経済格差の広がる米国。ポートランドでも近年、ホームレスの増加が深刻な問題となっている。そんなホームレス問題に50年以上前から取り組んできた非営利団体Transition Projectsが、建築事務所Holst Architecture、建設会社Walsh Constructionらと共に今春、新しいコンセプトの超アフォーダブル住宅「Argyle Gardens」を完成させた。ホームレス問題の解決と地元コミュニティへの寄与をめざす、超アフォーダブル住宅とはどのようなものなのか、現地在住リサーチャーがレポートする。

建築費と維持費を最小限に抑えた超アフォーダブル住居「Argyle Gardens」

Argyle Gardensの外観(写真提供:Transition Projects)

Argyle Gardensは、所得が世帯年収中央値(MFI)の三割以下である生活困窮者でもこの先安心して暮らしていけるよう、「家賃を最低限にまで抑えること」を命題に考案された集合住宅だ。家賃を抑えるためには、構築費及び維持費をどこまで抑えられるかということが鍵となる。行き着いた形態は、(1)低所得者向けの簡易宿泊所(SRO:Single Room Occupancy Hotel)を現代風に蘇らせるというアイデアを(2)モジュラーデザインによって実現すること――だった。

SROと聞くと、ドヤ街を連想する人は少なくないだろう。アメリカでもSROが持つイメージは同様で、狭小の部屋と大勢で共有するシャワー、トイレ、台所がある日雇い労働者たちの宿泊施設が典型的なものだ。以前はあちこちに存在していたが、アメリカにおけるSROはここ四半世紀程で急速に衰退している。

しかし、SROには部屋を小さくして配管設備を共有にすることで、構築費及び維持費を大きく削減できるメリットがある。また、限られたプロジェクトでより多くの人々に住居オプションを提供できることも大きな特徴だ。そこで、これらのメリットを活かしながら、住人が尊厳を持って、長く暮らしたいと思える集合住宅を建設することが検討された。

その結果、一般的なSROとは一線を画した6人(6室)がシャワー、トイレ、台所を共有する、小さなスケールの「低所得者向け単身者住宅(LISAH:Low Income Single Adult Housing)」が誕生した。その背景には、この規模であれば、共有部分での住人同士の交流やコミュニティの構築が可能になるという考えが存在する。

Argyle Gardens内の様子(写真提供:Josh Partee)

LISAHの家賃は、月に290~570米ドル。これは、年金や障害年金、軍人恩給などの手当てのみでの支払いが可能となる金額だ。ただし、全てをこの価格に設定した場合、家賃のみで経営していくことは不可能になる。そのため、LISAHの維持費に貢献できる家賃設定(最も高い価格で700米ドル)をしたワンルームアパートも同数の36室併せて建設することになった。

様々な問題を一つずつ乗り越えて5年後に完成したArgyle Gardensは、1フロア6室の2階建て、計12室のLISAHユニット3棟と、ワンルームアパート1棟。管理人が常駐しており、住人トラブルから仕事の相談まで様々なサービスが提供されている新しい形態の住居となった。

ポートランド市初のモジュラー・ハウジング

Argyle Gardensの大きな特徴は、ポートランド市が初めて認可した「モジュラー・デザイン」の住居であることだ。

モジュラー・デザインとは、事前に設計された互換性の高い部品を組み合わせてユニットを作る設計手法のことで、品質管理がしやすいだけでなく、建築時間及びコストの削減や、効率良くレプリカを作れるといったメリットがある。Argyle Gardensの建物は、敷地から7マイルの距離にある工場で組み立てられ、各フロアがユニットとして現場に持ち込まれた(関連のYouTube動画)。

Transition Projectsの公共政策・資金部門のシニアディレクターTony Bernal氏(以下トニー氏)は、「モジュラー・デザインの採用により、現場と同時に工場で住居ユニットの制作を始めることができた。また、屋内でこのユニットを作れることは、秋から春まで雨の続くポートランドでは、大きなメリットだった」と語る。実際に建設に要したのは、わずか10カ月未満である。

Argyle Gardens内の様子(写真提供:Josh Partee)