インド人は信仰心の厚い国民だ。起床して就寝するまで、様々な生活の場面で宗教と強いつながりがあり、彼らのライフスタイル自体に宗教が深く根付いている。急速な経済発展に伴い、国民の生活様式や価値観にも変化が及んでいるインドではあるが、古くからの伝統や生活習慣の原点は現在も変わっていない。信仰心がその代表だろう。日々の生活はより現代的に慌ただしさが増すなかで、祈りの時間や宗教行事への参加をいかに行うのか。そう考えると、インドで伸びゆくテクノロジーや情報通信サービスを、宗教文化にも活用するのは自然な流れかもしれない。今回は、インドで登場している様々な宗教・信仰関連アプリをご紹介しよう。

インド人口の約80%を占めるといわれるヒンドゥー教徒。日常の中で、無意識の行動にも信仰心が現れる。朝目覚めるとまずは朝日に向かって一礼、宗教的な目的で行われる断食、寺院礼拝や巡礼旅行――などの習慣は日常の風景である。木曜日は富や幸運の日と考えられており、ラクシュミー女神へ祈りを捧げる日だ。富や幸運は黄色で表現され、ヒヨコ豆の粉を使った料理を食べ、黄色の服を着る人々が多い。また、困った時には自然と「ラーム、ラーム」と神の名を唱えたりもする。それくらい、信仰がインド人の生活と密接につながっており、彼らの一部ともいえるのだ。

日常に信仰がある風景

一方で、近年インドは都市部に限らず様々な分野で急激に発展を続けており、国民の生活水準の向上やグローバル化の波が至るところに見られている。特に、ITサービスやテクノロジー領域では、インターネットやスマートフォンの爆発的な普及によって多種多様なサービスが日々登場し、インド人の生活に取り入れられている。例えば配車サービスやフードデリバリーなどは、グローバルで共通のサービス形態も多いが、中にはインドらしい、インドだからこそ流行するものが登場しており大変興味深い。そのひとつが、インド人の原点ともいえる宗教文化や信仰心と、現代のIT技術をうまく融合させた「宗教関連アプリ」サービスだろう。

宗教暦アプリ、讃歌アプリ、教祖アプリまで多彩

今ではほとんどのインド人がスマートフォンを利用しており、貧困層でも一家に一台の時代となった。多くのインド人は待ち受け画面に神様の写真、着信音に神の讃歌、コミュニケーションアプリ(WhatsAppが主流)やSNS上では、神様の写真が入ったグリーティングメッセージを送り合うことも日常的だ。スマートフォン内にまで信仰心が現れている。

WhatsApp上でやりとりされる神様にちなんだグリーティングメッセージ例

そんな中でさらに驚くのは、宗教や信仰に関連するアプリの種類の豊富さだ。例えば、「宗教暦アプリ」はお祭りや儀式の日時を把握するために欠かせない便利なアプリだ。インドにはヒンドゥー教を中心に様々な宗教があり、各宗教ともに縁起の良い月や日が存在する。そのため、インド暦の暦を把握しておくことがとても重要になる。昔は寺院の住職や専属のパンディット(インド占星術や祈りをする人)に確認していたといわれ、その後、家庭用にヒンドゥー暦カレンダーなどが登場し始めたが、一部の本屋や文房具店で扱っているのみで、どこでも手に入るわけではなかった。だからこそ、アプリ上でいつでも暦を確認できるようになったことは画期的といえる。いまでも結婚や新築祝いなどの重大な行事にはパンディットを頼るが、各家庭で行うお祈りや断食、一般的な祭典の時期などを手軽に確認できるのは、儀式の準備や休暇旅行など、忙しい現代インド人のスケジュール管理に役立っている。

また、「讃歌アプリ」もある。仏教でいえば経本の役割を果たすもので、すべてのヒンドゥー神々のための讃歌や物語を紹介しており、オーディオ機能も付いているため音楽を聴くように利用でき、自宅で行うお祈りのBGMとしても活用できる。ダウンロードして着信音として利用する人も多い。

その他には、特定の教祖アプリまで存在する。インドではグルやマーターと呼ばれる教祖の宗教団体がいくつもあり、多くの信者を世界に抱えている。これらのアプリでは、信者はいつでも教祖の活動内容を観たり、教えの言葉を聴いたりすることができるのだ。