コロナ禍で外食産業は厳しい状況に立たされている。「コロナとの共生」を志すレストランが取り組んでいるのが、レストランのデジタル化、つまり「レストランのデジタル・トランスフォーメーション(DX)」だ。きっかけは「自宅でレストランの味」という顧客のニーズに応じるためのデリバリー対応やテイクアウト対応。これを起点に注文処理のフルデジタル化、またさらなるデジタル化により顧客の再訪を促し満足度向上を狙うことも可能だ。来店客の減少が著しい中、デジタル化への投資は厳しく見えるが、乗り越えた先にあるのは「顧客とつながりその声を経営に反映する」というレストラン本来の望ましい姿だ。クックパットで新規事業開発、スマートキッチン事業、スタートアップ支援を手がけてきた著者が、現状の分析と共に近未来の外食産業の姿を予測する(編集部)。

11カ月ぶりに緊急事態宣言解除となった外食の危機的状況

2020年春からの新型コロナウイルスの流行に伴い、東京や大阪などでは感染対策として時間短縮や酒類提供自粛が続いていたが、2021年10月25日、およそ1年ぶりに自治体からの要請が解除されることとなった。

この長く続いている新型コロナの影響は、外食産業の在り方に非常に大きな影響を及ぼしている。

飲食業におけるコロナ関連倒産数の推移。倒産件数自体はコロナ禍が始まった2020年より減少しているものの、コロナ関連倒産の件数は増加傾向にある(グラフ中の赤で示されている)(出所:東京商工リサーチ「2021年(1-7月)「飲食業の倒産動向」調査」、https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210806_01.html)
飲食業におけるコロナ関連倒産数の推移。倒産件数自体はコロナ禍が始まった2020年より減少しているものの、コロナ関連倒産の件数は増加傾向にある(グラフ中の赤で示されている)(出所:東京商工リサーチ「2021年(1-7月)「飲食業の倒産動向」調査」、https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20210806_01.html)
ファストフードや喫茶、ファミリーレストランなど飲食の業態別の売上高推移。コロナ禍に入ってから、特に居酒屋とディナーレストランが大きく影響を受けている(図:日本フードサービス協会のデータを基に筆者が作成)
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ファストフードや喫茶、ファミリーレストランなど飲食の業態別の売上高推移。コロナ禍に入ってから、特に居酒屋とディナーレストランが大きく影響を受けている(図:日本フードサービス協会のデータを基に筆者が作成)

業態別売上高の推移を見ると、2020年3月に実施された新型コロナ流行に伴う緊急事態宣言をきっかけに飲食業界全体の売り上げが落ち込み、特に時間帯の制約と酒類の提供への依存度が大きい居酒屋とディナーレストランが大きく影響を受けている。

外食関連上場企業の各種決算を見ても、増益しているのは日本マクドナルドホールディングス、日本KFCホールディングス、モスフードサービスなどのファストフードのみ。その他の外食企業は大きく売り上げを落としている。

ファミリーレストランも居酒屋と比較すると売上減が少なく見えるが、ロイヤルホールディングスでは約300億円、すかいらーくホールディングスでは約190億円もの自己資本がコロナの影響により消失した(2020年12月末時点)。ファストフード以外の業態は厳しい状況にあると言っていい。

未来のレストランのヒントは「デジタル化」にある

行きたい店をネットで検索し、店を訪問。店員と直接対面して話をしながら、他の客と同じ空間で料理を食べる……。レストランの体験といえば、このような光景が当たり前だった。しかしコロナ禍に入ってからは、こうした当たり前の体験を「リスクが高い行動」として避ける人が増えた。これが、先にも触れた外食産業の低迷を引き起こしている。

長く続いているコロナ禍の生活は、人々の常識を大きく変えた。2021年11月現在、日本国内では感染者数が減少しつつあるが、海外では感染者が増えており、またいつ感染が拡大するか、予断を許さない状況にある。このため、すぐに人々の生活スタイルが元通りになるとは考えにくい。

だからこそ、レストランは「コロナとの共生」、そしてレストランが存在し続ける近未来に向けて進化する必要がある。今、世界中のレストランを救う手段として急速に普及しつつあるのが、レストランのデジタル化、いわばレストランのデジタル・トランスフォーメーション(DX)だ。

