「ソフトモビリティ」がパリの未来像を決定づける鍵になりそうだ。2009年の欧州議会リポートで話題にあげられたソフトモビリティは、「徒歩、自転車、キックボードなど、環境を優先した移動手段」を意味し、それを可能にするインフラも含んで語られる。この20年来、バスレーンの設置から貸自転車システム「vélib」の採用、緑化など、環境と共生する都市づくりに取り組んできたパリ市。パリ市がこれからどう変わろうとしているのかを知ることは、環境問題、高齢化、都心部の人口増加など、世界中の都市が直面している共通課題への示唆にもなるはずだ。パリ市が目指す未来の姿について、現地在住リサーチャーがリポートする。

市民の声が後押しとなり、広大な庭へと変化するエッフェル塔周辺エリア

パリと聞いて思い浮かべる街並みは、エッフェル塔や凱旋門があり、石畳の大通りが突き抜け、大通りの両端には19世紀のアパルトマンが建ち並ぶ、少しレトロで絵葉書のようなイメージであろう。

しかしパリに住む人達は、今、全く違うビジョンを抱いている。なぜならパリ市は都市改造を行っている最中で、住人の意見を取り入れたグローバルな環境都市へと生まれ変わっているからだ。自転車レーンが充実し、車優先だった広場がゆったりとした歩道に変わり、環境に配慮した新建築が次々と建設されている。2024年のパリ・オリンピックも、「オリンピック史上最もグリーンな大会」を目指している。

2024年完成予定のGustafson Porter + Bowman社によるプロジェクトのイメージ図(写真提供:Gustafson Porter + Bowman)
2024年完成予定のGustafson Porter + Bowman社によるプロジェクトのイメージ図(写真提供:Gustafson Porter + Bowman)

そんなパリ市が進める都市開発計画には、エッフェル塔周辺を巨大な庭に変えるプロジェクトがある。その内容は、エッフェル塔からイエナ橋を渡ってセーヌ川を越え、トロカデロ広場に至る約45ヘクタールを再デザインし、緑地化するというもの。4.7ヘクタールの東京ドームと比べるとほぼ10倍の広さである。

2019年5月、エッフェル塔の背景を新たにするために行われたコンペティションで採用されたのは、ランドスケープ・デザインを手掛けるイギリスのGustafson Porter + Bowman社の案。たくさんの緑に囲まれたエッフェル塔のイメージ図が発表されているが、パリ市長のAnne Hidalgo氏はこの計画について「都心で小鳥のさえずりがまた聞こえるようになる、これまでにない規模の素晴らしき庭」と話している。

画期的な特徴の1つは、エッフェル塔の足元に架かるイエナ橋までも公園にしてしまう点だ。現在のイエナ橋の交通量は非常に多いが、ソフトモビリティを取り入れることで車両の通行を公共交通機関のみにし、歩行者を優先する構造に生まれ変わる予定だ。エッフェル塔公式サイトの統計によると、エッフェル塔周辺を訪れる観光客の数は年間約3000万人で、その内700万人が実際に塔に登っているという。これまであまりの混雑ぶりに辟易する観光客も多かっただろうが、今回の都市開発によって、散歩にもぴったりなエッフェル塔への導線をかねた緑の庭になる。

また、セーヌ川を挟んでエッフェル塔の向いに位置するトロカデロ公園には桜の木が植えられ、さらに先のトロカデロ広場は車道を半分に縮小する代わりに緑地部分を増やす計画だ。

エッフェル塔の足元は、緑の溢れる広々とした庭に生まれ変わる(写真提供:Chartier-Corbasson)
エッフェル塔の足元は、緑の溢れる広々とした庭に生まれ変わる(写真提供:Chartier-Corbasson)

着工は2021年末で、完成の目処はパリ・オリンピックイヤーの2024年。建築家であり、風景を構築するペイザジストでもあるKatherine Gustafson氏の指導の下に作業は進められる予定だが、新型コロナウイルスの影響を受け、スケジュールや規模などに変更を求める区長たちの声が2021年の年明けと同時に聞こえ始めている。しかし、パリ協定に基づいたこの計画の骨幹が変わることはないであろう。環境を優先した都市づくりは、パリ市民の求めるものであるからだ。