現地在住者として世界一のデジタル化先進国であるデンマークの強みを実感したのは、2020年3月の突然のロックダウンの時だ。当時、まだ死者が出ていなかった早い段階でデンマーク政府は即断でロックダウンに踏み切った。異様な静けさの中でも社会は淡々と機能し続け、デンマークがデジタル化先進国であることを強く感じる日々であった。デジタル化と共存するデンマークの日常生活がどのような暮らしなのか、現地生活者の視点でレポートする。

スタッフレス 、ペーパーレス、キャッシュレスで徹底的に無駄を省く

デンマーク政府は世界一の電子政府である。国連が隔年で発表する世界電子政府ランキングにおいて、デンマークは2018年(United Nations E-Government Survey 2018)、2020年(同2020)と2回連続世界一に選ばれている。また、デジタル化は様々な分野で進んでおり、IMD(国際経営開発研究所)が2020年に発表した「世界デジタル競争力ランキング」においても3位にランクインしている。

本コラムでは、デジタル化において世界トップレベルに位置するデンマークを生活者の視点から具体的に示していく。まず誤解のないように伝えたいことは、デンマーク人は決してハイテクロボットに囲まれた生活を送っているわけでも、痒いところに手が届くきめ細かいサービスを享受しているわけでもないという点だ。むしろ、デンマーク人の暮らしは合理的なシステムに支えられたシンプルな暮らしである。そして、それはwithコロナ時代にも適したスタッフレス、ペーパーレス、キャッシュレスな暮らしでもある。

デンマークで暮らしてまず驚くのは、窓口を訪問する機会の少なさと紙の使用頻度の低さである。デンマークでは、必要がなければ窓口訪問を求められることも紙での書類提出を求められることもない。ほとんどの行政手続きも納税手続きもオンライン上で済ませることができる。国や市からの手紙もオンライン上の電子私書箱「e-boks」にメールで届き、保育園、幼稚園、学校など教育機関からの情報伝達もほとんどが専用アプリを通じて行われる。

つまり、ほぼ全ての事務手続きやコミュニケーションをスマホやパソコンで完了できるのである。また、セルフサービスのレジが導入されているスーパー、セルフサービスの図書館、駅員のいない駅なども数多くある。

もちろん、スタッフレスとペーパーレスには融通が利かないというデメリットもあり、市民側の慣れが必要である。日本では駅には駅員がいて、コンビニに行けばコピー機が置いてある。そんな便利な暮らしに慣れていた私はデンマークのスタッフレスに味気なさを感じ、分からないことを気軽に質問できる窓口が欲しいと思うこともある。また、保護者としては、重要事項から細かい連絡や返信まで全てのコミュニケーションが一様にアプリを通じて行われることに少々疲れを感じ、せめて基本事項だけでも印刷して配布してほしいと思うこともある。

カードが主流の「キャッシュレス社会」

デンマークでは、現金も既に日常生活から消えている。どの銀行にもネットバンク機能があり、オンライン上で取引明細の確認や振込等ができるため、ATMの利用者も激減している。ちなみに、筆者が前回ATMに足を運んだのは2年以上前で、それも海外旅行をするために外貨を引き出す目的で利用しただけである。それ以前にATMに足を運んだのは記憶がないくらい昔のことだ。

スーパーでも現金を目にすることはほとんどない。買い物時は「Nordea Denmark」によるデンマーク国内専用のデビットカード機能「Dankort」で350クローナ(約6000円)まではカードでタッチ決済ができるため、どんなに少額であっても、ほとんどの人がカード払いをする。

右下のDKというロゴがデンマーク国内専用デビットカード「Dankort」。右側の中心がタッチ決済対応マーク(出典:Nordea Denmark)
右下のDKというロゴがデンマーク国内専用デビットカード「Dankort」。右側の中心がタッチ決済対応マーク(出典:Nordea Denmark)

急速に普及したアプリ「MobilePay」によりカードレス社会へ移行

さらに、近年の画期的な出来事は、携帯電話の番号と銀行口座を紐付けたアプリ「MobilePay」の登場である。MobilePayを使えば、電話番号を入力するだけで簡単に金銭がやり取りできる。MobilePayは2013年に開発されると急速に広がり、現在は国民の大半が利用する程浸透している。

「MobilePay」の使用イメージ。金額入力、振込先指定、支払いのためのQRコードを読み取る機能、個人への送金サービスなど(出典:MobilePay App Store)
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「MobilePay」の使用イメージ。金額入力、振込先指定、支払いのためのQRコードを読み取る機能、個人への送金サービスなど(出典:MobilePay App Store)

MobilePayの活躍の場は多い。蚤の市や中古品売買でも用いられるほか、イベントや食事会の会計の際にも重宝する。割り勘や細かい金額調整が手軽にできるため、奢ったり奢られたりする機会も減り、金銭的にさっぱりした人間関係を保ちやすい点もメリットである。

MobilePayが急速に普及した背景は、なんといってもその使いやすさにあるだろう。以下の手順で簡単に金銭のやり取りができる。

1. アプリを開いて4桁のパスワードを入力
 2. 金額を入力
 3. 送金先の携帯番号を入力(1度送金したことがある場合は、送金先を名前一覧から選択)
 4. スワイプで承認 

現在では多くの店舗がMobilePayでの支払い(アプリのQRコードを読み取る)に対応しているほか、ネットショップでもMobilePayでの支払いが可能になっている。MobilePayを通じた取引は即時決済されてアプリ内に記録されると同時に、自動的に銀行口座にも記録される。MobilePayが普及したことで、日常で現金が必要な場面はほぼなくなり、デンマークは完全なキャッシュレス社会になりつつある。時々不便を感じるスタッフレスやペーパーレスとは異なり、筆者はキャッシュレスに不便を感じることはない。むしろ、現金を持たない生活は心配事も少なく、身軽で非常に楽である。

MobilePayの急速な普及ぶりを見ると、近い将来にはカードを使う機会さえも減り、キャッシュレス社会どころか「カードレス社会」へ移行していくと予測できる。

実際、デンマークは既にカードレス社会の入り口に差しかかっている。2020年11月には運転免許証がアプリ化された上に、住民の身分証明書(「イエローカード」とも呼ばれる健康保険証)も2021年にアプリ化される予定だ。今のところ、アプリの利用は義務ではなくオプションだが、これは間違いなく「カードレス社会」への移行実験と言えるだろう。

デジタル運転免許証のアプリイメージ(出典:Kørekort App Store)
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デジタル運転免許証のアプリイメージ(出典:Kørekort App Store)