温暖化と人口増大が進む世界で、コメが未来の食糧危機を救うかもしれない。そんな夢を見させてくれる技術が現れた。2020年9月、農研機構 九州沖縄農業研究センターから発表された、驚きの超多収栽培技術がそれだ。まだ試験レベルだが、10アール(1アール=100平方メートル)当たり1.5トンの収穫量(反収)を実現。10アールの水田から25俵(1俵は60キロ)のコメが穫れる計算になる。一般的にコシヒカリの反収は9俵ほどだから、単純計算で3倍近い衝撃的な数字だ。もちろん専用品種でのデータであるため、常食用のコメで同じような量が穫れるわけではない。しかし、理論上は同一品種なら1.5倍の収穫が見込める。今後のコメづくりの常識を大きく変える可能性を秘めている。

発表された多収栽培技術で育てられている水稲。10アール当たり約1.5トンという驚きの収穫量を実現した(写真提供:農研機構)
発表された多収栽培技術で育てられている水稲。10アール当たり約1.5トンという驚きの収穫量を実現した(写真提供:農研機構)

今回、農研機構が発表した10アール当たりの収穫量(反収)で1.5トンという驚異的な数値は「再生二期作」という手法を使って実現された。再生二期作というのは、簡単に言えば「1度の田植えで2回収穫できる栽培技術」のこと。1回目の収穫の後、刈り取った稲の切り株から茎を再生させて、もう一度稲穂を実らせて2回目の収穫を行う。

一般に、切り株から再生する茎のことを「ひこばえ」と呼ぶ。「蘖」「孫生え」などと書かれ、俳句の季語にもなっているので、ご存じの人もいるのではないだろうか。刈り終わった後の田んぼを観察すると、切り株から「ひこばえ」が出ているのをよく見かける。再生二期作は「ひこばえ」を利用することから「ひこばえ農法」とも呼ばれる。日本ではあまりなじみのない栽培方法だが、鹿児島や宮崎、高知など、一部の温暖な地域での事例がある。多年生植物である稲の特性を利用した栽培法だ。

再生二期作では、2回目の収穫量は1回目に比べてかなり少ないというのがこれまでの常識だった。このため、再生二期作は、どちらかというと多収性というよりも、田植えを1回で済ませられる省力化の観点で語られることのほうが多かった。また、国内では二期作に取り組める地域が限られるため日本ではほとんど注目されてこなかった経緯がある。

こうした中、農研機構 九州沖縄農業研究センターでは、九州の温暖な気候を生かしつつ、最近の平均気温の上昇などを念頭に、多収をターゲットに定めて再生二期作の技術開発に挑戦してきた。

通常の二期作は田植えも収穫も2回だが、再生二期作では1回の田植えで2回収穫する。農研機構では、最初の収穫を終えた切り株に栄養分が残り、切り株から新しく再生した茎や葉がこの栄養分をうまく使って成長し、2回目の穂を実らせると考えている(資料提供:農研機構)
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通常の二期作は田植えも収穫も2回だが、再生二期作では1回の田植えで2回収穫する。農研機構では、最初の収穫を終えた切り株に栄養分が残り、切り株から新しく再生した茎や葉がこの栄養分をうまく使って成長し、2回目の穂を実らせると考えている(資料提供:農研機構)

開発者自身が驚いた1.5トンの超多収

今回の成果を発表した研究者は、農研機構 九州沖縄農業研究センターで水田作研究領域 水田栽培研究グループ長を務める中野洋さんだ。中野さんは、長年、水稲の多年生植物としての特性に着目し、年々温暖化が進む状況を念頭に置きながら、今回の技術開発に取り組んできた。そして、様々な工夫を重ねることで約1.5トンという反収を実現した。

1.5トンという数値については、開発した中野さん自身が驚いていると言う。「ここまで収量が上がるとは思っていませんでした。自分でやっておきながら変な話ですが、こんなに穫れるんだと……」と中野さんも自らの出した成果に驚きを隠さない。

試験圃場(ほじょう)を背に再生二期作について語る農研機構 九州沖縄農業研究センターの水田作研究領域 水田栽培研究グループ長 中野洋さん(写真:高山和良)
試験圃場(ほじょう)を背に再生二期作について語る農研機構 九州沖縄農業研究センターの水田作研究領域 水田栽培研究グループ長 中野洋さん(写真:高山和良)

地球温暖化で、二期作の適地が広がる

そもそも九州地方は、国内の他の地域に比べると、春や秋の気温が高く水稲の生育可能期間が長い。つまり、春の早い時期に田植えをして、秋遅くに収穫することができる。それでも二期作ができる地域は沖縄や鹿児島、宮崎など一部の地域に限られていた。ところが、最近では年々、平均気温が高くなり、中野さんの研究フィールドがある福岡県筑後市、久留米市近辺でも、再生二期作による多収化にトライできる条件を満たすようになってきた。

中野さんは、温暖化が進むと再生二期作による多収化技術の重要性が増すと考え、田植えや収穫の時期や刈り取りの高さなど様々なパラメータを変えて、どれだけ収量が増やせるかを検証しつつ、同時にメカニズムの解明に取り組んできた。栽培用に選んだ品種は、できるだけ早く田植えができて生育期間が長く取れるように、多収性能の高い「北陸193号」に早生系の「べこあおば」という多収品種を掛け合わせ、さらにもう一度「北陸193号」と掛け合わせたものを使った。

この結果、気象条件に恵まれた2017年と2018年は、2年連続で極めて高い多収性を確認することができた。2017年と2018年の平均値では10アール当たり1.41トンの収穫量(玄米収量)を達成。最大値は約1.5トンの反収を実現している。