中国・武漢から広がった新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)によって、各国でロックダウンが行われたり外出自粛要請が出されたりしている。交通量や公害、大気汚染の減少など環境への著しい変化が見られる一方で、人々の働き方や価値観、社会的ニーズにも変化が及んでいる。原稿執筆時の5月下旬時点で段階的に規制緩和を進めているイギリスだが、ロックダウンの間に生まれた社会の変化や価値観の変化は、これからのサステナビリティに対する考え方や活動にも反映されていきそうだ。現地在住リサーチャーがレポートする。

リモートワークやオンライン授業がもたらすポジティブな兆し

ロックダウンにより、ロンドンの建築的な評価が高いロイヤルアルバートブリッジからも人がいなくなった

新型コロナウイルスの感染拡大は働き方に大きな変化をもたらしているが、イギリスでは3月23日に開始したロックダウン以降、「Google Meet」や「Slack」、「Zoom」などのプラットフォームを使ったリモートワークが多くの企業で導入された。2019年の調査によると、68%の英国企業が在宅を含むフレキシブルなワークプレースの方針を掲げており(日本は32%)、すでにリモートワークの下地は整っていた。このため、外出規制中におけるリモートワークの割合は約5割に上った。在宅勤務時の雇用者の幸福度は73%、オフィス勤務時の幸福度は65%というデータもあり、ロックダウン解除後も(部分的にでも)リモートワークを導入することで、ラッシュアワーのストレス軽減や通勤通学時間の削減によって時間的・精神的なゆとりが生まれ、雇用者のウェルネス(精神的な幸福)に貢献する可能性が高いと考えられている。

イギリスでは新型コロナウイルス感染拡大以前から、週の半分をロンドンなどの首都圏で過ごし、残りは田舎にある家で過ごすという働き方も決して珍しいことではなかった。今後リモートワークがさらに定着すれば、巨大なオフィスの電気使用量削減やプリント用紙の使用量削減、首都圏の人口密度緩和、地方の雇用拡大などが期待でき、継続的なCO2削減効果も見込めるだろう。

ケンブリッジ大学は、1年以上先まで講義はオンラインで行う方針を発表した

また、一斉休校となったイギリスでは、学校の授業や大学の講義においても、Zoomや「Google Classroom」、「Microsoft Teams」などを利用したオンライン教育への移行が進んだ。中でもケンブリッジ大学は、なんと1年以上も先である2021年夏まで全ての講義をオンラインで行う方針を発表。ソーシャルディスタンスの基準変更によって、この方針は見直される可能性があるものの、イギリスで各分野の規制緩和や学校再開準備が進む中、その流れに逆行するようなケンブリッジ大学の決断は、サステナブルでリモートな大学の在り方を模索しており、今後の動向にも注目したい。

防護具不足で生まれたテクノロジー活用と支援の輪

イギリスでは4月、新型コロナウイルスに感染したボリス・ジョンソン首相が退院後にNHS(国民医療機関)の看護師たちに感謝の意を述べる姿が大きく報道された。それと同時に、NHSの深刻なPPE(Personal Protective Equipment=医療用ガウン、マスクなどの個人用防護具)不足に対しての対応の悪さにより、強い批判を浴びることとなった。

そんな時、真っ先に立ち上がったのが、ロックダウンの影響で製造ラインが滞っていたアパレル業界だった。英国ブランドのバーバリーやマルベリーなどが国内自社工場を活用し、高級ファッションで培ったテクノロジーを応用して、まったく畑違いのPPEの製造を開始。さらに、ロンドン在住デザイナーであるHolly Fulton氏とBethany Williams氏、Phoebe English氏の3人が中心となり、「Emergency Designer Network(緊急デザイナーネットワーク)」を設立。Net-A-Porter(大手高級ファッションECサービス)やジョンスメドレー(英国ニットウェアブランド)など約100社の協力を得てPPEの提供を始めた。

この波は企業だけに留まらなかった。NHSの緊急病棟勤務の看護師が、最前線で働く同僚用にガウンを作るため、使い古したシーツなどの提供をFacebookで募ったところ、友人や知人から布が提供されただけでなく縫製を請け負う申し出もあり、さらにはその投稿がシェアされ続けた。それをきっかけに「For The Love of Scrubs(ガウンという愛のために)」というFacebookグループが結成され、ボランティア主導による医療用ガウンや帽子作りに乗り出した。自宅にミシンとインターネットさえあれば、型紙をオンライン上でダウンロードして縫製が可能で、一般家庭で作られたガウンがFacebookやInstagramに投稿されたことから瞬く間に支援の輪が広がり、Facebookの同グループのメンバー数は5万人以上にまで増えた。

このように、政府のPPE供給の不手際によって引き起こされた医療機関の危機的状況に対し、SNSやテクノロジーの恩恵によって企業や市民の枠を超えた早急なアクションが全国規模で巻き起こった。この経験は安価な海外生産に頼っていたアパレル業界にとって、自国で生産することの誇りを思い起こさせるきっかけともなり、「サステナブルなものづくりの可能性」を示す事例となったことも付け加えておきたい。