飼育における環境負荷が低く、SDGs(持続可能な開発目標)時代の新しいたんぱく源として世界が注目する昆虫。中でもコオロギの市場の動きが内外で加速している。欧州委員会(EC)は2022年2月、食用のヨーロッパイエコオロギを認可。米国でもビジネス拡大への動きが進み、日本でも、コオロギ養殖のスタートアップが目につく。そうした中、2019年設立の徳島大発のスタートアップ、グリラスは昨年(2021年)、自社ブランドの食品販売に乗り出した。食品としてのコオロギは、これからどのように広がり得るのか。グリラスの渡邉崇⼈社長をはじめ食品開発にかかわった企業に、食材としてのコオロギの可能性について聞いた。

2020年に、無印良品がコオロギの粉末を使った「コオロギせんべい」を発売したことが大きな契機となり、コオロギは未来の食材として多くの日本人の興味を引き付けてきた。飼育の環境負荷が低い良質のたんぱく源として世界的に注目を浴びる食用昆虫の中でも、大きな存在だ。

欧州委員会(EC)はミールワーム、トノサマバッタに続く3番目の食用昆虫として、2022年2月にヨーロッパイエコオロギを認可。この食材の欧州連合(EU)全域での販売が可能になった。フィンランドのコオロギ養殖の先駆的企業であるエントキューブは、「認可を受け、これまで消極的だった南ヨーロッパの国々での関心が特に高まっている」(同社最高経営責任者・CEO、ジャッコ・コルペラ氏)と話す。米国とカナダで事業を展開するアスパイア・フード・グループは、現在カナダにテクノロジーを駆使した11階建ての巨大なコオロギ養殖施設を建設中だ。

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そうした中、国内では、コオロギの研究で知られる徳島大発スタートアップ、グリラスが次の一手を打ち出した。昨年(2021年)、自社の食品ブランド「C.TRIA(シートリア)」を立ち上げ、コオロギを使った食品の販売に大々的に乗り出したのだ。食用コオロギを養殖する同社は良品計画(東京・豊島)と共同の商品開発や、トヨタグループの部品大手ジェイテクト(愛知県刈谷市)と組んだ自動飼育システムの開発で話題を呼んできた。コオロギを用いた食品は、スナック類を中心に見かけるようになっているが、食品開発にも注力するとなると養殖事業とは異なり手間がかかる。グリラスはなぜこの分野に進出したのだろうか。

2021年6月から順次発売されてきたグリラスの自社ブランド「シートリア」シリーズ の食品(写真は一部)。菓子からパン、カレーまで1日の食事をイメージしたラインアップだ(写真:メレンダ千春)
2021年6月から順次発売されてきたグリラスの自社ブランド「シートリア」シリーズ の食品(写真は一部)。菓子からパン、カレーまで1日の食事をイメージしたラインアップだ(写真:メレンダ千春)

一見「コオロギ食」だと分からないブランド

「シートリア」シリーズの第1弾は、昨年6月発売のクッキーとチョコクランチ。これらを口火に、レトルトカレー、冷凍パンと次々と新商品をリリースしてきた。朝から夜まで1日の食事をイメージしたラインアップだ。商品に使用しているのは、本来は破棄される小麦のフスマを中心としたフードロスを餌として育ったコオロギ。SDGs時代に合った新食品として、第1弾の菓子2品が2021年の日経優秀製品・サービス賞で日経産業新聞賞を受賞している。

これらの商品を手に取ると、何にも増して驚くことがある。パッケージの外からはコオロギを使った食品だと分からないのだ。美しくデザインされたパッケージの表には、「C.TRIA」というブランド名が記されているのみ(C.TRIAは、同社が手掛ける「Circulated Cultured Cricket/循環型に養殖されたコオロギ」に由来する)。初めて見たときは、環境問題の代名詞であるようなコオロギを使った商品としては、パッケージが凝りすぎではと感じたが、そこにはグリラスならではの戦略があった。

