2021年7月、飲食店や料理人を支援することをミッションに掲げた興味深い複合施設が大阪・梅田にオープンした。その名は「カンナチュール キッチン&ベース」。新型コロナ禍の中で試行錯誤を続ける飲食関係者の事情を汲み取り、「家飲み」などの新需要に対応できる商品開発の支援を提案する。施設の企画・運営を手がけるのはエイチアンドダブリュー株式会社。同社は食という手段を通じて、衰退に向かう地域経済の活性化や地域コミュニティの維持・継続もにらむ。カンナチュール キッチン&ベースの取り組みを通じて、飲食分野の新しい可能性を探る。

新型コロナウイルスの影響が長引くなか、全国的に飲食業、観光業のダメージは深刻だ。店舗や宿泊施設に食材を供給する農業、水産業などの生産者も、連鎖的な売り上げの低迷に苦しんでいる。

そんな厳しい状況下ではあるが、「大阪におもしろい場所が現れてますよ」と関西在住の友人に教えられた、飲食分野の施設がある。筆者は大阪を代表する繁華街キタの阪急東通商店街に向かった。

阪急東通商店街は、大阪・梅田の阪急百貨店の東側に広がるアーケード商店街である。東西約450mをつなぐ阪急東第一商店会、阪急東第二商店会、阪急東第三商店会と、パークアベニュー堂山商店会(ここはアーケードなし)、南北に交差する阪急東中央商店街、阪急東中通商店街の6つの商店街からなる巨大な商業エリア。飲食店を中心に、ファッションなどの小売店、映画館、ライブハウスなどがあり、新型コロナ禍以前は、昼も夜も大勢の人で賑わっていた。

コロナ禍の阪急東通商店街は、閉店した店も目につき、経済的な影響が生々しく感じられた。阪急東中通商店街を左折してしばらく歩くと、突然、東京でいえば代官山のセレクトショップのような洒落た店舗が現れた。

入ってすぐの広いスペースでは、デザイン性の高い缶詰や瓶詰めが展示販売されている。レジの左奥はゆったりしたカフェのようなスペースで、右奥にはプロ仕様の厨房が見えた。

カンナチュール キッチン&ベースの外観(撮影:山本真梨子)
カンナチュール キッチン&ベースの外観(撮影:山本真梨子)
店内のカフェスペース。コワーキングやパーティー、会議など多目的に使用可能。左側の壁には立ち飲みのできるカウンターの設置が予定されている(写真撮影:山本真梨子)
店内のカフェスペース。コワーキングやパーティー、会議など多目的に使用可能。左側の壁には立ち飲みのできるカウンターの設置が予定されている(写真撮影:山本真梨子)

ここが友人に教えられた施設、「カンナチュール キッチン&ベース」だった。施設の企画・運営を手がけるのはエイチアンドダブリュー株式会社(以下H&W)。食分野のマーケティング支援や、缶詰などグロサリー商品のマーケティング企画・商品開発を主事業とする。

飲食店や料理人を支援する商品開発拠点

まずは、このカンナチュール キッチン&ベースが備える機能を紹介する。大きく、次の5つである。

(1)商品開発マーケティング支援
 (2)レンタルキッチンサービス
 (3)リモート撮影サービス
 (4)各種デザイン制作
 (5)ECサイト構築と運用支援

順を追って説明していこう。まず1つ目の「商品開発マーケティング支援」とは、H&Wが展開する缶詰ブランド「自然派缶詰 カンナチュール」をはじめとした缶詰や瓶詰めなどの商品を、飲食店事業者や料理人と一緒に開発していく取り組みを指す。

同社の缶詰ブランドであるカンナチュールには、いくつかの特徴がある。1つは、「自然派」と銘打っているように、製造段階において化学調味料や保存料を使用していないこと。もう1つは、地方の有力生産者や飲食店・料理人と組み、商品性の高い高級食材とレシピを適用していること。これにより、東京の百貨店をはじめとする高級志向の売り場にも流通させられる「デリシャス缶詰」として、そのブランド価値を高めることに成功した。実際、カンナチュールは伊勢丹新宿本店や銀座三越などの売り場に並んでいる。

具体的にはどのように商品を企画・開発しているのか。「山の宝」という缶詰シリーズを題材に説明していこう。

この「山の宝」は、パッケージ外箱に記されたシリーズ名の毛筆の書き文字が印象的で、日本画調のアマゴ、鹿、猪のイラストが映える。アマゴの缶詰が1600円台、鹿肉が1900円台、猪肉が1900円台という値段からも、明らかに高級グルメ路線とわかる。

通りに面した売り場、展示スペース。同施設の運営主体であるH&Wによる缶詰ブランド「自然派缶詰 カンナチュール」シリーズの缶詰などが商品説明とともに並ぶ(写真撮影:山本真梨子)
通りに面した売り場、展示スペース。同施設の運営主体であるH&Wによる缶詰ブランド「自然派缶詰 カンナチュール」シリーズの缶詰などが商品説明とともに並ぶ(写真撮影:山本真梨子)

「うちの缶詰には全てストーリーがあるんですよ」と語るのは、筆者を案内してくれたH&Wの坂本一平さん。「山の宝」のストーリーを聞くと、日本の食文化の一端を支えてきた料理屋が持ち続けている、料理と地域と次世代への思いが見えてくる。

「山の宝」の商品開発の起点となったのは、岡山県北部の真庭(まにわ)市美甘(みかも)地域にある老舗割烹料理屋、「しげや旅館」を営む笹尾充さん。真庭市美甘地域は、中国山地のど真ん中。日本各地の例にもれず、過疎化が進んでいるという。社長で板前を務める笹尾さんの「若い世代に産業を残したい」との思いから、廃校となった地元の中学校を缶詰製造工場にして、H&Wとのコラボで生産を始めた。それは3年前のこと。笹尾さんは当時、80歳だったという。つまりは御年80で手がけた新規事業である。

「山の宝」シリーズの缶詰。高級感のある化粧箱入りで、ギフト需要に応える(写真撮影:山本真梨子)
「山の宝」シリーズの缶詰。高級感のある化粧箱入りで、ギフト需要に応える(写真撮影:山本真梨子)