持続可能な食に関して世界でも先端的な国であるスウェーデン。2018年の食品総売上のうち、有機食品が占める割合は9.6パーセントで3兆3000億円以上(Ekoweb『Ekologisk livsmedelsmarknad』2019年1月31日より)。消費者意識が高く、スウェーデン人1人当たりの有機食品年間消費額は、日本の約1300円(農林水産省資料より)に対し、約2万9000円(スイス有機農業研究所 & IFOAM資料より)に及ぶ(いずれも2017年)。これは世界第3位の数字だ。こうした中で、在日スウェーデン大使館では2020年2月、スウェーデンの食文化を伝えるキャンペーン「TRY SWEDISH!」の第2弾として、持続可能な食に関するスウェーデンの取り組みを紹介する「Beyond Organic」日本版キャンペーンの始動を発表。これに合わせ来日、持続可能な食の取り組みで世界的な注目を浴びる同国のシェフ、ポール・スヴェンソン氏(45)に話を聞いた。

持続可能な食をポリシーとし、環境負荷が少ない植物由来の食材を重視する「プラントフォーワード」の料理を提供し続けるポール・スヴェンソン氏は、世界有数の料理学校である米カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカと北欧のEAT財団による「世界のプラントフォーワード・シェフ50人」の一人に選出されている料理人だ。スウェーデンの首都ストックホルムの写真美術館「フォトグラフィスカ」には、同名の彼のレストランがある。「フォトグラフィスカ」は、毎年世界で注目の文化施設などを選出する「Leading Culture Destination」で、2017年、美術館内にあるベストレストランに選ばれた。

プラントフォーワードを打ち出した人気レストラン「フォトグラフィスカ」の厨房で、食材に向かうスヴェンソン氏(中央)((c)Paul Svensson; Photo : Jenny Hammar)
スヴェンソン氏の出身国スウェーデンでは、1人当たりの有機食品年間消費額は、日本の約1300円に対し、約2万9000円にも及び(いずれも2017年)、環境問題に対する関心が高い。出典:スイス有機農業研究所 & IFOAM『The World of Organic Agriculture – Statistics and Emerging Trends 2019』:https://shop.fibl.org/CHen/mwdownloads/download/link/id/1202/?ref=1、令和元年11月1日農林水産省大臣官房環境政策室『消費行動関係資料』:https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/being_sustainable/attach/pdf/top-6.pdf
注:1ユーロ=120.91円で計算(画像提供:スウェーデン大使館)
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国際連合食糧農業機関によれば、毎年、人の消費のために生産された食品のうち約3分の1は廃棄されるという。「持続可能な食を考えることは企業にとってもチャンス。例えば、『ゼロ・ウェイスト(ごみゼロ)』の発想が身についていれば、ごみはごみでなく、自然にそれをどう活用しようかという発想が生まれる」とシェフは言う。

「こんな食が続くわけがない」と気が付いた

――スヴェンソン・シェフは、海軍のシェフとしてスタートし、ミシュラン星付きレストランで料理長を務められてきました。何がきっかけで持続可能な食に注目されるようになったのでしょう。

スヴェンソン氏(以下、敬称略):私は長い間、非常に優れているとされるレストランで働いてきました。しかし、こうした店で求められることは、何より料理が美しく見えること。そして、同じ料理ならばどの皿も同じでなくてはいけない。つまり、同じ見てくれ、同じ長さの食材を求める。自然が何を与えてくれるかではなく、自分たちが求める形に無理やり自然をはめ込もうとしていたんです。店で扱う食材がどう作られ、どれだけ長い時間をかけ厨房まで運ばれてきたかにも関心を払っていなかった。そして、多くが破棄される。長い目で見るとこんな食が続くわけがない、そう気が付いたのです。

ポール・スヴェンソン氏。持続可能な食の可能性を探求し続ける(写真:大塚千春)

よい料理人となるために、私はもっと自分が扱う食材について知る必要があると考えました。食べ物の味わいは、本当の意味でどう作られているのか。持続可能な食はどうやって実現できるのか。こうした問題意識はほかの人と共有することが大切です。共有することで、ほかのレストランも変えられる。レストランは食のとても美しい“ショーケース”ですから、この場所を通して消費者も変えることができる。ポジティブな見方ができる場だからこそ、意識を変えられるんです。消費者が変われば、変革は大きく社会に広がっていきます。

「ゼロ・ウェイスト」の原点は祖母の料理に

――10数年前に大きな転機があったそうですね。

スヴェンソン:スウェーデンの科学者アルトゥール・グランシュテットの人類の食の未来に関するレポートを読んだのです。国連によれば世界の人口は、2050年には90億人超に達すると言われていますが、そうなれば一人当たりの食材を生み出すために利用できる畑の広さはごくわずか。大変な未来が待ち受けていると実感しました。そのような未来を受け止めるためには、食のあり方を大きく変える必要があります。

そもそも、私はあることに疑問を抱いていました。どうして私たちは、動物性たんぱく質を中心に食を考えるのかということです。働いていたレストランでは、ベジタリアンのお客様がいらっしゃる度に、大騒ぎでした。

特に意識はしていなかったのですが、実は私自身は、野菜を軸とした料理の組み立てをしていたんです。通常、野菜は肉や魚の添え物ですが、野菜のフレーバーを生かすことをまず考え、そこに肉、魚をどう合わせるかを考えていた。その頃は持続可能性まで踏み込んだ考えは持っていませんでしたが、その後の展開につながっていきました。

肉と同じぐらいタンパク質豊富な赤インゲン豆のパテ。フォアグラのような風味。果肉だけでなく、皮や種まで使ったリンゴのピューレを添えている。来日の際スウェーデン大使館で提供された(写真:大塚千春)

――野菜に重きを置く発想には、原体験のようなものがあるのでしょうか。

スヴェンソン:祖母の存在が大きかったですね。彼女は持続可能な食の“第一人者”です。食材はすべて無駄なく使い、料理は食べ切りなさいと考える人でした。私たちが今、ゼロ・ウェイストと呼んでいる考えは、彼女にとって当たり前のことだったんです。

祖母が得意とする伝統料理にポテト・パンケーキがありました。このパンケーキには、地元で採れたおいしい旬のジャガイモが欠かせないんです。友人は、料理に合わせようと豚肉を持ってきたものですが、「いい素材どうしは、一緒に使っちゃいけないよ」というのが祖母の口癖でした。

先にも触れましたが、伝統的な料理では常に動物性の食材が主役となり、野菜は添え物です。皿の上にラム肉があれば、野菜が一緒に盛られていても、料理の評価は肉で決まります。しかし、これを別皿に盛れば、人はすばらしいラム肉と共にすばらしい野菜料理を食べることになる。ただ、多くの人は、2皿口にするほどの食欲はない。

肉と一緒に出すと気が付きませんが、人は野菜だけでも、それがとても風味豊かでおいしければ満足なのです。祖母のポテト・パンケーキは、まさにそうした料理でした。

ポロネギの上に北欧独特の黄色いベリー、クラウドベリーを添えたもの。フードマイレージを意識するスヴェンソン氏が使う食材はみなローカルな食材。例えば、アボカドも輸入食品なので、この食材のような食感や味わいが欲しい際は、スウェーデンでポピュラーなソラマメを使用するという(写真:大塚千春)