世界ナンバーワン電子政府の仕組み

デンマークでデジタル化が進んでいる理由は、ある程度の強制力をもってデジタル化が推進された背景があると共に、操作が簡単でユーザーに易しいからである。

1968年に導入された「CPR番号」は個人番号とも呼ばれており、生年月日、性別、居住地などがデータで登録されている。さらに、この個人番号には行政機関、医療機関、教育機関、会社、税務署、警察などに関わる全ての個人データが保管されており、該当機関は必要に応じて個人データにアクセスできるようになっている。但し、プライバシーを守るために、機関をまたいでデータを入手する際には本人の同意が必要である。

また、市民には個人番号に紐づけられた電子私書箱e-boksとネット口座「NemKonto」を持つことが義務づけられており、公的機関からの伝達事項はメールで電子私書箱に届き、給与や社会保障の受取や納税は銀行のネット口座NemKontoを通じて行われる。

電子私書箱 e-Boksをパソコンで開いた画面。アプリ形式になっており、国や市からのメールが届く(写真提供:針貝有佳)
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電子私書箱 e-Boksをパソコンで開いた画面。アプリ形式になっており、国や市からのメールが届く(写真提供:針貝有佳)

電子私書箱、ネット口座、そのほかの行政サービスには、共通のセキュリティシステム「NemID」が用いられており、個人番号とパスワードを入力した上でNemID(2021年中に「MitID」へと置き換わる)と呼ばれるワンタイムパスワードを入力してログインする仕組みになっている。ワンタイムパスワードによる認証はアプリ化されており、これによりパスワードを毎回入力する必要なく簡単に認証することができるようになった。

NemIDアプリに承認を申請し、完了すると行政システムへのログインが可能になる(写真提供:針貝有佳)
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NemIDアプリに承認を申請し、完了すると行政システムへのログインが可能になる(写真提供:針貝有佳)

同じ個人番号と認証システムを利用してオンライン上で諸々の手続きができるというのは、市民(ユーザー)側にとっては非常にシンプルで分かりやすい。また、個人番号を伝えるだけで各機関が過去の履歴に基づいて対応してくれるというのも、市民としては各機関を訪問するたびに書類の記入や経緯の説明をする手間が省けてありがたいのに加え、自分の状況を把握した上で対応してくれているという安心感を持つことができる。

オンライン予約できる無料の新型コロナ検査とワクチン接種

新型コロナウイルス対策においてもデンマークのデジタル力が存分に発揮されている。デンマークには新型コロナ検査所が全国に仮設されており、オンラインで気軽に無料検査を予約できる。画面上で各検査所の空き時間を確認して希望日時をクリックするだけで予約ができ、予約変更も簡単だ。また、検査後は同サイトもしくは専用アプリで簡単に検査結果を確認できる。この手軽な検査システムのおかげで、症状がなくても念のため検査を受ける人が多く、デンマーク国民の新型コロナ検査率は非常に高くなっている。

地図検索を使い、希望する検査所の予約を好きな日時で取ることができる(写真提供:針貝有佳)
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地図検索を使い、希望する検査所の予約を好きな日時で取ることができる(写真提供:針貝有佳)

新型コロナウイルスのワクチン接種の予約もオンラインで行われている。対象者には電子私書箱e-boks宛にメールが届き、メールを受け取った対象者は指定のオンライン予約画面からワクチン接種を予約できる。高齢者など必要性の高い人から順番にワクチン接種が無償提供されているが、デンマーク政府によれば、予定通りに進めば国民全員のワクチン接種が2021年夏に完了するという。さらに、ワクチンを接種した人は新型コロナワクチン接種済の証明書として「コロナパスポート」をダウンロードでき、海外に出国する際やデンマークに帰国する際に提示できる。このコロナパスポートは2021年5月にはアプリ化される予定だ。

未来のデジタル化社会のカタチ

実際にデンマークで生活していると、何でもデジタルで済むというのは本当にありがたい。だが、その一方で、何らかの事情でデジタルを使いこなせない人にとっては日常生活がままならないのではないかと思うこともある。政府の電子私書箱に関しては、希望して条件を満たしていればアナログで手紙を受け取れるようだ。このように、デジタル化を進める場合、何らかの形で特例の道を確保しておく必要があるように感じる。全体としてはデジタル化を進めながら、アナログをどう組み合わせるか。そこに運営・発信側の哲学やセンスが表れそうだ。

また、当然ながら、セキュリティも常に課題としてつきまとう。デンマークのシステムは基本的には安全であるため市民は安心して使っているが、実際にはトラブルもゼロではないようだ。市民(ユーザー)に易しいシンプルなシステムを提供しながら、どのようにセキュリティを強化していくかが今後の課題である。

「スタッフレス」「ペーパーレス」「キャッシュレス」そして「カードレス」へと移行するデンマークが直面する課題は、デジタル化を目指す各国にとって、成功も失敗も含めて良い参考事例になるだろう。

この記事は、TNCが主宰する世界70ヵ国100地域に暮らす約600人の日本人女性ネットワーク「ライフスタイル・リサーチャー」からの情報をもとに制作しています。日本と海外の価値を結ぶさまざまな企画・マーケティング分野で活躍しています。