近年、サステナビリティへの取り組みは企業や政府の必須課題となり、建造物に関してはLEED(Leadership in Energy & Environmental Design)認証制度が定着しつつある。そんな中、LEED認証よりも更に進んだ、世界で最も厳しい規制と言われるサステナブル認証「リビング・ビルディング認証(The Living Building Certification)」に対する取り組みも増えてきた。今回はパンデミックの最中、このガイダンスに基づいてオレゴン州ポートランドに建築された「PAE リビング・ビルディング」について現地在住リサーチャーがレポートする。

リビング・ビルディング認証とは

ポートランドに2021年11月に完成した「PAE リビング・ビルディング」内(画像提供:PAE)
ポートランドに2021年11月に完成した「PAE リビング・ビルディング」内(画像提供:PAE)

アメリカのNGO団体「国際リビング・フューチャー協会(International Living Future Institute; ILFI)」が運営するリビング・ビルディング認証は、「リビング・ビルディング・チャレンジ(Living Building Challenge; LBC)」と呼ばれる場所、水、エネルギー、健康と幸福、素材、公平性、美しさの7分野における厳格なサステナブル基準を、総合的に満たすことで得られる認証制度だ。他のサステナブル認証と大きく異なる点は、建築物が完成した時点で認証されるのではなく、「リビング(生きた)」と呼ばれるように、フルキャパシティで建物が使用された状態で、1年間におよぶ審査を通過する必要があることだ。当然、認証を得るハードルは非常に高く、認定を獲得した建築プロジェクトは「世界最高レベルの環境技術」だとアピールできる。

ポートランド初のリビング・ビルディング・チャレンジガイダンスに則った「PAE リビング・ビルディング」は、2021年11月にオープンした。これからリビング・ビルディング認証の取得に向けて、1年の審査を受けることとなる。

500年以上持続する自給自足ビル

ポートランドの歴史地区に誕生したPAEリビング・ビルディング。0.5マイル(約800m)内に23のバス路線があり、歩きやすさを採点するwalk scoreも100点満点中99点。(画像提供:PAE)
ポートランドの歴史地区に誕生したPAEリビング・ビルディング。0.5マイル(約800m)内に23のバス路線があり、歩きやすさを採点するwalk scoreも100点満点中99点。(画像提供:PAE)

PAE リビング・ビルディングは、Skidmore/Old Town歴史的地区に誕生した5階建てのミックスユースビル。500年以上持続する自給自足ビルを目指している。

具体的には、敷地内で使う電力の105%を屋上および近隣ビルに設置したPV(太陽光発電)パネルによる発電でまかない、冷房の70%は可動式の窓で実現するなどといった工夫でネットポジティブエナジー、カーボンネガティブを実現。また、水は100%オンサイトで雨水を収集・処理することでまかなう。更に、通常のトイレの10分の1以下しか水を使わないバキューム式トイレを採用。しかも、尿は農業グレードの液体肥料へ、便は堆肥へと現地で加工される。これは、資源循環型農業への取り組みの一環でもある。

PAEリビング・ビルディングの地下に備えられたコンポスト装置(筆者撮影)
PAEリビング・ビルディングの地下に備えられたコンポスト装置(筆者撮影)

また病院や消防署と同レベルの耐震設計で、万が一、震度8や9の地震に襲われた際には緊急避難用シェルターとして利用できる。システムのほとんどが受動的なため、地震の後も窓を手動で開けて、新鮮な空気を取り入れることができる。また、市の電力グリッドや下水道システムと繋がることなく、夏場なら低電力モードで100日間は通常通りの運用が可能だというのだ。

利用者の日常のウェルビーイングに配慮した工夫

当然ながら、これらの特徴が、利用者の日々の快適さを犠牲にしているわけではない。内装、外装とも美しく、人体や環境に有害な可能性のある物質を含む「レッドリスト建材」は一切使われていない。また音響やライティングにも細心の注意が払われている。例えば駐輪場や階段にはカラフルなライティングが設置されるなど、健康のために自転車や階段を利用してもらう工夫もみられた。

カラフルなライトで彩られた木製の階段(筆者撮影)
カラフルなライトで彩られた木製の階段(筆者撮影)

この建物内で働くPAE EngineersのKatrina Emeryさんは、自然光、むき出しの木材、観葉植物やベランダの菜園、また「フィボナッチ数列」にインスピレーションを得たパターンなどをふんだんに取り入れたバイオフィリックデザインが特に気に入っていると話す。中でも「Deckony(デッキとバルコニーを組み合わせた造語)」という愛称で呼ばれているカジュアルな集合スペースは、壁全体をおおうガラス窓(NanaWall)の2面が全て開き、外とつながるようで最高に気持ちが良いそうだ。

敷地内にあった楓で作られたフロントデスク。壁には「フィボナッチ数列」にインスピレーションを得たパターンがデザインされている(筆者撮影)
敷地内にあった楓で作られたフロントデスク。壁には「フィボナッチ数列」にインスピレーションを得たパターンがデザインされている(筆者撮影)

この自然を取り入れる趣向は、あらゆるところに反映されている。例えば、受付デスクは、このビルの建築にあたり、切り倒す必要のあった5本の楓の木を地元の製材所に加工してもらい作ったもの。残りの木材は小さなテーブルやキッチンの棚のハンドルに無駄なく使われているという。また、楓を切り倒した代わりに、複数の植樹が行われたそうだ。