カカオは中南米の熱帯地方を原産とする植物で、現在はアフリカや東南アジアなどでも盛んに栽培されている。このカカオの果実から取れるカカオ豆を原料として作られるのがチョコレートやココアである。そんなカカオ豆をインドネシアの農園から仕入れ、日本の製菓業者などに販売したり、オリジナル菓子の開発・販売などを行ったりしているのが、2017年10月に設立されたフーズカカオ株式会社である。IT業界出身者を中心に設立されたこの会社の特徴は、従来のバイヤーとはまったく異なるスタイルでカカオ豆の卸売り事業を行っていることだ。その取り組みについて代表取締役社長を務める福村瑛さんに話を聞いた。

フーズカカオの福村瑛社長

チョコレート好きが高じて、興味を持ったカカオの生産現場

「もともと私はチョコレートが大好きで、ふだんから結構な量を食べていたんですよ。ベンチャー企業で働いていて精神的にストレスのかかる仕事だったこともありチョコレートの消費量も増えたんですが、体調を崩さないためにも食べるものに気を遣うようになったんです。そうして普段食べてる市販チョコのパッケージ裏面を見るようになり、チョコレート商品なのにほとんどカカオが使われていない商品がたくさんあることに気づきました。カカオは高級品だから使われないのかと思いましたが、一方でカカオ農家の貧困の問題がいまだに報じられている。そのギャップにとても違和感を感じました。そんな風に普段から食べているチョコに違和感を感じて、仕事をやめて時間もあったので、チョコレートの原料であるカカオ豆がどのように作られているのかが気になりはじめ、インドネシアの生産現場を訪ねてみることにしたんですよ」

2017年3月にはじめて訪問したインドネシアのカカオバイヤーさんと(写真提供:フーズカカオ)

インドネシアを訪れ、はじめてカカオを見て感動したのもつかの間、福村さんがまず衝撃を受けたのは、カカオ豆の衛生管理がかなり悪いことだった。出荷するカカオ豆の乾燥は地面の上で行われ、そこにはタバコの吸い殻が落ちているし犬や鶏、ヤギも平気で入ってきて排泄までしていた。日本人の感覚からすると、とても食品を扱っている場所には見えなかったのだ。

さらにもうひとつ、福村さんが驚いたのはカカオ農家の多くが儲からないからカカオ栽培をやめようとしていたことである。日本をはじめとする先進国では、質の良いカカオ豆は高価で取引されているし質の高いカカオを探し求めている。ところが、生産地の人々は質の良いカカオの作り方を知らず、品質を向上させる意味を知らないため、暮らし向きにまったく反映されていなかったのだ。

当時は地面で乾燥されているカカオ豆にたばこの吸い殻がいくつも入っていた(写真提供:フーズカカオ)
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「生産者はカカオ豆からどんな製品が作られているか知らないし、消費者はチョコレートの原料がどのように作られているかまったく知らない。ある意味、生産者と消費者が完全に分断されていたのです。だからこそ、生産者と消費者の間を取り持つことができれば、お互いにとって大きなメリットが生まれると思ったのです」。カカオ豆に関わる仕事を始めたきっかけを福村さんはこう話していた。

発酵の仕方によってカカオ豆の品質は大きく変わっていく

チョコレートが大好きなこともあって、カカオ豆の卸売りを始めようと決意した福村さんのその後の行動は実に素早いものだった。

「まず最初にしたのは、帰国して日本のチョコレート工場で実際に働いてみました。ダンデライオンチョコレートという人気のチョコ屋さんに、『将来カカオの仕事をしたいからチョコレート製造を勉強したい』とお願いしたところ快く受け入れていただきました。そこでカカオ豆の良し悪しの違いはどこにあるのか? どのように加工すればおいしいチョコレートができるか? そういった基本的知識を身に付けました」と福村さんは言う。

その後、2017年10月にフーズカカオを設立し、福村さん自身がインドネシアのエンレカン県に活動の拠点を置き、カカオ農園の人々と協力しながら質の良いカカオ豆の開発に取り組んでいくことになったのである。

道の両脇にカカオ農園が広がるエンレカンのマレレ村(写真提供:フーズカカオ)
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現在、世界で生産されるカカオ豆のうち、「ファイン・カカオ」と呼ばれる香りや風味の優れたカカオ豆は全生産量の5%ほどに過ぎない。残りの大半は品質の良くない「バルク・カカオ」と呼ばれる豆で、福村さんが拠点を置くインドネシアは世界第3位の生産量を誇りながら、そのうちに占めるファイン・カカオの量はわずか1%にすぎない。ほとんどすべての豆が質の良くないバルク・カカオで、当然ながら、買い取り価格も低い水準にとどまっていた。

カカオ豆の品質を左右する要素は、木の品種や土地の土壌などいくつもあるが、そのなかで最も重要なのは果実を発酵させる工程だという。カカオの果実の中にはカカオポッドという白い果肉があり、そこに長さ1~3㎝ほどの種子が20~30個詰まっている。白い果肉はフルーツとして食べることもでき、そのなかの種子がカカオ豆になるのだ。

カカオ豆の発酵は2段階に分かれていて、まず白い果肉の部分に酵母を加えてアルコール発酵を行い、そのあとで空気を送り込んで酢酸菌と乳酸菌による発酵を行う。

この発酵時間の調整や温度管理がうまくいくと、香りも風味も、さらには、そのまま口にした時の味もすばらしいファイン・カカオが生まれるのである。

「カカオの果実は重くて、かさばるため、そのまま輸出されることはありません。そのため、発酵と乾燥までが生産農家の仕事になっていて、その工程を終えたカカオ豆をバイヤーが買い取り、輸出することになります。ただし、発酵の工程は温度管理などが難しく発酵させる時間もかかってしまうため、インドネシアの農園ではファイン・カカオはほとんど作られてきませんでした。一方、低品質のバルク・カカオでも、薬や化粧品の原料になるカカオバターは作れますので、ある程度の値段でバイヤーに買い取ってもらうことができていたのです」

2018年、自分のカカオ農園でカカオポッドを収穫するYUNUSさん(左)。農薬を使わず害虫から保護するためのカカオポッドへの袋かけ作業(右)(写真提供:フーズカカオ)
収穫したカカオポッドを開いて中のパルプの選別をしている様子(左)。カカオポッドを開くとたくさんの種子がフルーツ(パルプ)に包まれている(右)(写真提供:フーズカカオ)
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現在、福村さんはインドネシアに出向いて農家の人々と一緒に発酵を管理している。データをもとに改善を繰り返し、従来のバルク・カカオに代わって、高品質で売値も高いファイン・カカオの生産量を少しずつ増やしているという。

発酵を管理するために発酵中のカカオ豆の温度を測っている(左)。乾燥台を使ってカカオ豆の乾燥を行ってもらうように改善した(右)(写真提供:フーズカカオ)
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パティシエやショコラティエにも生産地の情報を伝える

質の良いカカオ豆の生産とともに、福村さんが重視しているのは、カカオ豆を消費する人たちへの新たな働きかけである。

「これまでチョコレートにせよ、ココアにせよ、多少カカオ豆の品質が悪くても、あとからミルクや砂糖を加えることにより、いくらでもおいしいものを作ることは可能でした。あまり健康への影響を気にせず、素材の良し悪しにこだわらなければ、そういう商品でも十分に満足できていたのです。しかし、最近は消費者の考え方がずいぶん変わってきたように思います」と福村さんは言う。

農園で発酵・乾燥さたカカオ豆を焙煎してカカオの風味を確かめている様子(写真提供:フーズカカオ)
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