Googleトレンドを活用した2020年の調査にて、イスラエルはベジタリアンからの人気国として世界3位にランクインした。イスラエルの人口の5%がビーガン(完全な菜食主義者)であり、8%が何らかの菜食主義者(卵や乳製品は食べるが肉や魚を避けるなど)だ。両者を合わせるとイスラエルのベジタリアン人口は13%に上り、この人口比率は世界トップレベルとなる。さらにイスラエルはフードテック分野においても世界から注目を浴びており、2021年1月には三菱商事がイスラエルの培養肉スタートアップ「Aleph Farms(アレフ・ファームズ)」との提携を発表し話題になった。世界から注目を集めるイスラエルの食事情と最新フードテックについて、現地リサーチャーがレポートする。

なぜイスラエルにはベジタリアンが多いのか

イスラエルにベジタリアンが多い理由として、主に健康のため、環境意識の高さ、そして倫理的に食肉を忌避する傾向が挙げられる。これは他国と同様の理由だが、一方イスラエル独自の理由として、ユダヤ教の食規定「コシェル」も影響している。彼らは規定の方法で屠殺した肉しか食べることができない。さらに肉と乳製品を一緒に摂取できないなど、肉にまつわる厳しい規制がある。そのため、その規定を遵守するにはベジタリアンでいたほうが楽だという人もいる。

イスラエル国内ではどこのスーパーにもビーガン向け製品が並び、植物性の代替肉などが広く流通している(写真提供:Hatsuki Matsui)
イスラエル国内ではどこのスーパーにもビーガン向け製品が並び、植物性の代替肉などが広く流通している(写真提供:Hatsuki Matsui)

さらにイスラエルの非営利団体Vegan FriendlyのCEOであるOmri Paz氏は、国内大手メディアISRAEL21cにて、現在もベジタリアンが急激に増えている理由に国土と人口を挙げる。Paz氏はVegan FriendlyのTV広告が国民に効果的に響いている実感があるという。イスラエルは四国ほどの広さで、人口も日本の10分の1以下。プロモーションが人々に響けば、瞬く間に国中に価値観が広まるのだという。たしかに、コロナワクチン摂取時のイスラエル国民の一致団結の様子を見れば、プロモーション効果の高さにも納得できる。さらに学校教育でも倫理観を問う授業を行うこともあり、ベジタリアン人口がますます増えているのだ。

パリ協定の達成率から食を再考する

2021年現在、パリ協定における世界各国が2030年までに達成すべき温室効果ガスの削減目標に対する進捗は、達成にはほど遠い状況である。2030年には10年比で25~45%の削減が期待されているが、このままであればわずか1%減に留まる可能性があるという。これは想像を大幅に下回る達成率だ。この目標を達成するには各国の産業や消費の大幅な転換が必要だ。しかし、生産者側の努力だけではこの目標は達成することはできない。私たち消費者側の価値観の転換と新たなテクノロジーの相乗効果が目標達成への大きな鍵となる。

パリ協定の目標達成には程遠い状況。消費者の価値観の転換とテクノロジーの相乗効果が期待される
パリ協定の目標達成には程遠い状況。消費者の価値観の転換とテクノロジーの相乗効果が期待される

特に私たちの生活のベースとなる「食」に関する価値観の転換は、消費スタイルの変化へのインパクトが大きい。イスラエルでは国民の食に対する意識の高さと、テクノロジー大国としての一面がうまく掛け合わさり、先進的なフードテクノロジーが開発されている。イスラエルの最新フードテックから食の未来を見てみよう。

イスラエルのフードテック企業が提案する食の新たな選択肢

①肉の未来を変えるフードテック企業

Aleph Farmsによる培養肉のリブアイステーキ(写真提供:Aleph Farms)
Aleph Farmsによる培養肉のリブアイステーキ(写真提供:Aleph Farms)

イスラエルのフードテック企業Aleph Farmsは牛肉を細胞から培養する技術を活用し、畜産の新しい形を提案している。

普段何気なく食べている牛肉は、実は環境負荷が高い。私たちが食べる牛肉1kgにつき23kgもの温室効果ガスを排出するとされている。飼育に必要な一連の工程からの排出に加えて、牛のゲップなどに含まれるメタンガスが全体の半数ほどを占めるという。

Aleph Farmsのリーダーシップチーム。左から技術リーダーのShulamit Levenberg氏、CEOのDidier Toubia氏、シェフテクノロジーリーダーのDr. Neta Lavon氏(写真提供:Aleph Farms)
Aleph Farmsのリーダーシップチーム。左から技術リーダーのShulamit Levenberg氏、CEOのDidier Toubia氏、シェフテクノロジーリーダーのDr. Neta Lavon氏(写真提供:Aleph Farms)

Aleph Farmsは細胞の培養技術と3Dプリンター技術を掛け合わせてステーキを作る。彼らのステーキは遺伝子組み換えの細胞は使用しない。牛肉を作るにあたり牛の飼育を必要とせず、さらに“どこでも”培養可能である。それは地球上に限らず宇宙であっても可能とされ、2019年には世界で初めて宇宙にて培養牛ステーキの実験を行った。火星など地球外での培養肉プラントの設置も提案している。CEOのDidier Toubia氏は「人々が月や火星に住むとき、Aleph Farmsもそこにいるでしょう」と話す。

Aleph Farmsが提案する培養肉プラント。砂漠でも火星でもどこでも新鮮な肉を提供できるという(写真提供:Aleph Farms)
Aleph Farmsが提案する培養肉プラント。砂漠でも火星でもどこでも新鮮な肉を提供できるという(写真提供:Aleph Farms)

培養肉が市場に出るためには法律の整備など課題が残るが、彼らは畜産の未来を変えるため、世界の期待を背負って邁進している。今年の2月には三菱商事がAleph Farmsとの提携を発表。彼らの培養牛が日本の食卓でもお目にかかれる日が楽しみだ。

今回取材をしたAleph Farmsを筆頭に、イスラエルでは代替肉のスタートアップが群雄割拠している。線維芽細胞から鶏肉、牛肉、子羊肉を作るFuture Meat Technologies、臍帯細胞から3Dプリント牛肉を作るMeaTech、卵から採取した細胞から鶏肉を培養するSuperMeat、さらに植物ベースの卵を作るEgg'n'upなど、各社多様な開発を進めている。