2020年10月、イスラエルは人口比率に対するコロナ感染率において世界最高水準という不名誉な称号を得て、世界で初めて全国におよぶ二度目のロックダウンが行われた。コロナの第一波では厳しくも迅速な対応で感染者を抑え込み、コロナ対策の成功国としてイスラエルは賞賛を浴びていたが、9月に入ってから急速に感染者数が伸び、ついに人口比での感染率は世界最高水準となってしまった。このような状態になったイスラエルならではの背景と、それを乗り越えるためのイスラエルの最新テクノロジーを現地リサーチャーがレポートする。

ロックダウン中のエルサレムの様子(撮影:松井葉月)

“中東のシリコンバレー”と称される発展と、伝統を重んじるユダヤ教超正統派の両存

近年のイスラエルはスタートアップやテクノロジーの分野で世界から注目を集め、「発展している国」というイメージを持たれることが多い。しかしそれはイスラエルの一面でしかなく、実際に住んでいる身からするとそのイメージに対して全面的に肯定はできない。なぜなら私が住んでいるエルサレムには「超正統派ユダヤ人」コミュニティがあり、彼らはテクノロジーや発展と縁遠い生活をしているからだ。

一方は世界最先端のテクノロジーを駆使し、一方は18世紀さながらの生活をしている。それがイスラエルの面白みであり、この多様性が魅力だと言うことができる。しかし、今回のコロナ感染率の急増にはユダヤ教超正統派の人々が大きく関係していることもあり、手放しで国の魅力と楽観視はできない。イスラエルという国の「難しさ」を実感している。

テルアビブの高層ビル群(撮影:松井葉月)
ユダヤ教超正統派の人々(撮影:松井葉月)

マスクをせずに数千人規模の集会

超正統派の人々の言動が現地の報道にて日々取り上げられている。9月末から10月にかけて、イスラエルはユダヤ暦の新年を迎えた。お祈りやお祝いで集まることに対して更なるウイルスの蔓延を危惧し、この時期に合わせてロックダウンを実行した。

コロナ規制に抗議をする超正統派の人々(写真提供:岡庭矢宵)

しかしながら、このハイホーリーシーズンの一貫である「ヨム・キプール(贖罪の日)」に、少なくとも4000人の超正統派の人々が一つの大型シナゴーグに集まり、多くの人々がマスクを着用していなかったと現地メディアが報じた。別の日には規制のために地域を管理する警察官に対して超正統派の人々が石を投げ、2人が負傷し車両にも損害が生じた。さらにコロナで亡くなった有名なラビ(ユダヤ教の指導者)のお葬式のために、また数千人規模の集会が行われたという。

セファルディ歌手の岡庭矢宵氏は超正統派地区に住み、閉鎖的な彼らのコミュニティに実際に足を踏み入れ彼らと交流し、祈りを共にする世界的にも稀な人物だ。彼女はこの状況について下記のように述べた。

「ダーウィンの進化論すらも否定する彼らの価値観において、コロナという新しい脅威がどこまで認識されているのかは、はっきり言って未知数です。彼らは尊敬するラビの言葉には耳を傾けても、政府の命令には簡単に従いません。特にユダヤ教において最も聖なる日々とされる新年に、シナゴーグの閉鎖という通達を受けて、その動揺は如何ばかりだったか。さらに彼らにはインターネット、テレビといった通信手段がないことも珍しくありません。"集まる"ことが必須であり、それを回避できない状況ならば、別の手段をとらざるを得ないと思います」

ユダヤ新年に集まり祈る超正統派の人々。昨年の様子(写真提供:岡庭矢宵)

超正統派の人々は二度のロックダウンにおいて、政府の指令に従わず大人数で集まり続けてきた。岡庭氏の言うとおり、彼らには集まらないという選択肢は無いのだ。これは彼らだけの問題ではない。私達においても、集まることが今後永久に忌避され続けることに耐えられるのか。このコロナ禍において、こんなにも大規模に集まり続けてきたコミュニティは世界的に見ても稀である。イスラエルではそんな彼らを批判するだけではなく、それを解決するために新しいテクノロジーが開発され、多様性に満ちたこの国をより住みやすくしようと努力をしている。