味・旨味・塩味・苦味といった情報として表示するサービスである。「おいしさの見える化」と名付けられたこの新技術が、色や形ばかりで決まる野菜と果物の価格決定プロセスを大きく変える可能性があるという。新技術が変える農業、流通、食卓の近未来について、マクタアメニティの代表取締役、幕田武広さんの話を通して見ていこう。

私たちがスーパーなどで目にする野菜や果物。その価格は、実はかなりの部分、色や形で決まっている。どんなに味が良くても、形が不揃いだったり、その時点における流通量が多すぎたりすると、農産物はすぐに買いたたかれてしまうのが実態だ。

長く農産物の生産・流通事業に関わってきたマクタアメニティの幕田武広さん(同社代表取締役)はこのような状況を懸念しており、かなり前から「おいしさを簡単に数値化できないものか」と考え続けてきたという。

試行錯誤の末に開発したシステムは、スマートフォンやタブレット端末などで撮影した野菜や果物の写真を光の三原色、赤・緑・青(RGB)に分光してデジタル化。それを人工知能(AI)がデータベース内の味覚情報と照合することで、おいしさを客観的なデータとして瞬時に表示してくれる。

「大手の食品産業や研究機関では、これまでも人間が感じる塩味・甘味・酸味などを検出し、食品の味を数値化する技術を持っていました。いわゆる味覚センサーという装置です。ただし、これは機械を設置するだけでも1000万円近い費用がかかるうえ、分析する食品をフードプロセッサーなどで細かく粉砕して、味覚の成分を抽出しなければなりません。専門の解析業者に頼めば相当な費用がかかるだけでなく、結果が出るまで何日も待たされることになります。そのため、一般の農家や流通の関係者が安価な野菜などの味の分析に使うことはできなかったのです」と、幕田さんは語る。

マクタアメニティ代表取締役の幕田武広氏。「やはり大きな転機は東日本大震災の放射能災害です。国民の食の安心や情報化への認識が変わりました」と語る(写真:中島有里子、以下同じ)

思いとアイデアが技術進化の恩恵により具現化

そこで幕田さんが自らシステムの開発を始めたのは、今から10年ほど前のこと。直接の契機となったのは、色解析で味を診断するというアイデアを持っていた山形大学の研究者と出会ったことだった。

農産物の味を可視光線で判別する技術そのものは、かなり前から研究されていた。だが幕田さんが開発に着手した当時は、専門家の間でも実用化は難しいのではないかと考えられていた。そのため農業専門の研究者のなかには、幕田さんに対して「可視光線では無理だから、近赤外線など他の方法を研究した方がいい」とアドバイスする人もいるほどだったという。

そうした困難な状況のなか、幕田さんらの研究グループが実用化にこぎ着けられた大きな要因は、情報処理分野におけるさまざまな進化だ。

「われわれが開発を始めたのは約10年前ですが、その2~3年後にはビッグデータという概念が世の中に登場してきました。また、AIもさまざまな分野で活用されるようになり、それまで人間にしかできなかった推論のようなことまでコンピュータが行えるようになってきたのです。さらに4~5年前からは、AIによって解析した膨大なデータをIoT(モノのインターネット化)により瞬時に情報として見ることができるようにもなっています。ある意味、画像による解析というアイデアは、開発のスタート時には斬新すぎるものだったのですが、『そこにようやく時代が追いついてきた』と言っていただけるようになりました」と幕田さんは笑顔で語る。

幕田さんによると「おいしさの見える化」を実現するにあたって何より重要だったのは、大量のデータを集めることだったという。そこで彼と山形大学の研究チームは2013年度の補正予算を使った経済産業省の補助事業(ものづくり補助金のサービス分野)に応募する。そして、この資金を活用して、きゅうり、ミニトマト、ほうれん草、小松菜という4種類の野菜について、撮影した画像データと味のデータとを比較する研究に取り組んだ。大量の画像データと野菜を粉砕して検査装置にかけた分析データ、実食による味のデータを大量に収集し、それらビッグデータを解析にかけることで、色データと食味データの間に確かな相関関係があることをつかんだのだ。

現在、幕田さんの開発した「おいしさの見える化」システムでは、12種類の野菜=トマト、ミニトマト、キュウリ、ホウレンソウ、コマツナ、カブ、ブロッコリー、ニンジン、ハクサイ、キャベツ、レタス、アスパラガスと、4種類の果物=イチゴ(とちおとめ)、リンゴ(ふじ)、サクランボ、ブドウ(巨峰)について、3万件以上の食味データを蓄積したデータベースを構築済みだ。それぞれの作物ごとに異なるアルゴリズム(計算方法)を用いて味の解析を行う。

人が光を感じる視細胞は赤(Red)・緑(Green)・青(Blue)の三色のみを感知する。これをRGBと呼び、この光の強度分析と、検査機器で行なった農作物の食味解析によって求めた「おいしさの要素」との相関を求め、品目ごとのアルゴリズムを作成し、プログラミングしたAIで判定することで、「画像解析による農産物情報」を取得することができる(出典:マクタアメニティホームページ)