2016年9月に施行された『中華人民共和国慈善法』を契機に、中国の慈善活動(フィランソロピー)はここ数年で目覚ましい成長を遂げ、2019年の寄付金総額は1044億人民元(2009年の約4倍)を記録し、翌年2020年には非営利慈善組織(日本のNPOに該当)の登録数が約80万団体となった(出典:China Daily 2020年9月記事より)。同法の誕生により慈善活動とそれ以外の集金活動に明確な境界線が引かれたと同時に、慈善団体の設立、運営、活動形態が規範化されたため、慈善活動が透明性を持って社会に受け入れられ始めた。

 急成長の要因としては、①欧米諸国のフィランソロピーの歴史同様、経済成長による富裕層フィランソロピストが増加したこと、②大企業が積極的に社会貢献に乗り出したこと、③テンセント、アリババなどの大手IT企業が非営利慈善組織と個人少額寄付をマッチングするプラットフォームを普及させ、国内の中間所得層、若年層の間で寄付が身近になり、一般市民の意識改革が進んだこと――などが考えられる。

 また、この数年でブロックチェーンにより寄付金の追跡や内訳へのアクセスが可能になり、寄付金使途の透明性が高まり、更に寄付履歴が、アリババが開発した個人信用(芝麻クレジット)のスコアとリンクしたことにより、市民の少額寄付に対するインセンティブが向上している。中国ITフィランソロピーの誕生と現状について、現地リサーチャーがレポートする。

ITフィランソロピーの誕生とその恩恵

2019年には世界で最も富裕層を有する国となった中国のフィランソロピーは、寄付総額では圧倒的にフィランソロピストからの個人寄付と企業の社会貢献が大半を占める。その一方で、インターネットプラットフォーム上での個人(特に若年層)による少額寄付が増加したことで、市民参加型の裾野の広いフィランソロピーが確立しつつある。2019年のインターネット上での寄付金総額は54億人民元(全体の約5%)と比率は低い(China Daily 2020年9月記事より)。

しかしたとえ比率は低くても、今まで金銭的な助け合いがおよそ身内に限定されていた中間所得層や若年層に、「貧困層の救済に役立てる」という利他主義(Altriusm)が浸透し始めていることを示唆しているともいえる。

ラウンドアバウト基金店内の様子(左)と事務局長文丽氏のオフィス(右)(写真提供:Layman Fumiyo)
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ラウンドアバウト基金店内の様子(左)と事務局長文丽氏のオフィス(右)(写真提供:Layman Fumiyo)
ラウンドアバウト基金が運営するミニプログラム(画像提供:Layman Fumiyo)
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ラウンドアバウト基金が運営するミニプログラム(画像提供:Layman Fumiyo)

北京市朝陽区に事務所を構える「众愛」(zhong ai)、通称「ラウンドアバウト基金」は、中華青少年慈善救助財団(CCAFFC)の傘下の団体で、2021年で設立13年を迎えた。2016年以前は物品や現金の寄付を募り、北京郊外の青少年の教育と難病治療のプログラムの助成をしていた団体である。現在は20人の常勤スタッフとイベントごとに参加するボランティアが約500人登録し、定期的に古本市、バザー、チャリティハイキングなどを開催している。事務局長の文丽(Wendy Li)氏によると、テンセントやアリババの普及によりこの5年間で電子マネー決済による寄付金が急増し、2020年の募金総額は、2016年度の5倍以上、約1億人民元を計上した。

2016年以前から地元住民や駐在外国人から寄付された洋服、家財道具などを店内で販売をしているが、COVID-19の影響で店舗を訪れる客足が遠のいたことから、販売用のミニプログラムを作成してオンラインでの物品販売も開始した。最近では国内の小規模慈善基金の多くがスマートフォン上のミニプログラムを利用して寄付金、衣類や書籍の寄付集めを積極的に始めている。

テンセントのアプリによる新しい寄付の形態

テンセントが開発したWeChatのアプリユーザーは全国で毎月平均10億人以上と言われている。2017年以降WeChat内の複数のアプリでは、ユーザーがゲームポイントや日々の歩数を中国企業の社会貢献活動に「寄付」することでフィランソロピーに関わることができる。

北京市内の20~30代の若者達の間では、ここ数年WeChat内の健康アプリ「WeRun」内のポイント寄付が盛んである。河北省出身で北京の外資系企業で働く30代の女性、君儿さんは2019年からWeChatと連動して計測される歩数を、WeRunにリストされている中国石油基金に寄付することが日課になった。彼女の1万歩が、10元と計上され、中国石油基金から出身地の河北省にある孤児院施設へ現金寄付される仕組みになっていたからだ。

「We Run」アプリからアクセスできるチャリティサイト(左)。右はリストされた企業財団、基金名が表示された画面。社名の下にはステップ寄付で計上された額が毎日アップデートされる(画像提供:Layman Fumiyo)
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「We Run」アプリからアクセスできるチャリティサイト(左)。右はリストされた企業財団、基金名が表示された画面。社名の下にはステップ寄付で計上された額が毎日アップデートされる(画像提供:Layman Fumiyo)