食用コオロギは、人の食品基準を満たすことやトレーサビリティが重要になるのに加え、実験用とは比較にならない規模で大量に飼育しなければならない。そうした中、今年5月25日にトヨタ自動車グループの部品大手ジェイテクト(大阪市中央区)が、食用コオロギの量産に向けたグリラスとの業務提携を発表。同社の自動化やIoT技術などを活用した自動飼育システムの開発に着手した。「まずは、給餌、吸水、収獲までを自動化をし、来年のうちに導入できればと思っている。その後は繁殖や加工も自動化。システムの他社への販売も進めていきたい」と渡邉氏は構想を描く。現段階でも既に月に数件、コオロギの飼育に関する問い合わせが入るという。ここにきて「コオロギせんべい」だけでなく、急速に食材としてコオロギが一般社会に大きく広がりそうな気配となってきた。

「虫グルメ」も注目、味のデザインがしやすい

今年6月4日の「虫の日」に東京・中央区に昆虫料理のレストラン「ANTCICADA(アントシカダ)」をプレオープンしたANTCICADA(レストランと同名のチーム)代表、篠原祐太氏にもコオロギについて話を聞いた。篠原氏は、幼少時より食べ物としての虫に親しみ、数年前にはお客として訪れていたラーメン店との共同開発による「コオロギラーメン」を売り出し、全国各地のイベントなどでお客を引き付けてきた。注目の「虫グルメ」の第一人者だ。

多種多様な虫を食べてきた篠原氏にとってコオロギはどうした位置付けなのか。同氏は「コオロギは雑食性なので、野生の虫は個体によって食べているものが微妙に違います。身近な虫で安心感のある味わいながら、意外に奥深い」と話す。「養殖で使われるのは、フタホシコオロギやヨーロッパイエコオロギですが、フタホシの方がうまみが強い分、若干のえぐみや苦みがある。ヨーロッパイエコオロギは上品できれいな味わいでその分、パンチは弱く食材として使い方が難しい。もっとも、いずれもエサを変えると全体の味わいが変わります。養殖では、『こういう味をだしていこう』というデザインがしやすく、味わいの面白さが広がる虫。この葉っぱしか食べないという虫は、そうした幅の広さはないですから」

ちなみに、ANTCICADAは今年4月末よりコオロギラーメンのオンライン販売を開始。「100食出れば」と考えていた初回の販売では、予想を大きく上回る300食のオーダーが入った。このラーメンにはトッピングとして姿そのままの揚げコオロギが入り、麺にもコオロギが練り込まれているが、出色はなんと言ってもその出汁。少量の昆布、シイタケ、ショウガを使用しているものの、90パーセント以上コオロギをベースとした出汁で、グリラスのコオロギに加え、風味が異なる太陽グリーンエナジー(埼玉県比企郡嵐山町)のコオロギも使用する。

出汁の取り方にもこだわっている。上品できれいな味わいの水出汁と、コオロギを煮出して取る出汁を合わせる。煮出しの出汁は、芳ばしさやいい意味でのえぐみが生きているのが特徴だ。「それぞれどのぐらいの時間をかけ、どの程度の温度で出汁を取るかでも味わいは全く変わってくる。微調整しながら、出汁の割合も変えるなどして作っています」(篠原氏)と言う。それだけ、取り組みがいがある食材ということなのだろう。

通販で入手したANTCICADA「コオロギラーメン」を作ってみたところ。サクサクの揚げコオロギもおいしいが、濃厚ながら透明感もあるコオロギ出汁のスープが出色。残ったスープで蕎麦を食べてもおいしかった(写真:メレンダ千春)
通販で入手したANTCICADA「コオロギラーメン」を作ってみたところ。サクサクの揚げコオロギもおいしいが、濃厚ながら透明感もあるコオロギ出汁のスープが出色。残ったスープで蕎麦を食べてもおいしかった(写真:メレンダ千春)

昆虫食市場に追い風

篠原氏は、「2020年は人々の昆虫食への意識が大きく変化するチャンスかもしれないと思う。新型コロナウイルスにより、これまでの生活が立ち行かなくなることが本当にあり得るというリアリティを目の前に突き付けられたからです。新しい可能性にスポットライトが当たりやすくなっている」と話す。確かに企業の動きだけではなく、未曽有の事態は昆虫食への関心を高める契機となりそうだ。

先行する欧州では、これまで国ごとに食用昆虫への対応が異なっていたが、欧州連合(EU)の欧州食品安全機関(EFSA)が間もなくミールワームやコオロギなどの虫を人間が消費するのに安全な食材として認めるだろうと今春、英紙ガーディアンが報じた。世界的にも、昆虫食市場は大きく加速しそうな勢いだ。

取材の終わり、渡邉氏や無印良品の「コオロギせんべい」の開発を担当した良品計画 食品部 菓子・飲料担当カテゴリーマネージャーの神宮隆行氏にコオロギのお薦めの食べ方を聞くと、「乾燥やローストしたものに塩などだけかけて、そのまま食べるのがおいしい」と言う。「例えば、柿の種のおかきの代わりにピーナッツとコオロギを合わせたら、ビールのつまみにぴったり」と神宮氏。遠くないうちにコンビニの棚にごく普通にそんな商品が並ぶ日がくるだろう。そう考えると、とても愉快な気分になってくるのである。