バンコクを訪れたことのある人ならご存知だろう。自動車やバイク、トゥクトゥクなどの自動三輪車などがひしめくバンコクの路上では、日常的に車同士の軽微な接触事故や追突事故が頻発している。ただでさえ酷い渋滞のなかで事故が起きると、当事者同士の話し合いや保険会社調査員が来て処理が終わるまで最低約1時間は路上に車を停めて対応するため、さらに渋滞を深刻化させる。このような状況が日々各所で起きているのだ。この問題を解決しようと各保険会社は対応を進めているが、数年前からITスタートアップと連携し、アプリを通して手続きを劇的に効率化するサービスが登場している。

日々、深刻な渋滞が起きるバンコクの道路

バンコク在住で自動車の運転が欠かせない日々を送っている筆者は、数年前に接触事故を起こしたことがある。大きなショッピングモール前の常に渋滞する片側4車線の道路で、モールを出て道路に入り一番奥の車線への移動の際にタクシーと接触した。初めて事故を起こしたことで頭の中が真っ白になったが、幸い双方ケガ人もなく、保険会社に連絡を入れて1時間ほどで事故処理が済んだ。

タイでは、人身事故には至らない軽微な自動車接触事故が起きた場合、まず当事者は各々が加入している自動車任意保険の保険会社へ電話をかける。一般的には警察による事故現場確認が推奨されているものの、自動車保険の請求手続きに警察の書類は不要のため、軽微な事故で警察を呼ぶことはまずないという。当事者双方の保険会社の調査員がバイクで現場へ来て事故状況を確認し、保険の請求手続きをする。

調査員が到着するまでは、事故現場の保存のために車を動かせない。車がひしめき合う都心の幹線道路でこのような事故が起きると、事故発生から保険請求処理完了まで約1時間以上、ときには数時間かかることもある。保険会社の調査員が現場に駆けつけること自体も時間がかかるのだ。その間、当事者はその場を離れることができず、車を路上に停めておくことになるため渋滞はさらに悪化するという負のサイクルが起きる。筆者も事故処理の間、次の予定に間に合わないのではと落ち着かず、また事故現場の後ろに連なる大渋滞を目の当たりにして冷や汗をかいたものだった。

路上での接触事故処理の様子

このような課題があり、2013年以降、各保険会社では「Knock for Knock」と呼ばれるシステムを導入。事故の際に記入する指定の項目が設定され、加入保険会社から同システムの書式を受領しておけば、事故を起こした際に保険会社の調査員を呼ぶことなく、双方が同書式に記入して手続きを済ませられる方法も始まっている。こうした考え方にITの技術を融合させたサービスの代表格が、今回ご紹介する「Claim Di」だ。

軽微な自動車事故の保険手続きに革命を起こす

タイのソフト開発会社Anywhere 2 goが、2014年にタイ大手携帯会社DTACによるスタートアップ・アクセラレーション「DTAC Accelerate」で発表したサービス「Claim Di」は、事故の当事者同士が自らアプリを通じてその場で保険請求を完了できるもので、アプリ自体も無料でダウンロードできる。

利用者はダウンロード後に、自動車の車種やナンバープレート情報に加え、加入している自動車保険の会社名や保険番号を登録。いざ接触事故が起きると、当事者は互いにClaim Diアプリを開きKnock for Knock機能を使って必要情報を入れ、現場で車の損傷状況などの写真を撮影、事故原因として「自分の過失」「相手の過失」または「双方の過失」のうち1つを選択。その場で互いにスマホをシェイクし、アプリを通じて事故相手と連携すれば完了。それだけで現場を離れることができる。その後は、アプリで送られてくる保険請求内容を確認し画面上でサイン。手続きが終了すると、同日中に車を修理場へ持ち込むことも可能だという。

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「Claim Di」のホーム画面(左)とナンバープレートの登録画面(右)
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「Claim Di」の保険情報登録画面(左)と事故現場情報報告画面(右)