「数十年に一度の」重大な災害が毎年のように襲っている。このことを考えると、非常時の食料をどうするかはきわめて重要。一人ひとりが真剣に考えておきたいテーマだ。ここでは、非常食・保存食の核といえるアルファ米に焦点を当てる。お湯を注いで15分、水でも60分で食べられる“ご飯もの”は、日本人にとってありがたい存在。保存期間は5年と長く備蓄性も高い。保存用飲料水とセットで用意しておけば、ライフラインを断たれた時にも主食のご飯が食べられる。アルファ米とはどんなもので、なぜ5年も持つのか? 今後どのように進化していくのか? トップメーカーの尾西食品に聞いた。

尾西食品のアルファ米。写真以外にも白飯、松茸ごはん、山菜おこわ、えびピラフなど、18種類のラインナップが用意されている(写真:高山 和良)

先日、日本に上陸し、大被害をもたらしている台風19号と、それに先立つ15号。2019年も大きな台風が次々と日本を襲った。地震については、1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災、その後も熊本、北海道と何度も大きな震災に見舞われている。「数十年に一度のこれまでに経験したことのないような重大な危険」が毎年のように日本のどこかを襲っているのが現状だ。

日本に生きる私たちは、いつ、どんな大災害に遭遇するかわからない状況に置かれている。国や社会の機能を維持するための方策とは別に、私たち一人ひとりが具体的な対策を備えなくてはならない時代になっている。それぞれが家族と自分を守るために、非常時の備えをどこまでできているかをしっかりと検証し、準備しておく必要がある。特に、被災した場合にその直後の一定期間、自分たちの命をつなぐ非常食・保存食については、絶対に欠かせないキーアイテムになる。自治体任せではなく、個人がきちんと考えて万全の備えをしておきたい。

現在、日本の非常食・保存食の中核となっている食品が「アルファ米」だ。お湯を注いで15分、水なら60分でご飯が出来上がる。被災直後の厳しい環境下で被災者が体力とメンタル面の健康を維持するための食糧としてきわめて有用だ。にも関わらず、このアルファ米がどういうものなのかは広く知られているわけではない。ここでは、アルファ米がどういうものかから説き起こしてみたい。

精米した通常のお米(左)とアルファ米(右)(写真:高山 和良)

阪神淡路大震災で見直されたアルファ米

アルファ米をごく簡単に言うと、炊き上げたご飯を乾燥させたもの。熱湯か水を注ぐとご飯に戻る便利な食品で、その歴史は古い。そもそもは太平洋戦争中の軍事用食糧として、大阪大学(当時の大阪帝国大学)産業科学研究所の二國二郎(にくにじろう)博士(同研究所第九代所長。デンプンや炭水化物の研究で有名)と尾西食品によって共同開発されたものに端を発する。

アルファ米の「アルファ」とは、お米に含まれるでんぷんの状態を示す言葉で、炊き上がったご飯の主成分は「アルファ化でんぷん」と呼ばれる。乾燥させたアルファ化でんぷんにお湯や水を加えると柔らかく食べやすい状態に戻ってくれる。こうした特性を利用して作られた食品がアルファ米だ。

戦後、あまり顧みられることがなかったアルファ米が再び注目されるようになったのが1995年の阪神淡路大震災の時だった。尾西食品 代表取締役社長の小寺芳朗氏は当時の経緯から現在に至るまでをこう解説する。

「第二次世界大戦中は軍事食として使われましたが、戦後、ぱたっと需要がなくなりました。転機となったのが1995年1月17日の阪神淡路大震災です。寒い時でした。それまで、非常食・保存食というと乾パンが主流だったのですが、被災された方が温かいものを食べたいということでアルファ米が注目されました。その良さが認められ、徐々に浸透していき、2011年の東日本大震災を経て、アルファ米がメインプレイヤーになりました」

尾西食品 代表取締役の小寺 芳朗(こでら よしお)社長(写真:高山 和良)

酸化を防ぐことで5年保存できるように

アルファ米は、阪神淡路の震災以降もじわじわと技術的な進化を続けている。味や食感を高める工夫はもちろんのこと、白飯以外に赤飯、五目ご飯やドライカレー、チキンライス、携帯おにぎりなど、様々な商品バリエーションを増やしてきた。そうした進化の中で、特筆すべきことは、備蓄食として最も重要な特性である保存期間が5年に延びたことだろう。尾西食品 商品開発部の伊藤秀朗部長は、このきっかけとなったのが乾パンとの競争だったと振り返る。

「阪神淡路大震災までの主流は乾パンで、賞味期限は3年が標準的でした。阪神淡路の時に尾西のアルファ米を認知していただき、徐々に浸透していきましたが、乾パンのメーカーがこれを見て、賞味期限を5年に延ばされた。そこで私たちもどうしたら5年になるかいろいろとリサーチをしました」(伊藤氏)。製造技術そのものが大きく変わったわけではないが、同社は空気中の酸素によって米が含む油が酸化し、劣化につながることに注目した。それ以前には気密性の高い袋、つまり包装材がなく酸化を抑えることができなかったのだという。伊藤氏は「阪神淡路の震災前後で高性能フィルムが流通し始めました。相前後して脱酸素剤が出てきたのです」と語る。

酸化を防ぐ仕組みはこうだ。アルファ米の包装には脱酸素剤の小さなパッケージが同梱されるが、包装された段階で脱酸素剤が袋中の酸素を減らす。その後、気密性の高い包装材が入ってくる空気を相当量抑える。さらに、脱酸素剤の効果が持続し、酸化を抑え鮮度を維持するのだという。同社はアルファ米の賞味期限を酸化を抑えられる期間で決めている。「酸素に関する能力ということで賞味期限を決めています。その期間が5年です。美味しく食べていただくためには色であったり匂いであったりということを考慮して5年がベターな状態と判断しています」と伊藤氏。

さらに、お湯を入れて早く戻す能力も少しずつだが進化している。現状では熱湯で戻るまでに15分だが、かつては20分だった。この短縮は競合メーカーが一歩早く、尾西食品もこれに対応した。「われわれも製造プロセスを少し変えて、より均一にご飯をアルファ化させるようにしました。それまでは内容物の中で一番アルファ化していない部分を戻すのに時間がかかっていましたが、すべての米粒を均一にアルファ化状態にすることで早く戻るようになりました」と伊藤氏。

尾西食品 商品開発部部長 伊藤 秀朗(いとう ひであき)氏(写真左、撮影:高山 和良)。乾燥させる前のご飯を炊き上げた状態。これを乾燥後、均一に砕く工程が一つのノウハウだという(写真右、提供:尾西食品)