米油の原料用としてお蔵入りを免れた

東北胚202号はこうして2年ほど、お蔵入り状態に置かれてしまう。そのままであれば、品種登録もされず消えていく運命だったかもしれない。

ところが、ひょんなことから見い出され、日の目を見ることになる。

今から10年ほど前のこと、当時の日本発芽玄米協会(現在は一般社団法人 高機能玄米協会)が、米油のプロジェクトを立ち上げ、この品種の巨大な胚芽と糠の多さに着目し、原料として採用することになったのだ。

当時プロジェクトを率いる立場にあり、現在「金のいぶき」の普及に務める株式会社「金のいぶき」代表取締役社長で一般社団法人高機能玄米協会副会長の尾西洋次氏は次のように語る。

「何かの会議で永野先生と同席して、自分で食べてもいないのに、東北胚202号について見てくれが悪いからまずいんでしょというようなことを言ってしまったんです。そうしたら、怒られましてね。そんなことありません。食べてみてくださいと。実際に食べてみたら、何だこれ?というぐらい美味しかったんです」。

尾西氏のそこからの変わり身は早かった。米油プロジェクトを急遽中止にして、東北胚202号を主食に使うことを宣言する。その後、同氏は株式会社「金のいぶき」として高機能玄米協会と協力しながら、「金のいぶき」の普及に全力を傾けている。

株式会社金のいぶき代表取締役社長で一般社団法人高機能玄米協会副会長の尾西洋次氏。いわば「金のいぶき」の“育ての親”と言える(写真:高山和良)

宮城県は、県を挙げて強くプッシュ

宮城県では、この「金のいぶき」の販売や生産を全県を挙げて後押ししている。

同県は、白米としての戦略品種である「だて正夢」を2018年にデビューさせるに当たって「みやぎ米ブランド化戦略」を策定し、同県のコメのブランド化と評価向上を図っているが、この「みやぎ米」4品種の1つに「金のいぶき」を入れたのだ。他の3品種は、将来の主力と目される新品種「だて正夢」、同県の現在の主力「ひとめぼれ」、そして、かつては「コシヒカリ」と2強を誇った「ササニシキ」。どれも全国区の品種ばかりだ。

みやぎ米のブランド化戦略を進める宮城県 農政部のみやぎ米推進課では、経緯を次のように説明する。「ブランド化戦略では『お米は食べわける時代、だからみやぎ米。』をキャッチフレーズに食味・食感の異なる白米3品種に金のいぶきを加えた4品種をラインナップし、好みや食卓シーン、そして健康志向などの需要に合わせたコメ選びを消費者に提案していくことにしました」。同県では、試食会や飲食店でのイベントやSNSを活用したキャンペーンなど、様々なプロモーションを展開している。イベントなどでは村井嘉浩知事が自ら先頭に立つ力の入れ様だ。

ただ、「金のいぶき」は栽培が簡単とは言えない。1反(約10アール)当たりの収量で10俵(1俵は60キロ)作れる生産者もいる一方で、十分な収量が獲れない人もいる。いくら需要があっても一定量以上の収量がなければ生産者は増えない。このため、宮城県では生産者の下支えとなる施策に積極的に取り組んでいる。みやぎ米推進課では「収量と品質を向上させるための取り組みとして、古川農業試験場で田植え時期、植付けの密度、追肥の時期と適量などを検討してきました。概ね、金のいぶきに適した栽培方法が確立されてきており、試験場内や生産者の水田での調査を行うことで栽培方法の実証を行っています。令和2年には栽培マニュアルを作成する予定です」と説明する。このほか、生産者と栽培指導者を集めた栽培研修会「金のいぶき栽培塾」、地域単位での「金のいぶき地域栽培塾」などを開催し、栽培支援を行っている。

「みやぎ米」を推進するサイトでは「金のいぶき」を県を代表する4品種のうちの1つとして取り上げている(みやぎ宮城米マーケティング推進機構のサイトより)

生産者と消費者のコメの常識を変える!?

日本人のコメ消費量はピークとなった1962年以降右肩下がりで落ち続けている。1人当たりの消費量も最盛期の半分以下に減っている。生産現場の高齢化もあって、このままでは日本のコメづくりの地力は弱体化するばかりだ。そうしたこともあり、コメづくりの現場では銘柄米一辺倒の作り方から、良食味多収米と呼ばれる外食・中食用のコメづくりを取り入れるところも増えている。ニーズにあった多様なコメを作り分ける時代になっているのだ。

「金のいぶき」はこうしたニーズの多様化にピタリとはまる。

最近では、女性を中心にもち麦や大麦などの雑穀ご飯や、玄米ご飯に目を向ける人が増えている。食品業界も、「金のいぶき」の普及によって、もち麦ブームに続く玄米ブームの再来を期待する。既に「金のいぶき」の炊飯モードを備えた炊飯器も出てきている。日本人のご飯と言えば“銀シャリ”という常識が今後大きく変わるかもしれない。「金のいぶき」はこの流れを加速させる可能性を秘めている。