日本の水産業が転換期を迎えている。約70年ぶりの大改正となった新しい漁業法が昨年(2020年)12月から施行され、科学・定量的な資源評価をベースにした漁獲規制と資源保護が前面に打ち出された。水産庁は2027年までに「スマート水産業」を実現し、資源の持続的な利用と水産業の成長産業化を両立させようとしている。このためにはデジタル技術、つまり「水産DX」の実装が欠かせない。今回、日本を代表するスマート水産業、水産DXの専門家である、公立はこだて未来大学教授で同大学マリンIT・ラボ所長の和田雅昭氏に話を伺った。同氏の話を通じて、水産DXがつくる持続可能な水産ビジネスの姿を紹介する。
世界の漁業・水産業が拡大基調にあるのに対して、日本の漁業は漁獲量も資源量も就業者も減り続けている。令和2年版の『水産白書』によれば、この30年で漁業生産量は約6割、生産額も約4割減少した。零細が多く高齢化も進む漁業従事者の数はこの30年間でやはり6割減っている。このまま何の手も打たなければ日本の漁業・水産業は存続すら危うい状況にある。まさに崖っぷちだ。
昨年12月に施行された新しい漁業法が、70年ぶりに大改正されたのもこうした背景があるからだ。新漁業法には「水産資源の持続的な利用を確保するとともに、水面の統合的な利用をはかり、もって漁業生産力を発展させること」と明記されている。「資源保護」と「漁業生産の復活」を前面に押し出しており、政府・行政の強い危機感が見て取れる。
では、どうやって資源保護と漁業生産の復活を実現するのか……。
切り札として期待されているのがデジタル技術とデジタルデータの活用だ。水産業のデジタル・トランスフォーメーション、略して「水産DX*」、または少し範囲を狭めて「マリンIT」などとも呼ばれる。
この水産DXでは、水産物の水揚げデータや海域情報、気象条件、魚群情報など様々なデジタルデータを徹底的に活用する。水産庁では、サプライチェーン全体でデジタルデータをフル活用した水産業のことを「スマート水産業」と呼び、2027年度には次世代水産業の実現を目指すゴールを描いている。漁業生産だけでなく資源評価にも利用し、さらには加工・流通、販売といったサプライチェーン全体で連携活用していく考えだ。
データ活用で、わからなかったことがわかるように
水産DXの専門家であり日本のスマート水産業を推進するオピニオンリーダーの一人、公立はこだて未来大学 マリンIT・ラボ所長の和田雅昭(わだまさあき)教授は、日本の水産業が置かれている現在の状況について次のように語る。
「水産庁がスマート水産業という言葉を使い始めて、ようやく様々なデータを活用していきましょうということになりました。今は、こうしたデータに基づいて漁業生産や資源評価などをしていこうという方向に向かっています。これがうまくいけば、これまでわからなかったことがわかってくる。いろいろと期待が持てるようになってきたところです」
スマート水産業で扱うデータには実に様々なものがあり、扱う人の立ち位置によって必要なデータは変わってくる。しかし、漁業の現場に限れば、「いちばん重要なものは単純に位置情報と漁獲情報」(和田教授)ということになる。つまり、「どこの漁場で、いつ、どういう操業をして、どれだけの量が穫れたか」というデータだ。