昆虫食はメディアで大きく取り上げられることが多いが、まだまだ広く一般にその言葉や意義が知れ渡っているとは言いがたい。昆虫食は環境問題と切り離せない関係にあるものの、そもそも、欧米に比べ日本人は環境への意識が低い。

2022年2月上旬、グリラスが発表した食と環境・昆虫食に関する意識調査によれば、「食品を購入する際、地球環境や食に関係する課題に取り組んでいる企業・商品を選んでいるか」との問いに対して、「意識していない」「そのような企業・商品を選んでいない」と答えた回答者は全体の60パーセント強。つまり、そうした人の意識には引っ掛かりにくい食品というわけだ。調査では、昆虫食についての設問もあったが、「言葉を聞いたことがある程度」「言葉を知らない・聞いたことがない」人が、約40パーセントを占め、この言葉を知っており、かつ食べた・飲んだ経験のある人は、約12パーセントにとどまっている(インターネット調査。全国15~60歳の男女1000人が回答。2022年1月中旬実施)。

グリラスはこうした現状を打破する手段として、自社ブランドの食品開発に乗り出したのだ。

「おいしさで買ってもらえる」シーンを目指す

ガーリックとハーブを混ぜ込んだクッキー、トマトやイカスミのカレー、高菜やごぼうサラダのパンなど、食品メーカーなどと共に開発した「シートリア」の食品群は、コオロギではなく一般食品がライバルになるような内容だ。パッケージにはどこにもコオロギが優良なたんぱく源であるといった説明もない。

2021年の 日経優秀製品・サービス賞で日経産業新聞賞を受賞した「シートリア」のチョコクランチ(写真左)とクッキー(ココア味とハーブ&ガーリック味の詰め合わせ、写真右)(写真:メレンダ千春)
2021年の 日経優秀製品・サービス賞で日経産業新聞賞を受賞した「シートリア」のチョコクランチ(写真左)とクッキー(ココア味とハーブ&ガーリック味の詰め合わせ、写真右)(写真:メレンダ千春)

開発にあたっては、機能性よりも「食べたときの満足感」を重視したという。「パッケージの外側にコオロギをうたわないのは、我々としてはコオロギが入っているから買ってねというのは、好ましい売り方ではないと思っているから。現在は自社サイトで販売しているので、サイトを訪れる人にわざわざコオロギが入っていると知らせる必要がないのもあるが、それにも増して、我々はコオロギを食べることが当たり前である世界を作ろうとしている。コオロギが入っているからではなく、『おいしい』から買ってほしい。たんぱく源や機能性を求める人もいるけれど、基本的に食事はおいしいから食べるものでしょう?」とグリラスの渡邉崇⼈社長は説明する。

グリラスの渡邉崇⼈社長(写真:メレンダ千春)
グリラスの渡邉崇⼈社長(写真:メレンダ千春)

普通に考えれば、パッケージも環境問題を意識した簡素化したものとなりそうだが、「シートリア」 ではあえて凝ったつくりとし、お洒落であることに重点を置いた。正攻法では届かない広い層に訴求していきたいと考えたからだ。先のグリラスの調査では、昆虫食に対して「気持ち悪い」と答えた人は約42パーセントに及ぶ。「当たり前」の食材とするには、まだ人々の意識のハードルは高いのだ。「コオロギを育て、それから作ったコオロギ粉など原材料を売るだけの会社であれば、人の食文化まで変えることはできない」と渡邉社長は言う。目指すのは、コオロギを核にした食品の総合会社だ。

グリラスが養殖するフタホシコオロギ。コオロギは脱皮を繰り返すが、同社では成虫になる前に収穫する(写真:メレンダ千春)
グリラスが養殖するフタホシコオロギ。コオロギは脱皮を繰り返すが、同社では成虫になる前に収穫する(写真:メレンダ千春)