質の高い文化イベントを提供し、入場無料で開放

こうしたエコ設備の体験に加えて、ラ・シテ・フェルティルで開催される豊富な文化イベントも参加者を惹きつける重要な要素となっている。環境運動家で政治家のニコラ・ユロなど、多くの著名人がここでラウンドテーブルディスカッションを行った。著名人によるイベントも参加費は無料。発酵アトリエやダンスレッスンなども同様だ。入場無料はヴァティネル氏の信条の一つでもある。

「コンサートでも文化イベントでも、入場無料がじつは一番収益を上げるのです。これは30年来コンサート会場経営を行ってきた私の結論。収益は、飲食の販売で十分に上げることができます。来場者は芸術文化に触れる機会を得られ、アーティストは活躍の機会を得られ、だれにとってもWin-Winになります」

確かにコンサートや演劇、写真展など、チケットを買って参加する文化活動は敷居が高く感じられがちだ。しかし無料であれば、普段文化活動とは無縁に感じている人でも「ちょっと行ってみようかな」という気持ちになるだろう。施設の門戸を広く開放して文化に触れられる機会が増えれば、地域住民の文化レベルの底上げができる。そうしていろんな人が集まることで、地域社会の交流が促進され、住みやすく魅力的な都市づくりが実現する。パンタン市に巨大オフィスビルを構えるBNPパリバ銀行がラ・シテ・フェルティルを支援しているのも、こんな狙いがあるからだろう。

敷地内のビール工房で製造した生ビールなどを販売するドリンクスタンドはいつも大人気(写真:@Adrien Roux)
敷地内のビール工房で製造した生ビールなどを販売するドリンクスタンドはいつも大人気(写真:@Adrien Roux)

収益面で重要な飲食スタンドは、地産地消でオーガニック、自家製が基本。スタンドで調理する食べ物は当然のこと、リンゴジュースやワインなどの飲み物も近郊の生産者のものを選び、販売している。そうすることで巨大メーカーではなく、生産者の元に利益が届く仕組みだ。ビールは敷地内のビール工房で製造した自家製で、地産地消を実現している。

「自給自足経済を取り入れることで、結果的に経済効果があることも証明しています。持続可能な街は、経済的に自立していなくてはならないのです」

そうでなければ、人々はそこで働けなくなり、仕事を求めて引っ越すことになるだろう。それでは持続不可能になってしまう。

「コロナ禍以降、消費活動に意味を持たせたいと考える人が増えました。どうせお金を使うのなら、それが社会に少しでも良いインパクトを与えるものを選びたい、と。その意味でも、経済活動が小さな輪の中で完結しているラ・シテ・フェルティルは魅力的なのです」

Win-Winであること、楽しいこと、多様性があること

2021年5月の外出制限解除直後に開催されたパンのイベントには、6000人もの集客があった。6000人がその日同時開催されていたクリエイターマーケットに立ち寄り、飲食スタンドにも長蛇の列をなした。この経済効果の恩恵を、参加したパン屋やクリエイターたち、飲食スタンドが得たのだ。ここでもまた、全ての人にとってWin-Winであることがわかる。

「サードプレイスは、経済的に成功していなければ無意味です。働く方も楽しくありませんし、収益という成果なくして続けることはできません。逆にいうと、関わるみんながWin-Winで楽しめるシステムを構築しさえすれば、経済的にも持続可能になるということです」

ヴァティネル氏は現在パリ市内に4つのサードプレイスを運営しており、さらに来年オープンするトゥールーズの新施設立ち上げにも忙しい。同時に、フランス預金金庫や、ブラジルやウルグアイなどの都市に対してアドバイジングも行っている。都市におけるサードプレイスの可能性に興味を持つ企業や団体は非常に多い。

賑わいは夜も続く(写真:@Adrien Roux)
賑わいは夜も続く(写真:@Adrien Roux)

「過疎化、少子化、環境問題、経済格差。現代の都市が抱えるさまざまな問題に対して、サードプレイスは一つの回答となるはずです。コンセプトは単純で、入場無料、意義あるテーマ、質の高い文化イベント、この3つだけです。インターネットのおかげで飛躍的に宣伝が楽になった今、情報はあるコミュニティに届きさえすればそこからすぐに拡散されるようになりました。毎週イベント内容がくるくると変わっても大丈夫。多様性がある方が、多くの人を引き寄せられます。効率を追求し一つの専門性だけを求めた時代は終わりました」とヴァティネル氏は話す。

意義あるテーマを中心に文化を媒介として人が集まるサードプレイス。次はどんなテーマを選ぼうか。フェミニズム、DIY……そこから持続可能な経済が発展し、地域が活気づくのなら、参考にしない手はないだろう。

この記事は、TNCが主宰する世界70ヵ国100地域に暮らす約600人の日本人女性ネットワーク「ライフスタイル・リサーチャー」からの情報をもとに制作しています。日本と海外の価値を結ぶさまざまな企画・マーケティング分野で活躍しています。