シラスウナギ、スルメイカ、サクラエビ、そしてサンマ──。昨今、毎年のように、食卓でお馴染みの魚介類の極端な不漁が伝えられるようになった。しかし、多くの場合、その増減は対前年比で語られるため、私たち消費者は水産資源の長期的な減少という事実をなかなか認識できずにいる。こうした状況下で、2020年12月、資源管理を重視した新しい漁業法が発効した。実に70年ぶりの改正で、未来の漁業を守るための取り組みが本格化すると期待されている。ここでは東京海洋大学 准教授で水産資源学の専門家である勝川俊雄氏に、今、日本の漁業・水産業が置かれている危機と今後目指すべき未来について話を聞いた。

最初に認識しておきたいのは、資源量を大きく減らしているのはサンマやスルメイカなど一部の魚種だけではないということだ。

東京海洋大学・准教授の勝川俊雄氏は、日本の水産資源の現状について「全体的に底が抜けている」と表現する。勝川氏は水産資源のエキスパートで、日本の漁業を持続可能な産業に再生するために積極的に活動してきた。

さらにこうも続ける。「もう待ったなしの状況です。サンマとかスルメイカなどガクッと減っているものについては話題になりますが、それ以外の魚種もだいたい減っています。天然魚の漁業生産は25年前と比べて半分に落ち込んでいて、この状況を放置しておくと今後ますます漁業は衰退し、水産物が十分に供給されないようになってしまいます」(勝川氏)。

勝川氏は、2020年7月に上梓した自著『図解入門 業界研究 最新漁業の動向とカラクリがよ~くわかる本』(秀和システム)の中で、2008年から2018年までの10年で、主要魚種68種類のうち59の魚種で漁獲量が減少し、そのうち20魚種は半分以上に漁獲を減らしていると指摘している。

この20魚種の10年間の減り方を見ると、多くの人が愕然とするのではないだろうか。長年、日本人の食卓を飾ってきた魚介のメーンキャストが軒並み半分以下に漁獲量を減らしているのだ。まさに勝川氏が言うように「底が抜けている」状況だと言っていいだろう。

2008年からの10年で漁獲量が半分以下に減った魚種とその減少の程度を示したもの。表は、勝川氏の近著『図解入門業界研究 最新漁業の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)から引用した
2008年からの10年で漁獲量が半分以下に減った魚種とその減少の程度を示したもの。表は、勝川氏の近著『図解入門業界研究 最新漁業の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)から引用した
水産資源のエキスパートでこの分野のオピニオンリーダーの1人である東京海洋大学 准教授の勝川俊雄(かつかわとしお)氏。一般社団法人「海の幸を未来の残す会」の理事も務める
水産資源のエキスパートでこの分野のオピニオンリーダーの1人である東京海洋大学 准教授の勝川俊雄(かつかわとしお)氏。一般社団法人「海の幸を未来の残す会」の理事も務める
勝川氏の近著『図解入門 業界研究 最新漁業の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム、2020年7月刊)
勝川氏の近著『図解入門 業界研究 最新漁業の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム、2020年7月刊)

日本の漁業生産量は最盛期の3分の1に衰退

漁業資源の減少と同期するように、日本の漁業もこの30年以上、衰退し続けている。農林水産省の「海面漁業生産統計調査」を見ると、1984年には1261万トンあった漁業生産量が、2019年には約414万トンと3分の1以下にまで減少している。この数字は、海で穫れる漁獲生産量だけを見たもの。この生産量は遠洋漁業、沖合漁業、沿岸漁業と海面での養殖業の生産量を合計したものだ。

200海里時代になって以降、日本の排他的経済水域(Exclusive Economic Zone:EEZ)を離れた公海や他国のEEZで操業する遠洋漁業が大きく落ち込んでいることはわかりやすい。しかしそれだけでなく、主に日本のEEZ内で操業する沖合漁業や日本の沿岸近くで行う沿岸漁業も大きく漁獲量を減らしているのだ。1984年の漁獲生産量を100%としたときに2019年の数値は、沖合漁業では28.3%、沿岸漁業も41%にまで減らしている。

日本の漁業生産量は最盛期の3分の1に減少。この図は、海で行う漁業・養殖業の生産量推移をグラフにしたもの(単位は1万トン)で、1984年(昭和59年)には約1261万トンあった漁業生産量が、2019年(平成元年)農林水産省の「海面漁業生産統計調査」の数値を元に作成した
日本の漁業生産量は最盛期の3分の1に減少。この図は、海で行う漁業・養殖業の生産量推移をグラフにしたもの(単位は1万トン)で、1984年(昭和59年)には約1261万トンあった漁業生産量が、2019年(平成元年)農林水産省の「海面漁業生産統計調査」の数値を元に作成した
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