都市部の人口増加が世界的に進んでいることが国連の調査により報告されている。一方で「IPCC・気候変動に関する政府間パネル」が示す最も効果的な温暖化対策のひとつは、ローカル規模で循環させる土壌づくりだという。つまり、人口が集中する都市部で資源循環を実現させることは、環境問題の解決策として今後さらに、そして予想以上に有効であるということだ。もし、都市生活の中で出る生ごみを、都市の中でコンポストしてその土壌に還し循環することができたなら、私たちはこれからの未来を今よりずっと明るく描けるようになるだろう。そんな理想図を現実に変えている自称「錬金術師」たちがパリにいる。「Les Alchimistes(レ・ザルシミスト:フランス語発音)」だ。

@SPHERE
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集合住宅の中庭で、住人が持ち寄る生ごみをコンポスト

ゴミを資源に変える錬金術師たちの物語は、パリ14区の病院敷地跡に誕生したサードプレイス「レ・グランヴォワザン」(大きなご近所たち、の意味)から始まった(注:サードプレイスとは、以前にご紹介した「ラ・シテ・フェルティル」の記事を参考にしていただきたい)。2016年12月、共同経営者のアレクサンドル・ギユイ氏とケンゾ・サト氏が、中庭の一角に1台の電動式コンポスト装置を設置したのだ。パリ市民の生ごみを集めてパリ市内でコンポストする、という、シンプルでありながら誰も着手しなかったアクション。これが社会を変える原動力であることは、彼らにとって明らかだった。

「レ・ザルシミスト」のコンポストサイト(写真:@Les Alchimistes)
「レ・ザルシミスト」のコンポストサイト(写真:@Les Alchimistes)

2019年に惜しまれつつ閉鎖した「レ・グランヴォワザン」は、社会の連帯を目的とするアソシエーション団体のイニシアチブによって、2016年から2年間の期間限定で運営されていた。敷地内にはアーティストのアトリエやパン工房、リサイクルショップなどが誕生し、みんなで新しいコミュニティのかたちを模索する活気に満ちた空間だった。ギユイ氏とサト氏は、それまで個々に社会的プロジェクトを立ち上げ成功させた経歴の持ち主だったが、「レ・グランヴォワザン」という場を得てついに手を組み、「レ・ザルシミスト」を発足。地産地消コンポスト事業をスタートさせた。

「レ・ザルシミスト」の取り組みは、至ってシンプルだ。登録者のところまで自転車で生ごみを回収に行き、それを持ち帰ってコンポストする。できあがったコンポスト堆肥は、登録者に無料で分ける。残りは地産地消コンポスト堆肥として販売する。こうすることで、都市内での資源循環を実現するというわけだ。聞けばあっけないほどにシンプルだが、飲食店や学校給食といった容量の大きい組織とも提携し、生ごみ回収を行なっているのだから驚く。

「レ・ザルシミスト」のコンポスト堆肥は、ローカルコンポストとしてオーガニックスーパー等で販売されている。2018年、パリ市のラベリング「Fabriqué à Paris(パリ産)」に選ばれたブランドの1つ(写真:@Les Alchimistes)
「レ・ザルシミスト」のコンポスト堆肥は、ローカルコンポストとしてオーガニックスーパー等で販売されている。2018年、パリ市のラベリング「Fabriqué à Paris(パリ産)」に選ばれたブランドの1つ(写真:@Les Alchimistes)

それを可能にしているのは、「レ・ザルシミスト」が採用している電動式コンポスト装置だ。従来のぼかしコンポストに比べると飛躍的に短時間でコンポストができ、生ごみを電動式コンポスト装置にかけてから屋外で休ませる時間を含めてもトータル6週間で済む。しかも、肉や魚、バイオマスプラスチックといった、家庭用コンポストでは処理できない食品等のコンポストも対応可能。この利点を生かし、「レ・ザルシミスト」は事業スタート当初から個人の生ごみだけでなく、レストランや学校給食から出る多量の生ごみ回収も積極的に行なっているのだ。

市民の生ごみと企業の生ごみ、その両方を網羅することは、彼らにとって必要不可欠だった。なぜなら、街全体の生ごみをコンポストすることが可能だと証明できれば、将来これがあらゆる街でごみ処理のスタンダードになるはずだから。都市の中で資源の有効活用が可能になれば、地球環境にとってのメリットはもちろん、住人たちはごみ回収車による渋滞や騒音、悪臭から解放され、ガソリンもいらなくなる。都市生活の悩みが解消され、資源は循環し、誰にとっても(地球にとっても!)いいことばかりになる。そんな想いがあった。