日本酒への関心が大きく高まっている。専門のバーが登場し、日本酒をそろえる飲食店が賑わう。人気の中心は、吟醸酒や大吟醸酒と呼ばれる高精白の酒だ。一方で、清酒の酒蔵数は減少の傾向にあり、2000年に1977あった酒蔵は16年には1405にまで減少(国税庁「清酒製造業の概況」より)。市場全体としては厳しい状況だ。そうした中、酒造りを大きく変えそうな精米機が登場した。2018年秋精米機大手のサタケ(広島県東広島市)が発売した新型の醸造用精米機がそれ。従来より「磨かないコメ」で、大吟醸のようなすっきりとした味わいを実現できるという。低価格帯の商品を新精米機による精米に切り替えた人気酒造も現れた。日本酒の味わいのキーワードが「コメの形」になるという新しい時代が訪れようとしている。

「日本三大酒どころ」の一つとして知られる広島県の西条に、日本酒の歴史に重要な役割を果たしてきたメーカーがある。創業者・佐竹利市が19世紀末に日本で初めて動力式精米機を開発し興した企業、サタケだ。日本最大の酒どころである兵庫の灘のように水源に恵まれず水車を使った精米ができなかった西条では、当時足踏み式精米が主流。水力に頼らない精米方法を開発するニーズに迫られていたのだ。

この動力式精米機の開発によって、可能になったのが水車による精米ではできなかった高精白の精米。1930年には今日のサタケの精米機の原形となる醸造用精米機の登場につながり、精米歩合40パーセントを実現(精米歩合は、数字が低い方が高精白となる)。雑味の原因となるコメの外側についた脂肪やタンパク質を多く削ることができる機械で、これにより、今日の日本酒人気をけん引するすっきりとした味わいの酒、吟醸酒が誕生した。西条が酒どころとして発展したのも、サタケの存在があったからだ。

サタケ システム事業本部システム営業部酒米専任部長・新山伸昭氏(写真:大塚千春)

精米歩合が高くても大吟醸のような味わい

1980年代には吟醸酒ブームが訪れ、業界の設備投資がさかんになる。「一時は、平均年間30セットの醸造用精米機を売っていた」とサタケのシステム事業本部システム営業部酒米専任部長・新山伸昭氏は話す。ところが、設備更新がひと段落ついてブームが去ると、ぱたりと機械が売れなくなった。平成に入ってからはほとんど開発をせず、それまでの機種をただ販売メインテナンスするのみ。醸造以外の精米機の事業などに注力するようになっていった。

扁平精米が可能になったサタケの新型醸造用精米機。漏斗状の部分の下に砥石が納められた精米室がある。なお、従来は何を扁平精米とするか基準がなかったため、同社では細かな数値による基準を定めている(写真:大塚千春)

そのサタケが、2018年秋、新型の醸造用精米機を発売した。きっかけは他社が新型機を出したことだ。

日本酒の消費量が減り酒蔵数が年々減少。市場規模が縮小する中、「市場的には昔のように何十台も機械が売れることはない。利益を追求するなら、この事業はやめた方がいい」。新型機の開発担当を打診されたとき、新山氏は会社にこう提言したという。しかし、醸造精米は精米技術の頂点であり、創業の精神にかかわる。「サタケさんは、もう醸造用精米機はやめたのか」。顧客や代理店からそんな声も聞こえるようになる中、利益を度外視しても新しい機械の開発をというのが同社の決定だった。そして数年をかけ、完成したのが「扁平(へんぺい)精米」が可能な精米機だった。

新精米機の精米室部分(写真:大塚千春)

一般に、コメは磨けば磨くほどどんどん丸くなっていく。出っ張った部分が砥石に当たり取れていくからだ。こうした「球形精米」に対して、「扁平精米」はコメの形を残して精米する方法。タンパク質はコメの長軸の両脇に多くついているため、より効率的にこれを除去できる精米法だ。日本酒の精米歩合は、吟醸酒が60パーセント以下、大吟醸酒が50パーセント以下と決められているが、扁平精米されたコメを使えば60パーセントの精米歩合でも大吟醸のような味わいになるという。扁平精米は従来の精米機でも可能で、技術を駆使してこれを実現している蔵もある。しかし、砥石を低速で回しコメが砕けないようにするなど長い時間をかけ精米をする必要があり、ごく限られた蔵でしか用いられることがなかった。

酒造好適米として知られた山田錦を25倍に拡大して3Dプリンターで立ち上げた模型。左が扁平精米、右が球形精米。タンパク質の量の違いから、扁平精米は精米歩合60パーセントでも球形精米同40パーセントと同等の味わいにできる(写真:大塚千春)
左が扁平精米で精米歩合60パーセントのコメ。大きさがはっきり異なる(写真:大塚千春)
扁平精米したコメ(左)と球形精米したコメ(右)(写真提供:サタケ)