レストランとテクノロジーが融合して生まれる新たな価値、いわば「レストランテック」に類する技術やサービスを収集し整理したカオスマップ(図:筆者作成。拡大図と各分類の詳細は筆者がクックパッド運営のWebメディア「FoodClip」で執筆した記事を参照。
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レストランとテクノロジーが融合して生まれる新たな価値、いわば「レストランテック」に類する技術やサービスを収集し整理したカオスマップ(図:筆者作成。拡大図と各分類の詳細は筆者がクックパッド運営のWebメディア「FoodClip」で執筆した記事を参照。
「カオスマップ|飲食業界の進化、レストランテック(前編)」(https://foodclip.cookpad.com/10620/)、「DXで進化する顧客体験と経営。レストランテック(後編)」(https://foodclip.cookpad.com/11063/)

筆者はクックパットで食分野の新規事業開発やスマートキッチン事業、クックパットの経営資源を生かした食分野のスタートアップ支援を手がけてきた。その経緯から、レストランのDXを支えるデジタル技術や、そこから生まれる新たな価値についての調査・分析を進めてきた。その結果を食分野の関係者に分かりやすく示すべく、「レストランテック」に取り組む企業やサービスを世界と日本国内から集め、「カオスマップ」としてまとめた*。ここで言うレストランテックとは、レストランにテクノロジーを融合させることで生まれる新たな価値と、それの創出を目的とした技術およびサービス群を指す。
*筆者が作成した掲載全企業のリストは「FoodClip」Webサイトからダウンロードできる(有料)。

このカオスマップでは大きく、「ユーザー体験」「店舗」「デジタル化/DX」「無人化/自動化」「その他」という5つの領域に分けている。「その他」には例えばフードロス削減など社会課題への対応を意識した技術やサービスなどが配してある。

多様な技術やサービスが登場してきているが、新型コロナの流行によって最初に注目された領域が、左上の「ユーザー体験」のジャンル内における「外食の内食化」だ。感染を避けるべく在宅が増加し、外出する頻度は減ったものの、人は食べる必要がある。料理が苦ではない人であっても、「忙しいからなるべく手軽に済ませたい」「たまにはレストランの料理も食べてみたい」と思うのは自然なことであろう。こうした事情に合わせて「Uber Eats」や「出前館」などの料理宅配サービス(デリバリーサービス)が急成長を遂げた(図中の「Food Delivery」の欄)。利用者はスマホアプリから、レストランで作られた料理のデリバリーを依頼できる。

注目すべき点は、これらのデリバリーサービスの発達を受けて、出前に対応していなかったレストランも宅配に対応できるようになったことだ。実際、店内で食べる需要が減った分の損失をデリバリー需要で埋めるべく、デリバリー対応を進めるレストランが増えている。

デリバリーサービスに次いで広がったのがテイクアウト系サービスだ(図中の「Take out」の欄)。コロナ禍の中で普及してきたテイクアウト系サービスは、スマホアプリを通じて注文をするスタイルである。

デリバリーは家まで届けてくれて便利な半面、一人で食べる場合には手数料の割合が非常に大きくなってしまう。また、レストランに行ってから注文して自宅に持ち帰る従来型のテイクアウトの場合でも、作り置きされた料理を買って持ち帰る場合でも、店内で食べる体験と比較すると劣ってしまう。

最近登場したテイクアウト系サービスでは、顧客はスマホアプリで事前に注文しておく。そしてアプリから指定された時間に店に赴き、そこでできたての料理を店頭で受け取る。待ち時間なしで温かい食事を家に持ち帰られることがメリットだ。自分自身が移動する手間さえ受容できれば、高い配達料を払うことなく「レストランの味」を自宅で食べられる。こうした「テイクアウトアプリ」には「食べログテイクアウト」などがある。

これらを見ると分かるように、デジタル化は顧客の「自宅でもレストランの味を楽しみたい」というニーズを満たすべく、レストランの利便性を高めた。デジタル技術を使ったレストランのこのような進化は、コロナが終息したとしても、不可逆な動きとして定着していくことは間違いない。