事業拡大はSeabinが不要になる世界を実現するため

創業者の1人であるPeter Ceglingski氏は、プロダクトデザイナー出身。CEO(最高経営責任者)としての職務を担いつつ、今も変わらずデザインチームと共にSeabinをより良いものにするための取り組みを続けている。当面の目標は「ソーラー発電でポンプを動かし、プラスチックごみを再利用してSeabinを作ること」であり、最終的な目標は「Seabinが必要ない世界にすること」であると公言している。

CEOのPeter Ceglingski氏(写真提供:Seabin Project)
CEOのPeter Ceglingski氏(写真提供:Seabin Project)

2020年初め、Seabinは株式投資型クラウドファンディングサイト「Birchal」を通じて出資者を募るキャンペーンを展開。更なる飛躍へと踏み出した目的は、製造拠点をフランスからオーストラリアに移して規模を拡大すると共に、サブスクリプション方式の新たなサービスを実現するためだ。なるべく多くの人を巻き込むための戦略で、最低出資額を250豪ドル(約2万円)に設定し、1700人近い投資家を確保した。新型コロナウイルスが広がりつつあったにも関わらず、およそ180万豪ドル(約1億4400万円)が集まり、期待の高さに注目が集まった。

資金調達に成功したSeabinは、さっそく連邦・州政府や市役所といった公的機関をターゲットに、運用サービスのパッケージを展開する方向性を示した。民間企業相手であれば数週間で決まる話でも、公的機関相手の場合その何倍も時間がかかり、時には年単位になることも珍しくない。そこで、Seabin本体を提供するだけでなく、Seabin側が運用を担うことによって継続的に利用してもらえるようサポートしている。Seabinは潜在的なマーケットのわずか0.1%しか開拓できていないと考えているが、このように導入のハードルを下げることで利用者を拡大することを狙っている。また、継続的サービスの提供は経営を安定させるだけでなく、集積データの分析を通じてさらなる事業の発展に繋げられるメリットもある。

現在、シドニー市では世界初となるパイロットプログラムを実施中だ。シドニー湾20カ所に設置されたSeabinの日々の管理やメンテナンスに加え、回収したごみを分類してデータ化し、汚染の程度を示す指標を用いた影響の測定を行って報告書を作成したり、コミュニティ活動や啓発イベントを行ったりなど、包括的なソリューションを提供するとしている。2021年7月まで続く12カ月のこの試験期間中に、フィルターを通過する約43億リットルの海水からオイルや燃料を除去し、少なくとも28トンの海洋浮遊ごみが回収される見込みである。このプログラムに賛同する企業等が支援を申し出ており、シドニー湾に浮かぶSeabinの数はさらに増加している。

しかし、海洋汚染問題は深刻さを増す一方だ。特に目に見えないマイクロプラスチックの回収は難しく、海の生態系だけでなく、人体への影響も懸念されている。このままの状況が続けば、2050年には海中のプラスチックは9億トンを超え、魚の重量を上回ることになる――そんな衝撃的な報告書をサーキュラー・エコノミーを推進するEllen MacArthur財団が発表したのは、2016年のことだった。

毎日4.6トンの海洋ごみを取り除き、6億リットルの水をろ過しているSeabinがポジティブな社会的インパクトを生み出していることは間違いないが、それはあくまでも対症療法である。沿岸の浮遊ごみを地道に軽減することはできるが、海洋ごみの問題を根本から解決することには繋がらず、Seabinだけで世界の海を救うことはできない。ごみそのものを減らすことができなければ、世界の海はやがて取り返しのつかないことになってしまうだろう。

Seabin財団では、子どもたちが海洋ごみの問題と解決策について学ぶプログラムなど幅広いEducation Programを行っている(写真提供:Seabin Project)
Seabin財団では、子どもたちが海洋ごみの問題と解決策について学ぶプログラムなど幅広いEducation Programを行っている(写真提供:Seabin Project)

「海をきれいに」という前向きで分かりやすいコンセプトを掲げるSeabin Projectに対する共感と賛同は国境を越えて広がり、世界各地でグッドデザイン賞、サステナビリティ賞、イノベーション賞、ソーシャルインパクト賞といった様々な分野の賞を受賞している。効果を可視化できる商品への評価はもちろん、50%営利・50%非営利というユニークなビジネスモデルで、地球規模の社会的課題の解決に向き合っていることに対する評価も高い。非営利のSeabin財団は、教育、研究・開発、コミュニティ活動をキーワードに世の中に働きかけ、海洋プラスチック問題に対する危機意識を共有し、人々の意識や消費文化、ライフスタイルを変えることにも取り組んでいる。今後ますますの拡大を見せるであろうSeabin Projectに引き続き注目しつつ、私たち一人ひとりがSeabinの不要な社会を実現するための意識改革と行動をしていくべきだろう。

この記事は、TNCが主宰する世界70ヵ国100地域に暮らす約600人の日本人女性ネットワーク「ライフスタイル・リサーチャー」からの情報をもとに制作しています。日本と海外の価値を結ぶさまざまな企画・マーケティング分野で活躍しています。