2015年、ミラノで国際博覧会が開催された。連日、多くの人でにぎわう会場の敷地内には、あちこちに「ウォーターハウス」と呼ばれる32台の給水機が設置され、入場者の喉の渇きを癒した。6カ月間の万博期間で供給した水は計900万リットル以上にのぼり、これは1800万本の500ミリリットル入りペットボトルを節約したことに値するという。これほど利用されたのは、炭酸入りとなしの水を選ぶことができたことに加え、無料だったからだろう。2022年現在、万博で大活躍したウォーターハウスは街に受け継がれ、人々の喉を潤しながら環境にも優しいサステナブルなインフラになっている。現地在住リサーチャーがレポートする。

ミラノ市内に設置されているウォーターハウスType-A(写真:筆者提供)
ミラノ市内に設置されているウォーターハウスType-A(写真:筆者提供)

ミラノ万博を機に街に受け継がれたレガシー「ウォーターハウス」

先述のミラノ万博の期間中に登場し多くの来場者に飲料水を提供したウォーターハウスは、その後、ミラノ県内の自治体へ移転された。利用方法は非常にシンプルで、健康保険証を入れ、炭酸入りと炭酸なしの2種類から選んでスイッチを押すと自動的に500ミリリットルの水が出るようになっている。この冷たく新鮮な水は、1人につき1日6リットルまで利用可能だ。

給水機はISO22000(食品安全マネジメントシステムに関する国際規格)によって保証されており、小さいながらも非常にスマートな構造をもつ。冬になると凍結する可能性があるため、水滴を集めるトレイが排水管と直結して設置されており、そこには水を汲むためのボトルを置くことができるようになっている。水の注ぎ口には水が逆流しても菌が入らないように保護された設計で、また給水中も水を継続的に消毒するための殺菌性UVランプが設置されている。低消費電力のLED夜間照明、さらに機械の破壊行為を監視するために4台のセキュリティカメラを備えており、機械は障害者法に基づき、身体障害を抱える人も利用しやすいように設計されている。

日常的にウォーターハウスは市民に利用されている(写真:筆者提供)
日常的にウォーターハウスは市民に利用されている(写真:筆者提供)
使い方はシンプルでわかりやすく、誰でも使いやすい設計に考えられている(写真:筆者提供)
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使い方はシンプルでわかりやすく、誰でも使いやすい設計に考えられている(写真:筆者提供)

水道水の価値を見直す動きが活発化

ウォーターハウスはミラノ市が唯一株主であるメトロポリターナ・ミラネーゼ社の水専門セクター「ミラノ・ブルー」が管理している。給水機の水は、基本的に家庭の水道の蛇口から出る水と同じである。

あまりイメージされないが、ミラノは水が豊富な街だ。水道水は30~120メートルの深さにある帯水層から100%取水されており、587の井戸から汲み出した後、28ある浄水場へと送られ、そこで適切に浄化および処理され、市民の元へと届けられていく。このため、干ばつ時にも地下に水があるため、生活はほとんど影響を受けない。

近年、世界的に水道水の価値を見直す動きが活発だが、ミラノ市もその1つであり、飲料水としての水道水利用に力を注いでいる。ウォーターハウスが街に設置されているのは、水道水は美味しいのだということを示すためでもあり、水道水は適切に管理され、安全で水質は良好であるということをアピールするには非常に効果的だ。

さらに水道水利用を促進するため、2019年、学校や外出先で水道水を飲むのに適した容器であるとして、ミラノ市内の学校では10万人の生徒にミニボトルが無料で配布された。ボトルは、その品質と安全性を保証するために、食品と接触する材料に関して設けられたLFGBという非常に厳格なドイツ基準に従ったテストが行われている。こうしたイニシアチブが功を奏し、今や飲料水として水道水を選択する人は70.4%から75.5%へと増加し、イタリア人の86.6%が水道水に満足しているというデータもある

配布されたミニボトルの例(写真:筆者提供)
配布されたミニボトルの例(写真:筆者提供)