米焼酎が地元の美しい田園風景を守る

ねっか奥会津蒸留所の設立メンバーが蒸留酒にこだわるのには、大きな理由があった。そのことを教えてくれたのは代々農業を営んできた馬場さんである。

「われわれ農家にとって、米と日本酒というのは、その年に売り切らなければならない商品、という点では同じ。ところが常温保存できる蒸留酒は違います。ウイスキーなどと同じように、いい焼酎をいい状態で寝かせておけば、年を重ねるごとに味が良くなり、10年後、20年後には作りたてより商品価値が高くなるんです」

「この土地の作物で造ったものが次の世代に引き継がれて行く、そう思うと心が熱くなります」と語る馬場由人さん

こうした年月の積み重ねの大切さを馬場さんが実感したのは東日本大震災の時だったという。馬場さんは、米のほかに奥会津特産の南郷トマトを生産していた。しかし、原発事故による風評被害が懸念され、作っても売れるかどうか、まったく見当が付かなかったのだ。ところが、いざ出荷時期が近づくと、いつもの年と変わらぬ注文が届いた。馬場さんのところでは、親の代から50年にわたって南郷トマトを作り続けてきただけに、卸業者も販売店も、その品質や味を疑うことはしなかったのである。

「この信頼は自分で築いたものじゃなく、親から譲り受けたもの。だから私も子どもたちの世代に何かを残してやりたい。いつか米作りや酒造りをバトンタッチする時、もしも蔵の中に年代物の焼酎が残っていれば、それはきっと大きな財産になると思うんです」と馬場さんは話してくれた。

このほか、地域に蒸留所ができて、新たな酒米の需要が生まれることは、農家の経営にとっても大きなメリットになるのだという。酒造メーカーの注文に応じて作付けを行う酒米は、一般の人々が口にするうるち米のように価格変動の心配がなく、収入を安定させることができる。また、近年は高齢になって耕作をやめてしまう農家も増えていて、耕作放棄による農地の荒廃を防ぐため、馬場さんのような若い世代が多くの田畑を引き受けて大規模に農業を営むケースが増えている。そんなとき、酒米とうるち米とでは田植えや稲刈りの時期がずれるため、限られた人手や農機具を効率よく使いまわすことができる。地域に酒蔵ができることには、こんなメリットもあったのだ。

海外でも高い評価を得た米農家の作る焼酎

2017年1月、特産品焼酎製造免許の交付を受けたねっか奥会津蒸留所では、すぐに焼酎作りを開始し、2月には初蒸留、そして4月には初出荷にこぎ着ける。こうして生まれた米焼酎「ねっか」の特徴は、何よりも米へのこだわりにあると脇坂さんは言う。

麹の塊をこなし均一にする「切り返し」という作業。蒸米を麹室に広げ麹菌をかけて一定の温度・時間を保ったのち行われる
自分たちで育てた酒米に清酒用の麹菌を使用して作られる麹。蒸留までの工程は吟醸酒を作るのと変わらない贅沢な造りだ

「日本有数の豪雪地であり、周囲をブナの原生林に囲まれ、昼夜の寒暖差が大きく、清らかで豊かな水に恵まれた只見町は、米作りに最適の土地です。そのうえ、われわれは自分たちで米を作っているのですから、その強みを焼酎作りにしっかり生かしていこうと考えたのです。ねっかシリーズのひとつである『ばがねっか』では、酒米を60%まで削っています。これは吟醸酒を作る時とまったく同じ精米歩合で、通常ではありえないほど贅沢な作り方なんですよ」

まるで純米吟醸酒を作るように精米・発酵させた醪を減圧蒸留すると、フルーティな香りが際立つ米焼酎が生まれる。ちなみに醪から蒸留される米焼酎の量は、同じ量の醪から絞り出される日本酒の半分ほどにすぎない。だからこそ、そこには米の旨味や吟醸香がたっぷりと凝縮されるのだ。

左から、精米歩合60%まで削って仕込んだ「ばがねっか」、100%自社米と福島県が開発した酵母を使って作り上げた代表作・米焼酎「ねっか」、もち米を掛米に使用した甘みのある「めごねっか」(写真提供:ねっか)

この年、イギリスで開かれた世界的に権威のあるコンペディションのひとつ、IWSC(International Wine & Spirit Competition)に出品、米焼酎ねっかはシルバーメダル(焼酎部門)を受賞した。発売からわずか3カ月後の出来事である。さらに2018年にはアジア最大級の酒類コンクール・香港IWSC(HK International Wine & Spirit Competition)の焼酎部門でゴールドメダルを受賞、さらに2019年には国際ワインコンクール(CINVE)がスペインで行った第1回CINVE日本酒・焼酎コンテストの焼酎部門でGRANDCINVE最高賞を受賞するなど、海外でも非常に高い評価を得ている。

現在はロンドンでも販売されていて、そこでは輸送コストや税金がプラスされるため9300円(720ml/国内では1500円)というプライスタグが付けられている。この値段でも十分商売が成り立つということは、ねっかの商品価値はもちろん、日本の米焼酎が持つ可能性の高さを示すものとも言えるだろう。