「日本酒ソムリエAI(人工知能)」をうたう「KAORIUM(カオリウム) for Sake」を導入して実績を挙げる店舗が出てきている。これは香りの特徴を言語化するAIシステム「KAORIUM(カオリウム)」の技術を適用したもので、AIベンチャーのSCENTMATIC(セントマティック)株式会社が開発した。日本酒は銘柄の多さが魅力の1つ。だが、作り手や売り手が日本酒それぞれの特徴をうまく表現することや、顧客が自分の好みを言語化するのは難しい。このシステムは、それらの課題を解決するポテンシャルを持ちうる。KAORIUM for Sakeの中身に迫りつつ、「香りを説明する言葉」が食分野にどんな広がりを与えそうかを探ってみよう。

日本酒が苦手という人は、最初に飲んだ日本酒の銘柄が自分の好みに合わず、そのまま遠ざかった人が多い。しかし、例えば、白ワインが好きと言う人に、フルーティーですっきりした日本酒の銘柄を冷やして勧めると、「飲みやすい!おいしい!」となるケースがほとんど。東京都世田谷区にある経堂の街でイベント酒場を経営する筆者は、そんな人たちをたくさん見てきた。

そうなる理由は、銘柄の多様性ゆえに、マッチングの難しい酒だということに尽きる。日本酒は風味、口あたり、度数などが、地域、酒蔵、製法、商品、製造年度といった要素によって大きく変わる。このような特徴を持った酒は世界的にも珍しいと言われる。同じ銘柄でも温度によって味と香りの幅が大きく変化するのも、他の酒類にはない特性だ。

京都の酒場で、日本酒ソムリエAIが教えてくれたこと

京都市の中心部、四条烏丸の交差点から徒歩5分の場所にある「京都酒蔵館(きょうとさかぐらかん)」は、京都府全域の銘柄が飲める日本酒専門店である。その店には、日本酒初心者の人も「好みの日本酒と出会えるように」とナビをするAI(人工知能)の日本酒ソムリエが“いる”らしい――。それを聞いて飲みに出かけたのは、昨年(2021年)12月のことだった。

京都酒蔵館(きょうとさかぐらかん)の店内。京都府全域の銘柄が飲める日本酒専門店ということで、店内には様々な酒瓶が並ぶ(写真撮影:山本真梨子)
京都酒蔵館(きょうとさかぐらかん)の店内。京都府全域の銘柄が飲める日本酒専門店ということで、店内には様々な酒瓶が並ぶ(写真撮影:山本真梨子)

事前に調べた情報によれば、特に日本酒ソムリエAIの面白さを体感できるのは「15種類の利き酒セット」。セットは2種類あり、1つは日本海側の宮津や丹後などの日本酒も含む京都北中部バージョン。もう1つは国内有数の酒処・伏見を含む京都南部バージョンである。筆者は、京都北中部バージョンと刺身盛り合わせ、湯葉、酒盗の創作ツマミなどのアテを頼んだ。

セットが運ばれてきた。日本酒が静かに波打つ15個のグラスも壮観だが、同時にカウンターに置かれたタブレットの画面に優しいパステル調の色模様と幾つもの言葉が浮かんでいるのに気がついた。それが、日本酒ソムリエAIの「KAORIUM for Sake」だった。

京都酒蔵館のカウンター。中央は「15種類の利き酒セット」の京都北中部バージョン。左のタブレット機の画面に示されたのが日本酒ソムリエAIの「KAORIUM for Sake」(写真撮影:山本真梨子)
京都酒蔵館のカウンター。中央は「15種類の利き酒セット」の京都北中部バージョン。左のタブレット機の画面に示されたのが日本酒ソムリエAIの「KAORIUM for Sake」(写真撮影:山本真梨子)

15種類の中には、筆者が15年ほど前から好んで飲んでいるなじみ深い銘柄の名前があった。木下酒造の「玉川」である。まずはこちらから飲み始めることにした。

その日供されたのは、「玉川」のラインナップの中でも「純米吟醸 祝」という初めて飲む酒だった。筆者は、日本酒を味わう際にスマホで酒造メーカーのWEBサイトを見ることを常としている。さっそく検索してみると、「寒い時期のみの限定品」「絞ったままを瓶に詰めた無濾過生原酒」「『祝(いわい)』という京都府産の酒米を使い、精米歩合は60%、アルコール分は17〜18.9%」などの情報が現れた。飲んでみると、「玉川」独特の力強い味わいとコク、絞ったままの鮮烈な感じも濃厚で、思わず「旨い」と口にしていた。

続いて、日本酒ソムリエAIを試してみる。「純米吟醸 祝」を口に含めながらタブレット上の商品名をクリックすると、スマホ検索と同じように酒米の種類、精米歩合、度数など、酒場のオジサンがよく口にするウンチク的な情報が現れるかと思いきや、予想とは異なる情報が目に飛び込んできた。色と言葉である。

KAORIUM for Sakeの画面例。指定した日本酒の銘柄に応じて、その味わいを示す言葉が示される(提供:SCENTMATIC株式会社)
KAORIUM for Sakeの画面例。指定した日本酒の銘柄に応じて、その味わいを示す言葉が示される(提供:SCENTMATIC株式会社)

クリーム色の「ふくよか」、透き通る水色の「すずしげ」、赤いリンゴ色の「あたたかみ」という3つのキーワードがやわらかい円とともにあり、そこに「ビスケット」「バニラ」「さくらんぼ」「キウイ」「青リンゴ」など、様々な言葉がふわふわと浮かんでいる。それらは日本酒の味わいを説明する言葉である。これらの言葉と筆者の感覚を照らし合わせると、確かに「バニラ」「青リンゴ」を微かに感じた。一方、「キウイ」は感じなかった。これはおそらく個人差であろう。

さらに面白いのは、「校庭に流れる夕風」「草花の芽吹く大地」などの情緒的、詩的な言葉を通じて風味の要素を表現していることだった。「校庭に流れる夕風」の文字列を眺めながら酒を舌先で転がすと、大昔、放課後の部活終わりの夕暮れ時を思い出し、脳内で村下孝蔵の「初恋」の甘いメロディーと歌声が静かに流れる気がした。玉川の「純米吟醸 祝」の味わいが意外な言葉や懐かしい情景の記憶と結びつき、これまで体験したことのない日本酒の楽しさの広がりを感じた。

これは、全く新しい酒の飲み方だと思った。お世辞ではなく、まさに日本酒ソムリエAIであるKAORIUM for Sakeのなせる技である。