何事も楽しくなければ続かない。フードロス問題も、「環境のため」という義務感だけで多くの人を動かすのは難しい。だがその壁を、テクノロジーの力で突破しつつある街がある。鎌倉だ。通貨システム「まちのコイン」を使ったフードロスの削減の取り組みを追う。

古都・鎌倉の象徴である鶴岡八幡宮の鳥居(写真:カクワーズ)
古都・鎌倉の象徴である鶴岡八幡宮の鳥居(写真:カクワーズ)

鎌倉市民のSDGs意識に火をつけた、地域密着型コイン

鎌倉市は、環境負荷の少ない「循環型社会」を作るために、「ゼロ・ウェイストかまくら」をスローガンに掲げている。焼却施設の老朽化を背景に、ごみそのものの減少を目指す中、2021年1月に導入したのが「まちのコイン」だ。現在、約8000人の市民が利用する。

面白法人カヤックが開発・運営する「まちのコイン」のアプリ画面イメージ(画像提供:面白法人カヤック)
面白法人カヤックが開発・運営する「まちのコイン」のアプリ画面イメージ(画像提供:面白法人カヤック)

「まちのコイン」は、同市に本社をおくコンテンツ開発会社、面白法人カヤック(以下カヤック)が企画・開発したデジタル地域通貨システム。スマホにアプリをダウンロードして使う。コインと称しているが、電子マネーなどと違い、法定通貨との換金性はない。あくまでもその地域限定で流通するもので、現在、鎌倉を始め全国17の自治体や企業が導入している。

通貨の単位は運用する団体が自由に決められ、鎌倉市は「クルッポ」。小田原市は「おだちん」、香川県多度津市は「どっつ」、秋葉原では「アキコ」など、いずれも地域のカラーを生かした親しみやすい響きだ。

鎌倉市では、この「クルッポ」が住民のSDGs意識を楽しく盛り上げ、フードロスの削減、ごみの削減に活躍しているという。

はたして、どのようにコインとフードロス削減が結びつくのか。現地を取材した。

あの鎌倉の名店も参加

鎌倉銘菓といえばなんといっても豊島屋の「鳩サブレー」が有名だが、この豊島屋でもクルッポを活用していた。

「豊島屋洋菓子舗 置石」は洋菓子専門店。銘菓鳩サブレーのソフトクリームも販売しており、多くの観光客で賑わう(写真提供:豊島屋洋菓子舗 置石)
「豊島屋洋菓子舗 置石」は洋菓子専門店。銘菓鳩サブレーのソフトクリームも販売しており、多くの観光客で賑わう(写真提供:豊島屋洋菓子舗 置石)

豊島屋が経営する洋菓子店「豊島屋洋菓子舗 置石」では、夕方5時以降は限定5名で、生ケーキ1000円以上の購入で300クルッポを支払いの一部、具体的には300円分に充てることができる。クルッポユーザーはケーキを割安に購入でき、残ったケーキのフードロスも減らせるというわけだ。

なお、クルッポは先ほども触れたように法定通貨と交換することはできない。ここでは結果的に300円相当の割引になるが、あくまでも「300クルッポをあげるとお得に買える」という形である。一般的なポイントのように、加盟店ならどこでも1ポイント=1円でためたり、使ったりできるシステムではない。

「豊島屋洋菓子舗 置石」の店頭。クルッポを活用したフードロスの削減に取り組む(写真:カクワーズ)
「豊島屋洋菓子舗 置石」の店頭。クルッポを活用したフードロスの削減に取り組む(写真:カクワーズ)

豊島屋・経営管理本部の成嶋昭男さんは、「ロスを減らせるのはもちろんですが、ケーキはやはり作ったその日のうちにお召し上がりいただくのがいちばん。クルッポがきっかけで、おいしいうちにお持ち帰りいただけるお客様が増えたのが嬉しいですね」と喜ぶ。レジでクルッポの存在を知り、その場でアプリをダウンロードする人も多く、「クルッポの話題が足を運んでいただくきっかけにもなっている」と、今後は豊島屋の他店舗への導入も検討しているという。

10カ月でスポット数は10倍に

「豊島屋洋菓子舗 置石」のように、まちのコインに加盟するお店や団体は「スポット」と呼ばれる。開発したカヤックでまちのコイン事業を担当する、ちいき資本主義事業部・長谷川裕子さんによれば、現在鎌倉市内には飲食店を始め、雑貨店や寺院など215のスポットが存在。1年足らずで10倍以上に増えたというから、地元で積極的に受け入れられているのが分かる。

スポットでは、QRコードを読み込んでクルッポをあげたり、もらったりする(写真提供:面白法人カヤック)
スポットでは、QRコードを読み込んでクルッポをあげたり、もらったりする(写真提供:面白法人カヤック)

「置石さんのように、ユーザー側がクルッポを“あげる”ことで、フードロス削減に貢献できるパターンもありますが、逆にユーザー側がクルッポを“もらう”形もたくさんあります」(長谷川さん)。

『まちのコイン』のアプリ内には、クルッポをあげる・もらうやりとりが300件以上並ぶ(2022年5月5日現在、画像提供:面白法人カヤック)
『まちのコイン』のアプリ内には、クルッポをあげる・もらうやりとりが300件以上並ぶ(2022年5月5日現在、画像提供:面白法人カヤック)

クルッポをもらってフードロス問題も含めたSDGsに貢献? いったいどういうことなのか。

「たとえば“ビーチでゴミ拾いをしたら300クルッポ”というように、ユーザーがSDGsに関連するアクションを起こすことでクルッポをもらえるんです。こうしたアクションをアプリ内では『体験』と呼んでいます。体験は、スポット側が自由に決められ、たとえば飲食店なら、“テイクアウトの容器を持参したら200クルッポ”、“完食したら100クルッポ”など、気軽にできるものが多数。もっと簡単なものでは、“お店で挨拶してくれたら100クルッポ”なんていうのもあります」(長谷川さん)

ビーチのゴミ拾いイベントは、頻繁に行われている(写真提供:面白法人カヤック)
ビーチのゴミ拾いイベントは、頻繁に行われている(写真提供:面白法人カヤック)

ユーザーのSDGs意識をくすぐる仕掛けの数々

自分が達成したSDGs目標とその回数をアプリ内で確認できる(写真提供:面白法人カヤック)
自分が達成したSDGs目標とその回数をアプリ内で確認できる(写真提供:面白法人カヤック)

たしかに完食も立派なフードロス削減。アプリ内にある同体験のページを見ると、しっかりとSDGsの「作る責任・使う責任」を達成するマークが表示されている。では「お店で挨拶」はどんなSDGsを達成するのだろうか。チェックしたら、「住み続けられるまちづくり」とあった。なるほど、こうした細やかな仕掛けがあることで、フードロス問題を含めた地域のSDGsに関心が生まれ、次のアクションにつながっていくのかもしれない。

「このSDGsマークも好評なんです。フードロス削減やSDGsというと難しく考えがちですが、ユーザーからは“これだけでもSDGsになるんだ”と、気軽にできることに驚く声がよくあがってきます。アプリでは、これまで自分が達成したSDGsの数や内容の履歴も確認できるので、“お得”だけではないモチベーションも生まれているはず」(長谷川さん)。

実際、最初は貯めたクルッポで物やサービスを買ったり、体験をしたりすることが目的だった人でも、「街のためにいいことができた」「お店の人とつながりを持てた」という達成感に魅力を感じ、積極的に活動を継続する人も多いという。このような動きが積み重なっていけば、フードロス削減への関心をさらに喚起できるかもしれない。