それでも、せんべいに使うコオロギの粉の量にはこだわった。コオロギを食材として使った大手企業の製品としては、フィンランドの食品メーカー、ファッツェルが17年に発売したコオロギパンが有名だ。とてもおいしいパンだったが、使用されていたコオロギの粉の量は全体の重量の3パーセント。今回の商品にはそれよりはるかに多いコオロギ粉が混ぜ込まれている(数字は非公表)。

2017年に発売され各国で話題となったファッツェルの「コオロギパン」(写真:メレンダ千春)
2017年に発売され各国で話題となったファッツェルの「コオロギパン」(写真:メレンダ千春)

「『コオロギせんべい』と謳うからには、本当は現在より高い比率でコオロギ粉を用いたかったのですが、この粉の特性か割れやすくなったり、生地がしまってせんべいが小さくなってしまったりした。コオロギ粉を使ったせんべいがどうなるかなんて誰も分からない。原価の問題もありますが、相当数試作をしてもらった結果、現在の形に落ち着いた」(神宮氏)。

実はコオロギの養殖にかけては第一線を走るグリラスも、大規模に流通する商品に対応する粉にするノウハウはまだなかった。「単に製品を買うだけでなく、我々の品質管理のノウハウをグリラスと共有。工場の方にも養殖現場に足を運んでもらい、3者で取り組んだ商品なんです。当社でも通常、そこまで手をかける商品はあまりない」と神宮氏は言う。A5サイズほどの小さな袋に入ったせんべいだが、そこには単なる食品である以上の思いが込められているようだ。

異物と間違われるコオロギの足

この粉の開発も一筋縄ではいかなかった。「荒い粉ではコオロギの足が入ってしまい、異物と間違われる」(神宮氏)からだ。「実際に足ではなくても、何か繊維状のものが入っていると足と認識されてしまう。それをしっかりふるいで落とさなければいけなかった」と徳島大学大学院社会産業理工学研究部助教でグリラス取締役会長兼CEOの渡邉崇人氏はため息をつく。

単純に、目の細かなふるいを使えばいいのではないかと考えてしまうが、そうは問屋が卸さない。「我々のコオロギはいい環境で育っているので、比較的脂肪組織が多い。そうしたコオロギを粉にすると、ふるいが詰まる原因になる。目を細かくした方が『異物』はなくなるが、細かくすればするほど詰まってしまう。そのバランスが非常に難しかった。コオロギを乾燥させる度合いや、一度に粉砕する量を調整するなど2、3カ月ほど悪戦苦闘しました」と同氏は苦笑する。

完成した粉のサンプルをもらった。ふんわりとした手触りで、イワシなどの魚の粉を思わせる色合い。味付けが全くされていない状態なので、味わいはやさしく、「コオロギせんべい」よりエビ感は強くない。なお、無印良品のせんべいもなるべくコオロギそのものの風味を味わってもらいたいと、「極力よけいな材料は入れないようにしている」(神宮氏)そうだ。

「コオロギせんべい」にも使われているグリラスによるコオロギの粉末。ふんわりとした触感で丸のまま食べた同社のコオロギとは異なる味わい(写真:メレンダ千春)
「コオロギせんべい」にも使われているグリラスによるコオロギの粉末。ふんわりとした触感で丸のまま食べた同社のコオロギとは異なる味わい(写真:メレンダ千春)

続けることが大事な商品

「コオロギせんべい」の価格は税込190円。まだ生産量が限られる食材であるコオロギを使ったお菓子としては、破格の値段だろう。「250円、300円となるとお客様に買っていただけないと思った。『コオロギせんべい』は、少しだけ販売してやめますという種類の製品ではない。コオロギを使ったスナックが当たり前の選択肢になるようにしたい。続けることが非常に大事な商品です。だから、通常の商品と同じレベルとはいかないものの、買いやすい売価を考えた。グリラスからもかなり頑張った価格で材料を提供してもらえました」(神宮氏)。

同商品のパッケージにはQRコードが印刷されている。同社の食品では初めての試みだ。「店舗で、他のスナックと同じパッケージで置いてあってもこの製品は買わないでしょう。普通の商品なら食べておいしいというだけでいいが、これはなぜこんなことに取り組んでいるかをお客様に知っていただかなくては意味がない。店頭売りの場合、売り場のポップだけでは表現ができないので、QRコードをスマートフォンなどで読み込むことで無印良品のサイトの特集ページに飛べるようにしました」(神宮氏)。

「コオロギせんべい」の袋に印刷されたQRコードを読み込むと、無印良品の特設サイトに飛ぶ
「コオロギせんべい」の袋に印刷されたQRコードを読み込むと、無印良品の特設サイトに飛ぶ

面白いのは、同社の社内展示会で「コオロギせんべい」の試食会を開催したときのこと。せんべいの横に丸のままの食用コオロギを置いたところ、「これも食べていいんですか?」と試食する人が続出したというのだ。単なる「見本」であったためあっという間になくなり、急遽グリラスから追加で取り寄せた。この時、「思ったより食べてみたいという人が多いんだな」と神宮氏は手ごたえを感じたそうだ。

それにしても、なぜコオロギなのか。なぜフィンランドでも日本でも、真っ先に昆虫食材としてコオロギが取り上げられるようになっているのか。その謎は次回、解いていきたい。

*次回は、昆虫食材、特にコオロギに注目が集まっている理由を探りながら、昆虫食市場を展望します。